元気なうちに考えておきたい、医療との向き合い方

玉置妙憂さんに聞く いい病院・いい医師とは?

雑誌「ハルメク」

がん患者やその家族らの医療相談も行っている、看護師と僧侶の二つの肩書をもつ玉置妙憂(たまおきみょうゆう)さん。「いい病院」や「いい医師」を求める声が多く寄せられるといいます。そもそも「いい医療」って一体何なのでしょう?

玉置妙憂さんに聞く いい医師・いい医療とは
【目次】
  1. 「いい」のものさしは人それぞれ
  2. 元気なうちに自分の意思と向き合う
  3. お釈迦様が残した「自灯明」と「法灯明」
  4. まずは「1日5分の振り返り」を
  5. 医師だって人さまの命と向き合うのが怖い

「いい」のものさしは人それぞれ


人生は判断の連続です。「夕飯の献立をどうするか」なんていうささいなものから、「どの家を買うか」なんていう大きなお金が動くものまで。これまでみなさんもさまざまな場面で判断を下してきたことと思います。中でも、命や健康に関わる判断となると、きっと多くの人が悩み、迷うことでしょう。

私が患者さんからよく受けるのが、「いい病院を教えてください」「いいお医者さんを知りませんか?」という相談です。でもこの質問は毎回答えに窮してしまいます。「いい」のものさしは人それぞれで、私の価値観ではお話しできないからです。

週刊誌などで紹介される「いい病院」のランキング企画は人気なのだそうですが、ああいった情報は大抵、手術数の実績を基準にランキングされています。「実績が多い病院=いい病院」と思う人には参考になる情報でしょうが、入院したときにきちんとケアしてくれる看護スタッフがいることを望む人、家から通いやすいことを条件にしたい人には、このランキングはあまり参考にならないと思います。

要は、あなた自身が医療機関や医療者に何を望み、よしとするか。結局「いい」の判断はそれ次第なのです。ですから、「いい医療」と巡り合いたいなら、自分が求めるものが何かを整理することが大事です

元気なうちに自分の意思と向き合う

治療法の選択については、判断が難しい時代になってきています。医療が進歩し、一つの山に登山ルートがいくつもあるのと同様に、治療法も一つとは限らなくなっているからです。

「インフォームドチョイス」という言葉をご存じですか。医師が、選択可能な治療法とそれらのメリット・デメリットをそれぞれ患者側に説明し、患者自身の責任で選択してもらうという方法です。あくまで医師は説明をするのみで「こっちがおすすめですよ」なんていうところまで口を出しません。医療現場では、このインフォームドチョイスが一般的になってきています。がんの場合なら宣告を受け、約1か月の間に治療法を患者が自ら選択し、決定しなくてはいけないわけですから、これは患者にとって大変厳しい話です。

では、どうしたら命に関わるような大事な判断を、自分らしく下していけるようになるのか。

まず、元気なうち(=平常心でいられるうち)から、漠然とでいいので自分が希望することをイメージしておくことです。例えば、私は「がんになったら、つらい抗がん剤治療より放射線治療を選びたい」とイメージしています。〝そのとき〟になったら、イメージしていたことが変わるかもしれない。それでもいいのです。一度自分の意思と向き合っておく。そのことはきっと、後に判断する上でのトレーニングになるはずです。

お釈迦様が残した「自灯明」と「法灯明」

医療との向き合い方を考えるとき、「自灯明(じとうみょう)」「法灯明(ほうとうみょう)」という仏教の言葉が頭に浮かびます。お釈迦様が亡くなるとき、最後に残した言葉です。

弟子たちが「あなたがいなくなってしまったら、私たちは何を頼りに生きていけばいいのでしょうか」と悲しんでいると、お釈迦様は「私の教え(法灯明)をもって自分の中に明かりを灯し、その明かり(自灯明)を頼りに生きていきなさい」と答えたと言われています。つまり、あくまで法灯明は自灯明を灯すための材料でしかない。お釈迦様の教えだけに頼って生きるのではなく、教えをもとに、自己を指針として生きていきなさいとおっしゃられたのです。

医療での判断の話に立ち返ると、医師の説明や雑誌やテレビで得た情報などを法灯明に置き換えることができます。情報は判断するために必要ですが、ただうのみにするだけではいけません。その情報をどう受け止めるのか自分の中で向き合ってこそ、自分が本当に進むべき道が見えてくる。法灯明だけで判断をしていると、結局何かあったときに他人のせいにしてしまいがちです。

「本に書いてあったから」とか「あの人が言っていたから信じたのに」と、最終的に自分が決めたことのはずが、自分以外に責任を転嫁してしまう。でも、他者は責任なんて取ってくれません。他者のせいにしている以上、結果が腑に落ちず、苦しむ時間が続いてしまうのです。

まずは「1日5分の振り返り」を

自灯明を灯す練習として、「1日5分の今日の振り返り」をおすすめします。

スマホやテレビなどから情報が絶えず流れている現代社会では、無意識のうちに情報収集にばかり意識が向いていて、得た情報を整理する時間が持てていません。集めた情報の中で不要なものは捨てる、という練習をしてみましょう。静かな部屋でその日に聞いたこと、読んだ内容など触れた情報を振り返ってみます。そして、その情報に対して自分がどう感じるのかを自問自答してみる。「あの話は怪しいな」とか「あの言葉は忘れずに胸にとどめておきたいな」とか、それだけで十分です。

医師だって人さまの命と向き合うのが怖い

医療現場で働いている人間として、ぜひみなさんに心得ておいていただきたいことがあります。それは、医師と患者は対等の関係であるべき、ということです。対等といっても、決して患者が医師と同じ知識量を持てということではありません。医師に対して「治してくれて当然」という姿勢ではなく、「私のこの局面を乗り越えるためにあなたの知識と知恵と技術を最大限に貸してください」という姿勢で医師と向き合い、結果の責任は持つぞという覚悟を見せる。そういう関係性です。

態度が悪い、冷たい、そんな医師の事例がメディアでしばしば取り上げられていますが、医師も血の通った人間。人さまの命と向き合うことは、やっぱり怖いのです。怖いから防御態勢に入ってしまう。手術前に神棚に手を合わせている医師を見ていると、「医師は神ではなく人間なのだな」と改めて感じます。かといって、医師に媚びへつらう必要はなく、自分の命なのだから最後は自分で腹をくくる、そういう覚悟を見せるだけで、医師との関係はうまくいくはずです。

医療において自分が判断した道を信じるということは、一番の“特効薬”のように思います。「この薬は効く」と患者が強く信じて服薬すると、本来の効果以上にいい効果が出る、なんてことも医療現場ではしばしばあります。自分の選択に対して「もし違う道を選んでいたら」と迷う気持ちはわかりますが、仮定の話で思い煩っているより、どんな結果になるにせよ自分の選択を信じ、今という時間をポジティブに過ごしている方がずっと幸せだと思うのです。

考え、悩み、覚悟を持ってたどり着いた道は、どんな道であれ、あなた自身の人生において「花道」になるはずです。

 

玉置妙憂さん


玉置妙憂(たまおき・みょうゆう)
東京都生まれ。看護師であり、僧侶。「一般社団法人介護デザインラボ」代表。夫の看取りをきっかけに、その死に様があまりに美しかったことから、開眼。高野山真言宗にて修行を積み、僧侶になる。講演会やシンポジウムなど幅広く活動。著書に『まずは、あなたのコップを満たしましょう』(飛鳥新社刊)他。

構成=小林美香(ハルメク編集部)

※この記事は、「ハルメク」2019年2月号連載「こころのはなし」を再編集しています。

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