小泉今日子さん「恋や愛とは違う男女の関係になって」
2024.11.232024年11月22日
映画「海の沈黙」で考えた「本物」の価値
小泉今日子さん「自分の心を動かすレッスンが必要」
脚本家の倉本聰さんが原作と脚本を手掛け、本木雅弘さんが主演を務める映画「海の沈黙」(2024年11月22日公開)に出演した小泉今日子さん。今や俳優であり作り手でもある小泉さんに自分なりの「美しさ」「本物」の見つけ方について伺いました。
本物かニセモノか・・「価値」は誰が決めるのか?
倉本聰さん原作・脚本の映画「海の沈黙」は、美とは何か、その価値は誰が決めるのかといったテーマを深く考えさせられる作品です。倉本さんが60年にわたり構想した渾身のドラマ。この映画で小泉今日子さんは、主人公の画家・津山竜次の昔の恋人・安奈(あんな)を演じています。
――脚本家の倉本聰さんが長年構想を練ってきたという映画です。出演の決め手は?
小泉今日子さん(以下、小泉今日子)
台本を読んで、倉本さんがこの映画で訴えたいと思うテーマに共感したのが一番の理由です。
そんな作品になぜ私を選んでくださったのかと考えたときに、美しいものとか、本物かニセモノかの「価値は誰が決めるか」というテーマに対して、きっとこの人なら共感してくれると思われたのかな、と感じました。
倉本作品は、ドラマ「優しい時間」に少しだけ出ましたが、その後はチャンスがあっても出演できなかったので、心残りとも思っていましたし、主人公が本木雅弘さんであれば、きっと素敵になるだろうなと思って、何とかスケジュールを合わせました(笑)
私たちには「自分の心を動かす」レッスンが必要
――人間にとって「美」とは何か。小泉さんは映画を通じて、どう思われますか?
小泉今日子
この話は、約60年前の実際の事件をもとに、倉本さんが書かれているんですよね。
今は美の価値の基準もどんどん変わってきました。SNSなどで情報が増えて、価値がより強く左右されるようになってきたように思います。
それが人間の心理なのかもしれないけれど……。
映画の中では、萩原聖人さんの演じる学芸員が本当の美の価値を知っている人として描かれています。彼の「たとえ贋作であっても素晴らしいと思う」と言う、そういう目をもった人が本当の価値を知っている人だと思いました。
私もね、子どもの頃から個性を尊重してくれる家庭で育ったので、自分の価値基準を譲らない性格を少し持っていると思うんです。
そういう部分を忘れないようにしていきたいなあって。
――「自分の価値基準」に従って行動する。意外と難しいことですね。
小泉今日子
もちろん情報に流されることはあるけれど、偽物でも本物でも「自分の心が動く」ものが大切。そういうレッスンがいま改めて必要なんだと思います。
自分の信念を貫く人を、何も知らない人が冷笑する現代ですけど、それが後で間違っていたとわかって反省することもありますよね。
ピュアな思いで作品を作っている人を大事にしてあげたいですね。
自分なりの「美しさ」「本物」の見つけ方
――小泉さんは、私生活でもアートに触れる機会はありますか?
小泉今日子
20代の頃はお休みができれば海外にパッと行って、着いたらまず美術館巡りをしていました。
“本物”が見たくて、よく旅をしましたね。
今でも日本で開催している個展などで興味あるものは見に行きますし、画集などを見るのも好き。
最近は、福岡で活動している20歳の画家の描いた猫の絵を買って家に飾っています。ほかにも、友人のイラストレーター・エドツワキさんの作品や、写真家の佐内正史さんの作品も。
写真や絵画はよく買いますが、そのアーティストが流行っているから欲しいというのではなくて。元々そういうことが好きなんです。だからといってすごーく高い買い物をするタイプではないんですけれど(笑)
――どうすれば人の評価を気にせず「本物」を見分ける目を養えるんでしょう?
小泉今日子
普段から本当の芸術に触れる、感じる機会が少ないのかな、と思うんですよね。やっぱりたくさんのものを見たり知っているからこそ、その価値を感じられることもあるような気がします。
2023年7月にプロデュースした舞台「ピエタ」は、18世紀の爛熟期を迎えた水の都ヴェネツィアが舞台でした。美術、セット、衣装、音楽の美しさを全部入れてみたいと思って作りました。
例えば、生で聴くバイオリンの音は、直接骨に響くような美しい音色なんです。見る人に、そういう初めて聴くような、バイオリンの生の音を経験する機会を増やしてあげたいと思いました。
舞台を見てくれる誰か1人でも、その人の人生が変わる瞬間を作りたい。
誰かの心に触れたことを実際に私が知らなくてもいいけれど、そういうことのためにプロデュースをやっていると思っています。
――小泉さんご自身が、今一番心を突き動かされるものは、何ですか?
小泉今日子
とにかくポジティブなエネルギーを発する人が気になります。テレビの中にも音楽にも「ポジティブなパワー」が足りない。
複雑に見えるものがかっこよく見えるけれど、すかんと抜けていく明るさや、ポジティブなエネルギーに接すると、私は感動します。
小泉今日子(こいずみ・きょうこ)
1966年生まれ、神奈川県出身。1981年「スター誕生」に合格して、翌82年に歌手デビュー。「なんてったってアイドル」等数々のヒット曲を残す。その後、俳優としてドラマ、映画を中心に活躍。またエッセイなど文筆家としても定評がある。2015年自ら代表を務めるプロダクション「明後日」を設立。舞台・映像・音楽・出版とジャンルを問わず作品をプロデュースしている。
「海の沈黙」
2024年11月22日より全国ロードショー
巨匠・倉本聰が長年にわたって構想し、「どうしても書いておきたかった」と語る渾身のドラマがついに映画化!
世界的な画家の展覧会で起こった贋作事件。この絵を描いたのは一体、誰なのか? 同じ頃、北海道で全身に刺青の入った女の死体が発見される。この2つの事件の間に浮かび上がった男。それは、かつて新進気鋭の天才画家と呼ばれるも、突然人々の前から姿を消した津山竜次だった――。
人間にとって「美」とは何か? 私たちは人生の終わりに何を見つけるのか? 観客の心を揺さぶり続けてきた作家・倉本聰が描く集大成的作品が幕を開ける。
原作・脚本:倉本聰
監督:若松節朗
出演:本木雅弘、小泉今日子、石坂浩二、萩原聖人、中井貴一
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(衣装クレジット)
ニット 8万8000円/CINOH(MOULD 03-6805-1449)、ピアス3万5200円/PLUIE(PLUIE Tokyo 03-6450-5777)、リング 右・人差し指 1万9800円、薬指2万9700円、左4万700円/Rieuk(Rieuk info@rieuk.com)
取材・文=金田千里 写真=泉三郎 ヘアメイク=石田あゆみ スタイリスト=藤谷のりこ 編集=長倉志乃(ハルメク365)
自分でステキに思うものを見つけるのも普段からの目を養う必要があるんですね。お休みができると海外に飛んで美術館巡りをする今日子さん。素敵です!
映画「海の沈黙」が小樽で撮影されたことを新聞で知って、ずっと気になっていました。2005年から読売新聞の書評欄「本よみうり堂」で読書委員を務められていて、小泉さんがおススメする本をずっと追い読んでいました。そして、外れがなかったです。「自分の心を動かすレッスン」とても参考になりました。