自称「オタクな主婦」が、漫画・映画について語ります

本当は哀しい手塚漫画―子ども時代の私とアトムたち

K・やすな
2018/12/25 6

リアルタイムで手塚治虫を読み、東映動画を見て育ち、累計鑑賞映画本数は1500本以上。「漫画・映画・アニメは私にとって酸素のようなもの」と話すK・やすなさんが、溢れる漫画愛をつづります。今回は原点である手塚治虫作品について。

手塚治虫を振りかえる
【目次】
  1. 手塚作品は、何かが心に引っかかったような読後感
  2. 『双子の騎士』『エンゼルの丘』コワイおばさまたち
  3. 戦闘シーンでも胸がワクワクしない『鉄腕アトム』
  4. 哀しい目をした異端者たち
  5. 本日の作品

手塚作品は、何かが心に引っかかったような読後感

漫才、漫談、そして漫画。だから「漫」 という字は「おもしろおかしいもの」という意味だと、子どものころから思い込んでいました。ところが漢和辞典で調べてみたら、そういう意味はなかったのです。

漫:

  1. ひろい
  2. はびこる
  3. みだり。かってきまま
  4. 広くゆきわたる
  5. とりとめがない ……などなど(大修館書店  新漢語林より)

石ノ森章太郎が、後年「漫画」の持つコミカルなイメージから離れるために、自作を「萬画」と称するようになりました。しかし本来の意味から考えたら、「漫画」でもよかったのですね。

私は子どもの頃から、かなりの手塚治虫の作品を読んで育ってきました。私にとって手塚漫画は、「楽しい」というより「哀しい」とか「悔しい」「怖い」という、何かが心に引っかかったような読後感をもたらしました。それでもなお読み続けてきたのは、他の魅力もたくさん作品の中にあったからでしょう。

今回は、当時感じていて、今でも心の底に残っている気持ちを思い出してみました。

『双子の騎士』『エンゼルの丘』コワイおばさまたち

『森のおかあさま』「ピョーマさま」。
話は忘れかけていても、呪文のように私の頭の隅にある言葉です。お二人とも女の子をいじめるコワーイおばさまなのです。

「森のおかあさま」は『双子の騎士』に出てくる森に住む魔女で、脇役の悪役。大人になって読み返したら、妖精たちに偉そうにしているくらいで、それほど悪逆非道なことをしているわけではありませんでした。

昭和の普通の家庭で育った私にとって、この頃の「おかあさま」と呼ばれている人のイメージは、継子をいじめて、バレエのレッスンに厳しく、早く亡くなっていたり、行方不明だが実は大女優といった人たち。一体何の影響なんだか(笑)。

それに「森」。ここも場所ですね。狼やらお化け屋敷やら、読んでもらった絵本には怖いものがたくさん潜んでいました。

頭の中でこのふたつが合体して、怖いイメージだけが生き続けているのでしょう。

「ピョーマさま」は『エンゼルの丘』の悪役の女性です。人魚族が住む南の島国を我が物にしようと、王族のヒロインを苦しめます。猛獣の「ピューマ」を思わせる不思議な響きが、怖さを増幅させます。

大人になってから、このキャラクターたちよりも怖ろしい女性に現実で出会いましたが、印象度が全然違います。子ども時代の心って不思議ですね。

手塚治虫を振り返るレビュー

戦闘シーンでも胸がワクワクしない『鉄腕アトム』

ヒーローが悪役をやっつける場面に胸を躍らせる読者は多いでしょう。悪を滅ぼし、めでたしめでたしで、読んでスッキリ! これも漫画の楽しみの一つです。

でも私は小学生のころから『鉄腕アトム』を読んでいて、そう感じたことはありませんでした。敗者たちの姿がトゲのように心に刺さって消えません。

「エジプト陰謀団の秘密の巻」でアトムに破壊される、スフィンクス型ロボットの悲しげな目が印象深く、このあとしばらくはノートにこのロボットの絵を描いていたこともありました。

「ホットドッグ兵団の巻」は、優秀な犬をさらって皮剥いでロボットにしちゃう……という設定からしてアウトな話。愛犬をロボットにされたヒゲオヤジの悲しみが、自分のことのようでした。

「地上最大のロボットの巻」(後に史上最大の…に改題)は、この話をベースにして、浦沢直樹が『PLUTO』という長編を描いたのでご存知の方も多いかもしれません。さらに『PLUTO』は舞台劇にもなりました。

悪い科学者(お約束?)が作った巨大ロボットプルートゥは、世界中の有名な強いロボットを次々に破壊していきます。

そのなかで「イプシロン」という、子ども好きなロボットが出てきます。彼は、プルートゥから子どもたちを守るために、やむなく戦います。結局破壊されてしまいますが、その時に、守った子どもの身体に抱きかかけたままの両手だけが残るのです。

子どもの私は、自己犠牲というものを視覚から感じてしまって、このシーンは特に印象的でした。この場面は「PULUTO」にもしっかり反映されています。さすが浦沢先生、わかっています!

ロボットそれ自体は善でも悪でもありません。使う人間によってどちらにもなれます。むしろ彼らは犠牲者で元凶はほかにいるという、現実世界の割り切れなさを早々と『鉄腕アトム』によって知ってしまったのでした。

哀しい目をした異端者たち

残念ながらもう、手塚作品の新作を読むことはできませんが、手塚治虫の描くキャラクター。特に美男美女タイプは、これからの悲劇や苦難を予感させる顔立ちでした。

そして多くが「異端者」です。

ロボット、狼少年、言葉を話すライオン、異形の仏師、もぐりの医者、宇宙人……きりがない!! 彼らの話を通して、様々な人々の生き方や取り巻く大衆の愚かさや残酷さも私に伝わっています。

手塚治虫は、少年少女誌に作品を発表していても、そのメッセージは決して子ども向きに妥協したものではなかったということを、あらためて感じます。
 

 

本日の作品

手塚作品は、同じ作品でも複数の出版社から出版されているものが多いので、初出年を記載しました。

『双子の騎士』1958年1月~59年6月

『エンゼルの丘』1960年1月~61年12月

『鉄腕アトム』より
「エジプト陰謀団の秘密の巻」1959年
「ホットドッグ兵団の巻」1961年
「地上最大のロボットの巻」1964年

 

『PLUTO』全8巻 浦沢直樹(2003年~2009年)小学館刊


次回予告

「オノ……ヨーコじゃなくてオノ・ナツメ」

漫画を読んだことがなくても、ベストセラー「のぼうの城」の印象的な表紙を覚えていらっしゃる方はいるかも。

イタリアのリストランテの素敵な眼鏡のおじさまから、江戸の粋な盗賊まで。無駄のない線、余計な説明のないコマ運びでどんな世界でも魅力的なオノワールドへご案内!
 

K・やすな

福岡県 /62歳
福岡県 /62歳

漫画、アニメ、映画鑑賞、読書が趣味の自称「オタクな主婦」。子どものころは考古学者か漫画家志望。美術館めぐりや街歩きも好きだが、基本的に単独行動。なぜか、どこへ行っても道を尋ねられる。好きな花はカワラナデシコ。

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