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- 「よくあること」で済ませていいの?セクハラ問題の今
2018年上半期、セクハラ行為を巡り官僚や首長が辞任するケースが相次ぎました。事業主にセクハラへの配慮義務が規定されたのは1997年のことですが、現在も被害の実体は変わりません。この古くて新しいセクハラ問題の今日的意味を考えます。
ひとりの女性記者の声から、浮き彫りに
セクハラとは、セクシャル・ハラスメントの略で、性的嫌がらせの意味。相手の意に反する性的言動のことを指します。男女雇用機会均等法は、その対策を事業主に義務づけています。また国家公務員にも人事院規則を適用し、セクハラ防止を規定しています。
しかし、こうした規定がありながらも、国家公務員であった財務省の福田淳一前事務次官は、テレビ朝日の女性記者に、セクハラ発言を繰り返してきたことで、今年4月辞任に追い込まれました。財務次官が引責辞任をするのは、1998年の旧大蔵省の接待汚職事件以降、20年ぶりのことです。
この問題を受けて、メディア業界で働く記者や編集者、ディレクターらのセクハラ被害を明らかにする動きが相次いでいます。「メディアにおけるセクハラを考える会」(谷口真由美・大阪国際大学准教授)はSNSを通じて緊急調査を行い、新聞やテレビの記者やディレクター、タレントら35人から得られた150件の事例(複数回答)を公表しました。
それによると、被害者の100%が女性で、加害者は取材先である出演タレントや他社の記者など社外関係者が29%、警察や検察関係者が12%、国会議員や首長、地方議員ら政治関係者が11%、公務員が8%でした。また社内の男性上司が40%を占め、メディア内部にも立場の弱い女性職員へのセクハラが蔓延している実体が浮き彫りになりました。
霞ヶ関とメディア業界は40年遅れている
5月12日に東京都内で開かれたメディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会主催の「メディアと表現について考えるシンポジウム」では、テレビ制作の現場に女性のトップが1人もいない現状が、メディア業界のセクハラ体質や、いびつな表現を引き起こしていることが紹介されました。
フリーの放送作家のたむらようこさんは、「ババアは黙ってろ」「子育て中のママにバラエティのノリなんてわかるわけないだろ」と会議の席上で男性社員から罵倒された後輩の30代女性の経験を明かしています。ジャーナリストの白河桃子さんからは「霞ヶ関とメディア業界は40年遅れている」との話がありました。(2018年5月23日 ウートピ「炎上の影に『働き方』あり!メディアの働き方改革と表現を考える」よりhttps://wotopi.jp/archives/70735)
しかし、セクハラはメディア業界や官公庁に限ったことではなく、一般企業や学校、介護施設など、様々な組織でも幅広く発生しており、ハルメク読者にとっても無関係なことでは決してありません。
女性の社会進出が進んでいるとはいっても、会社等の組織内の意思決定層に従事する女性が相対的に少ないのが実情の中、部下である女性が男性上司の性的行動を拒むことで、不本意な部署へ配置転換をさせられたり、心や体の健康を害して退職せざるを得ない事例も見受けられます。
また被害者は女性に限りません。「結婚できないのは、仕事ができないからじゃないか?」などと、男性上司から男性部下に向かうセクハラもあります。過去の様々なセクハラの判例をみると、精神的に苦しみ、自殺を引き起こしているケースもあるのです。
セクハラを告発する運動「#Me Too」
古くからあったセクハラ問題が、最近になって急に注目されるようになった背景には、米ハリウッドで2017年秋頃から広がったセクハラを告発する「#MeToo」運動があります。
きっかけは、「英国王のスピーチ」などを手がけたハリウッド大物プロデューサー、ハービー・ワインスティーン氏が、数十年にわたり、女優やスタッフへのセクハラを続けてきたことが明るみに出たのです。(5月25日NHK /Eテレ「ドキュランドへ ようこそ!ハリウッド発 #MeToo~ワインスティーン スキャンダルの全貌~」より)
しかし、米国以上に男性中心の保守的な上下関係が根強い日本では、勇気を持って声を上げる動きは一部に留まり、大半が泣き寝入りをしている現状を知っておく必要があります。労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査(2016年、25~44歳の働く女性が対象)によれば、セクハラの被害経験者の63.4%が「我慢した。特に何もしなかった」と回答していました。周囲にすら声を上げることができていないのです。
極端に1人では声を上げづらい日本では、ハリウッド発の「#MeToo」運動はある程度までしか広がりませんでした。その代わりに、「#We Too」「#With You」と声を上げることで、勇気を出して声をあげた女性を1人にしない、一緒にがんばろう、という運動が生まれています。
「その程度のこと」と受け流さない空気へ
時代が流れているのに、相変わらず男性側には「その程度のことで」と、軽く受け流す空気も存在します。福田前事務次官のセクハラ行為を財務省が認定しているのにも関わらず、麻生太郎財務相は、「セクハラ罪という罪はない」などと主張し、世間の批判を浴びました。また、セクハラ問題で辞任した狛江市の高橋都彦市長も、「自分のやったことがセクハラのレベルにあるという認識はない」と、会見で答えています(2018年5月23日 朝日新聞デジタルより)。
こうした男性側の意識について、労働ジャーナリストの金子雅臣さんは、「加害者になった男たちは、なぜ非難されているのかを理解できず、自らの犯したセクハラを自覚できない」(2006年『壊れる男たちーセクハラはなぜ繰り返されるのかー』=岩波新書より)と、男性側の意識の低さを問題視しています。
ここで押さえておきたいのは、セクハラは、パワー・ハラスメントの一つの類型であり、男性優位の社会の中での上下関係や、力の強弱関係の中で起きる、重大な基本的人権の侵害だということです。JILPTのホームページによれば、フランスではセクハラに、拘禁刑や罰金などの罰則規定が設けられています。しかし日本の法律は、罰則規定がないのです。
だから、セクハラが社会の中で見過ごされがちになるのです。
今回のセクハラ問題への注目はつまり、これまで“社会の常識”として通用していた「セクハラはよくあること」という誤った考えから脱却し、セクハラは人間の優位性が引き起こす差別問題であること、「人権上、絶対に許されない」という罪の意識を徹底させていくためのきっかけを提供した、といえるでしょう。
日常的に、セクハラへの関心を高く保ち、小さな声をあげていくことが大切です。ハルメク読者の中には、過去あるいは現在、セクハラの被害経験を持つ方もいるはずです。あるいは性的な事柄を強要されるまでいかなくとも、例えば職場で「おばさん」などの人格を認めない呼称で呼ばれた経験や、「更年期か?」などの言い方をされたことはありませんか? 人事院規則では、こうした発言を受けることも、セクハラに該当するとしています。
人事院規則
セクハラにあってしまった場合は心の中に秘めておかず、打ち明けられそうな周囲の同僚や友人に聞いてもらいましょう。逆に職場の同僚や友人、あるいは娘や息子たちが、職場や学校で被害にあっているかもしれません。普段の会話で「これはセクハラ被害に該当するのではないか?」と思う事柄を発見した場合は、積極的に声をかけ、相談にのってあげましょう。
また、前半でメディアの制作者には男性が多いことを述べました。そのため、普段見ているバラエティ番組やドラマ、ニュース番組等で、セクハラ表現を発見することがあるかもしれません。テレビが差別的表現を拡散すれば、世間にセクハラを容認する間違ったイメージが広がる結果にも繋がりかねません。
番組の差別表現を発見した場合は、NHKや民放テレビ局でつくる放送への苦情や放送倫理問題に対応する第三者委員会「放送倫理・番組向上機構」(BPO)に、メールや電話、ファクスなどで、意見を送るのも一つの手です。BPOは寄せられた声を受け、番組を検証し、放送界全体、あるいは特定の局に意見を伝えてくれています。
放送倫理・番組向上機構(BPO)
こうして1人ひとりが、身近なところでセクハラの芽を摘んでいくことが、結果的に社会全体の潜在的被害者をなくし、多くの人が暮らしやすい持続可能な社会を築いていくことに繋がるのです。
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