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- 「サード・プレイス」のすすめ
若い頃に思い描いた未来と、目の前の現実があまりにもかけ離れているように思えて、途方に暮れた時期がありました。 今思えば、人生の転機の始まりだったその頃のことを、書いてみたいと思います。
ちいさな奇跡
3人の子育ても、ようやくゴールが見えてきた50歳目前。それまで順調だったいくつかのことが、うまくいかなくなったり、突然終わってしまったり、と続きました。
家族がいない昼間、家で一人「なぜこうなってしまったのか」「これからどうすればいいのか」後悔や不安、焦りでいっぱいでした。 安心してくつろげるはずの家が、だんだん息苦しく感じるように……。
そんな時、偶然家から車で十分ほどの山際に、ある茶房を見つけました。
そこは日常とは別世界。蔵書が壁面いっぱいに並び、野の花がそっと飾られている静かで素敵な茶房でした。
自宅からそう遠くない場所でありながら、それまでそこに茶房があることを知りませんでした。大げさですが、平凡なわたしにとっては、ちいさな奇跡と思えるほどの発見でした。
わたしがいつも行く月曜の朝は、たいてい客はわたし一人だけ。一番端の窓際の席に座り、ただぼんやりと窓の外の木々や鳥たちを眺め、自分の心と向き合う時間を過ごしました。
専業主婦にとって、自宅は仕事場でもあります。そういう意味で、その茶房はわたしの「サード・プレイス」と言えるでしょうか。
※サード・プレイス/アメリカの社会学者であるレイ・オルデンバーグ氏が、1989年に著書『ザ・グレート・グッド・プレイス』の中で提唱。自宅でも職場でもない、居心地のいい「第三の場所」のこと。
動き出す
そうして週に一度、茶房に通う日々が続き、日常のすべてから自分を切り離して何もしない時間を過ごすことで、少しだけ元気を取り戻したわたし。
「これまでの人生、自分なりにベストを尽くし、やれることはやり切った。ここからまた、自分らしく生きてみよう」と思えるようになりました。自分軸で生きる人生が、動き出した瞬間です。
もしも、ずっと家の中で閉じこもって悩み続けていたら、きっとこんなふうに前を向けなかったと今でも思います。わたしは日常から離れる時間を持つことで、目の前の現実を受け止め、一歩踏み出すことができました。
すぐそこにあるもの
残念なことに、もうその茶房は閉じてしまいましたが、最後に茶房夫人より「ステキな止まり木が見つかりますように」というメッセージと、茶房で使われていた器をいただきました。
その出来事が、常に時は流れ変化し続けるものだということを、わたしに教えてくれました。
今この瞬間も、限りある人生を生きていると思うと、たとえ心配や不安の中にあっても、それを物ともせず、むしろそんな人生を楽しめる自分でありたい……。
今のところ、あの茶房のようにすてきな止まり木を見つけられずにいます。けれど、今もその時間を思い出すだけで、前を向く力をもらえているような気がするのです。
「サード・プレイス」は、どなたの周りにも存在すると思います。
通り慣れた道から少し違うところに足を向けてみると、すぐそこにちいさな奇跡があるかもしれません。
安心して羽を休められる場所、探してみませんか?
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