心の持ちようを変えて、しなやかな強さを持つ女性に

今、どうしようもなく悩んでいる方へ

公開日:2019.07.12

更新日:2023.05.14

夫の突然死、知的障害のある長男の出産、下半身麻痺…どんなときも心折れることなく、しなやかに生きてきた岸田ひろ実さんの強さの秘訣は“心理学”にありました。セラピストでもある岸田さんが実体験から軽やかに生きるヒントを伝えます。

岸田ひろ実さんが心理学を学び始めた理由

みなさま、はじめまして。岸田ひろ実です。
ハルメクWEBのコラムを楽しみにしてくださっていた方はお久しぶりです。

私は車いすに乗っています。夫の突然死、知的障害のある長男の出産、病気の後遺症による自らの下半身麻痺などの経験から、私だからこそできることは何なのかを考え始め、私と同じように落ち込んでいる人の力になりたいと、病床で心理学を学びはじめました。

※岸田ひろ実さんの半生を知りたい方は、こちら「第1回「死んでもいいよ」から新しい人生が始まった」をお読みください。

今は人生の困難や障害との向き合い方について、日本国内のみならず、海外でも多くのみなさまに伝えるということができています。
 

落ち込んだとき、悩んだときに考えるべきこと

海 撮影=山下コウ太

1回目は、どうしようもなく悩んでしまったときの気の持ち方をお伝えしますね。

落ち込むことや悩むことがあると、思考がネガティブになりがちです。そういうときは、だいたい“過去”の失敗や“未来”の不安を想像し、プレッシャーに押しつぶされそうになってしまうからです。

でも、いくら過去の失敗を悔やんでも、未来に怯えても、仕方がないのです。なぜなら過去は変えられないし、未来は予想できないからです。

見方を少し変えてみましょう。

過去や未来をプレッシャーではなく、希望として捉えてみるのです。

過去、あなたが深刻に悩んでいたことを思い出してみてください。勉強、部活、仕事、恋愛、子育て……いろいろとあると思います。

でも、今振り返ってみると、どうでしょうか。

もちろん今も悩んでいることもあるかもしれませんが、だいたいのことは、過ぎてしまったことだと割り切れるのではないでしょうか。悩みの渦中にいた当時はなかなか気づけませんが、考えすぎていたことが杞憂に終わった経験もあるかと思います。

私は、落ち込んだり悩んだりする自分に気づいたら、「必要以上に考えない」ことにしています。

「必要以上に考えない」ようにするには、コツがあります。

1つ目は、今だけを見つめる、ということです。

落ち込んで、悩んで、考えてみても、変えられない現実はあります。自分の力ではどうにもできないことに気づき、前向きに諦めることも大切です。無理に現実へ抗わず、運命に流されようと開き直る。これが、今だけを見つめる、ということです。

私の場合は、手術の後遺症により歩くことができなくなったときは、すべてを失ったと思いました。術後、一人の力ではベッドから降りることはおろか寝返りすら打てず、人ではなくモノになったような気分になりました。絶望は膿のように広がっていき、やがて、誰からも必要とされなくなった、不甲斐ない私が悪いんだ、なぜ病気なんかになってしまったんだ、と過去の自分を責めるようになりました。この先の、自分の足で歩けない人生は不幸でしかない、死にたいとさえ思っていました。泣き疲れたある日、私はふと思いました。

今思うと、これ以上悲しみに暮れると心が壊れてしまう、という拒絶本能だったのかもしれません。急に、「私がいくら泣いても、過去を悔やんでも、足で歩けるようになるわけではない」と思いついたのです。

2つ目は、視点を変えてみる、ということです。

歩けないという現実は、私の力で変えることはできません。ならば、歩けないことを、私がどう受け取るのかが大事なのです。歩けないことは不便で悲しいことですが、歩けなくたって、できることはあります。プラス思考で考えてみることにしました。歩けなくなった私は、何がしたいのか、どんなふうに人生を歩んでいきたいのか、を考えることにしました。
 

あなたの願いは何ですか?

撮影=山下コウ太

3つ目は、願う、ということです。

もちろん、願って待っているだけで、すべてが叶うわけではありません。でも、願うというパワーが無ければ、行動に移す気にもなれないので、私は必ずこの願いを大切にしています。自分が強く願い、そしてその願いを具体的に想像すればするほど、実現の可能性が高まると言われています。いいように想像すれば、いい結果を引き寄せますし、悪いように想像すれば、悪い結果を引き寄せてしまいます。

漠然とした願いではなく、できれば、いつ、何をして、自分と周りの人がどんな表情をしているのかまで詳細に想像できるといいと思います。

歩けなかった私の願いは、当時3つありました。

まずは、子どもたちに母親として何かをしてあげたいということ。歩けなくなってはそれも叶わない、一生子どもたちに介護させてしまう生活だ、と思い込んでいました。しかし、思い切って、私が願うようにキッチンを車いす対応にリフォームしてみました。すると、車いすのままキッチンに入ることができ、子どもたちに料理を振る舞うことができたのです。

「ママのごはんが一番おいしい、ありがとう!」と言ってくれた子どもたちの笑顔は忘れられません。

次に、子どもたちだけではなくて、誰かの役に立ちたいということ。私のように絶望している人の力になりたいと思いました。歩けなくても、勉強はできます。人と会話することはできます。役に立ちたい、力になりたい、と願い続けていると、周りの人たちがしている仕事や勉強の情報が耳に入ってくるようになり、私は心理セラピストの道を進むことができました。

そして、日本をユニバーサルデザイン先進国にしたいということ。大きな願いに思えますが、これも細分化すれば、きっかけは車いすに乗った私と一緒に行動するみんなが、不便や不安を感じず、心から楽しめるようになってほしいというのがきっかけです。

日本で研修や監修を行っていますが、やはり世界の様子を見たいと思い、世界のバリアフリー状況を見たい、息子のように障害のある子どもたちと親御さんがどんな課題を持っているのかを知りたい、と周りの人に願いを言い続けました。活動団体さん、航空会社さん、旅行会社さんからご縁と共感をいただき、海外出張の願いも叶いました。

過去や未来を考えるのは、悪いことではありません。しかし、自分を追い詰めるまで考えすぎる必要はないのです。思い切って開き直ること。今の自分がどうありたいのか、何をしたいのか、見つめること。プラス思考に捉えること。

深刻なプレッシャーに押しつぶされそうになったら、ぜひ思い出してみてください。

■もっと知りたい■

第1回「死んでもいいよ」から新しい人生が始まった

 

撮影=山下コウ太

岸田 ひろ実

きしだ・ひろみ 1968(昭和43)年大阪市生まれ。日本ユニバーサルマナー協会理事。株式会社ミライロで講師を務める。27歳、知的障害のある長男の出産、37歳夫の突然死、40歳、病気の後遺症で車いすの生活に。自身の経験から、人生の困難や障害との向き合い方を伝える。

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