元結不動 密蔵院・住職 名取芳彦さんが教える

人間関係のストレスに負けない3つの心得、5つの行い

雑誌「ハルメク」

人間関係のあるところにイライラ・もやもやは、ありますよね。「心穏やかになるために修行を積むのが仏教」とおっしゃる、住職の名取芳彦さんに日頃の心得と、イラッとしても平穏を取り戻すための行動を教わります。

名取芳彦さん
【目次】
  1. 心穏やかに人と付き合うために、すべき行い
  2. イラッとしたら。気持ちをリセットする5つの行い
  3. よくある「イライラ・もやもや」の対処法
  4. 【子どもへのイライラ・もやもや】
  5. 【自分へのイライラ・もやもや】

心穏やかに人と付き合うために、すべき行い

元結不動 密蔵院

人間関係のイライラ・もやもやは相手あってのことですが、ひもといていくとそれは「自分の心の問題」です。私の寺のご本尊はお不動様で「心を不動にしろ、心を決めろ。されば行動ができる」とお説きになります。ここで言うなら「穏やかでいたい」と心を決めろ、ということです。それをしっかり意識できれば、自分が穏やかであるために、我慢してもするべきことと、我慢してやってはいけないことがある、と見えてくるはずです。

最近みなさんは、「お先にどうぞ」といつ言いましたか。人間関係で大切なのは、この「お先にどうぞ」の心構えです。イライラの原因はたいてい、相手の都合と自分の都合のぶつかり合い。狭い橋をあっちとこっちから渡ってきて譲り合わないようなものです。そのときに「お先にどうぞ」と相手の都合を優先して、自分は避難することで、心に決めた「穏やかでいたい」は守られます。それでもまだ、どうして私が譲らなきゃならないの!と思う方に申しましょう。譲ったところで、結果に大した違いはありませんよ。

こんな昔話もあります。ある殿様が、人と付き合うにはどうすればいいかと問われて「四角い重箱にみそを詰め、丸いしゃもじですくうようにすればいい」と答えた。四隅にみそは残るけれど「そのくらいがいい」と。四隅をつつかない。完璧を求めれば、自分がつらくなるだけです。

それでもイライラ・もやもやが去らないなら、悩むより「考える」こと。“悩む”に出口はありませんが“考える”は、出口を求めて行動することです。自分は相手の何に対してイライラするのか、自分に問いかけ、原因を明らかにする。そうすれば「穏やかでいたい」ためにすべき行動が見えてくるはずです。
 

イラッとしたら。気持ちをリセットする5つの行い

 

元結不動 密蔵院

  1. 手を合わせる
    邪念であちこちに散っている“気”が、手を合わせることで集中して、一つになります。いつでもどこでもできます。
     
  2. 散歩をする
    空を見る、花の香りに気付く、風を感じる、往来の人を見るなど、五感を使って感じ取りましょう。すると、生かされている自分に気付き、小事に惑わなくなります。
     
  3. 感じたことを20秒の言葉にしてみる
    散歩などして五感で感じたことを、身近な人に20秒でまとめて言ってみましょう。毎日続けると、気付きが増えてポジティブになれます。
     
  4. カレンダーに「何もしない日」と書く
    ひまな時間こそ大事。あえてそうした時間を設けて、自分と向き合いましょう。夜寝る前に、何もしない5分間をつくるだけでもOKです。
     
  5. “おかげ”の数を数える
    どんな嫌なことがあった日も、何かしら、いいことはあります。それはすべて何かのおかげ。その数を数えてみてください。

よくある「イライラ・もやもや」の対処法

元結不動 密蔵院

【友人関係のもやもや】

「友達に嫌われたくないし、言いたいことが言えません」

「わかる」(共感)と「同意」を分けて考えること

飲食店などで、聞くともなしにご年配の女性たちの会話が耳に入ってくることがあります。「~と思わない?」「わかる、わかる!」。
そもそもノーと言わせない言い方なので、そう答えてしまうのでしょうが、“わかる”は「共感」であって「賛同」とは違います。“あなたがそういう気持ちだということはわかった”までの意味です。ですから自分の意見が違っていて、それを伝えたいならば、「わかる」と言った後に言えばいいのです。それでぶち壊れるようなら、そこまでの仲なのでしょう。大事な友達との関係が共感と賛同のどちらもないと続かないなら、あなたは何も言わないと心を決めることです。
 

【子どもへのイライラ・もやもや】

元結不動 密蔵院

「子どもが結婚しない。非正規社員なので将来が心配です」

心配ではなく心配りを。

心配というのは、厄介な往復はがきみたいなものです。なぜなら、子どもに「私の期待通りの返事がほしい」と言っているようなものだから。必要なのは心配ではなく“心配り”です。一字違いですが、心配りは見返りを求めません。

もし、心配で、お子さんと話をしていない方は「あなたのことを心配しているのだけど、そんな心配をしている私のことをどう思う?」と言ってみましょう。お子さんは「心配しないで。自分なりにこう考えている」と、答えるはずです。あとは本人に任せましょう。“心配り”するなら、例えばあなた自身が夫と仲良くして、結婚はいいものだと見せつけることです。

 

「家で一緒にいると夫の言動や存在にイライラします」

ズレがあるのは夫婦の醍醐味。諦める(明らかにする)ことです。

 

定年退職した夫が一日中家にいるようになると、こんな声が聞こえてきますね。夫婦はもともと違う人間です。違いをすり合わせて妥協して生きていくのが夫婦の醍だい醐味ごみ。“諦める”が肝心なんです。

諦めるとは「明らかにする」という意味です。明らかにするために、夫にあなたが疑問に思うことや、あなたがしてほしいことを言ってみることです。夫の考えが見えてくるし、「あなた自身が穏やかでいたい」ために妥協することもわかるでしょう。「言わなきゃわからないの?」とカチンとくるかもしれませんが、わからないんですよ。どうぞ言ってあげてください。

 

「家族であれ友であれ、迷惑をかけたくないと思ってはいるものの……」

迷惑かどうかは相手が決めるもの。求めてみればいい。

「人に迷惑をかけたくない」。年を取ると、そのようにおっしゃる方が多いですね。でも、実のところは、ちょっとは助けがほしいようです。

迷惑かどうかは、相手が決める問題です。迷惑をかけたくないと気を付けられるほどの方ならば、「迷惑かもしれないけれど」と一言前置きをして、お願いしてみたらどうでしょう。「そんなことないよ」と言ってくれる人は大勢いて、だいたい収まります。

それに、生きていくのに迷惑をかけるのは当たり前。お互いさまです。子どもなんて、さんざん迷惑をかけられて育ててきたのでは? 最後くらい、迷惑かけてもいいんじゃないですか。

 

【自分へのイライラ・もやもや】

元結不動 密蔵院

「懸命にやっても自分はダメだと嫌になります」

「情けない」と気付くこと自体が素晴らしい。

家族の介護をしているときに、つい声を荒らげてしまって自己嫌悪に陥る、という話を聞きます。一生懸命大変なことをしていらして、時にそのようなこともあるでしょう。「自分が情けない」と思ったあなたは、情が厚く優しい人です。

言いたいのは、自分のことに気が付いていることの大切さです。一日の終わり、一人になって、イライラやもやもやを振り返り心の整理整頓ができているから、「情けない」という気付きが生まれます。昨日は悪いことをしたと思えれば、次の日に「ごめんね」と声が出るでしょう。この気付きがあれば、何事も少しずつ改善していきます。

 

「病気になったり老いていく自分がつらくて……」

あなたには変化を楽しむ素質が備わっています。

仏教では、諸行無常といって、すべては条件によって変化する、変わらないものは何一つないと説きます。病気という条件が加わって状況が変化する、体のあちこちにガタがきて、今までできていたことができなくなる。それも変化という意味では変わりません。

うれしいことに、私たち日本人は、四季折々の変化を楽しめる精神的な土壌を、すでに持っています。あなたには変わることを楽しむ素地があるのです。今まで1時間でできたことが3時間かかったら、面白いもんだな、それだけ丁寧にできるようになったのかなと考えてみる。自分の変化を受け入れ、楽しむ習慣をつけませんか。

名取芳彦(なとり・ほうげん)
1958(昭和33)年、東京都生まれ。元結不動・密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。写仏、ご詠歌、法話・読経、講演などを通し幅広い布教活動を行う。日常を仏教で“加減乗除”する切り口は好評。『感性をみがく練習』(幻冬舎刊)『心が晴れる智恵』(清流出版)など、著書多数。
 

 

取材・文=前田まき(編集部) 撮影=有賀傑 ※この記事は「ハルメク」2019年2月号に掲載された内容を再編集しています。

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