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2023.02.112023年02月25日
一筋縄ではいかない、大人のロマンス
映画レビュー|本格ミステリーロマンス「別れる決心」
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回は、「パラサイト」のポン・ジュノと双璧をなす韓国の秀英パク・チャヌクの新作。人間の愛という感情を見事に掘り下げている作品です。
「別れる決心」
「パラサイト」(2019年)のアカデミー賞受賞以来、世界的な注目を浴びている韓国映画から、また一つ傑作が登場した。
「パラサイト」のポン・ジュノと双璧をなす韓国の秀英パク・チャヌクの新作「別れる決心」である。2022年5月のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した本作は、本国でも大ヒット、また欧米の映画賞も席巻している。
物語はある男の転落死の捜査を有能な刑事ヘジュン(パク・ヘイル)が担当したことに始まる。事故か他殺か。両面で捜査が進むなか、疑惑の目が向けられたのが被害者の妻ソレ(タン・ウェイ)である。
中国からの難民であるソレは、年の離れた夫からDVを受けていたのだ。捜査が進むうちに、ヘジュンとソレとの間には特別な感情が生まれ、お互い口には出さないものの意味深なやり取りが続く。ソレのアリバイは証明され、ヘジュンは妻の勤務地であるイポという海辺の町に転任するが、ある日、妻と出掛けた魚市場で新しい夫を連れたソレと再会する。
複雑に絡み合うこうした本格的な大人のミステリー・ロマンスを見るのは久しぶりだ。古典的ともいえるが、“古臭い”わけではない。謎めいた仕掛けやビジュアルの遊びがあちこちにちりばめられ、まったく退屈しない。
物語の舞台である山、海などの景観も美しいが、その中にもさまざまな伏線が張られている。
印象的に流れる劇中歌は韓国では誰もが知っている名曲「霧(アンゲ)」。まさに二人の揺れる愛は、霧の中を手探りで進むように頼りなく危うい。危なげない人生を送ってきた高潔なエリートの男が、愛に迷い、堕ちていく様は哀しくもあり、一種のおかしみも含む。
パク・チャヌクといえば、「オールド・ボーイ」など復讐三部作で知られるが、ここでは人間の愛という感情を見事に掘り下げている。
「別れる決心」
男が山頂から転落死した事件の捜査を始めた刑事へジュンは、被害者の妻ソレに疑いの目を向けるが、やがて二人の間にはある感情が芽生え始める。その後、事故死と認定されソレの容疑は晴れるが……。
監督/パク・チャヌク
出演/パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ他
製作/2022年、韓国
配給/ハピネットファントム・スタジオ
2023年2月17日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他、全国公開
https://happinet-phantom.com/wakare-movie/
今月のもう1本「すべてうまくいきますように」
芸術や美食を愛し人生を謳歌していた父が、脳卒中で倒れたことをきっかけに安楽死を決意する。順調に回復し、レストランにも出掛けられるようになったにもかかわらず、意思を曲げない父親に娘たちは戸惑う。
フランスの名匠フランソワ・オゾンが、朋友だった脚本家の女性が自らの家族の体験を描いた小説をもとに映画化した。ソフィー・マルソー演じる娘の視点から語られる物語で家族の愛と死の意味を深く考えさせられる。
監督・脚本/フランソワ・オゾン
出演/ソフィー・マルソー、アンドレ・デュソリエ、ジェラルディーヌ・ペラス、シャーロット・ランプリング、ハンナ・シグラ他
製作/2021年、フランス・ベルギー
配給/キノフィルムズ
2023年2月3日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町他、全国公開
https://ewf-movie.jp/
■文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。
※この記事は2023年3月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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