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NHKの連続テレビ小説「らんまん」のモデルとなって注目を集めた、牧野富太郎博士。ドラマと同時に話題になった場所が、高知県立牧野植物園です。今回は、その牧野植物園をご紹介します。
作品「タニワタリ」
牧野植物園で見たタニワタリが印象的で、その存在感に心引かれて作りました。立体作品は初めて作りましたが、布を一枚一枚葉色に染め、表裏を縫い合わせ組み立てる……立体も楽しい!
タニワタリはシダ植物の仲間で胞子で増えるのですが、その胞子が軽いので遠くまで飛ぶ、「谷を越えていく」ことから、タニワタリと名付けられたそうです。名前の由来から、たくましさが伺えてとても興味深いです。
タニワタリは樹の幹や岩に着生して育ちます。寄生するのではないので胞子が発芽して自分でしがみつき、中心部にたまった落ち葉などを肥料にして育っていくというとても不思議な植物です。
葉はツヤがあり、両サイドがフリルのようになっていたり、新葉の先っぽがクルンと丸くなっていたり、葉の裏にたくさんの胞子が並んでくっついていたり……見ているだけで好奇心がそそられます。
タニワタリを作っていると、胞子は飛び立って谷を越え、どこまで旅するのだろう、と想像してしまいます。
植物とともに過ごした牧野富太郎の生涯
2023年5月、緑が輝く季節に高知県立牧野植物園を訪ねました。すばらしい数々をご紹介する前に、まずは牧野富太郎博士のことを簡単にご紹介します。
1862年、江戸時代末期 高知県の中西部にある佐川町の裕福な造り酒屋に一人の男の子が生まれます。土佐の豊かな自然の中で育ち、植物を友として94年もの間、植物とは何かを追い求めました。その人が数多くの新種の植物を発見して「植物分類学の父」と呼ばれた牧野富太郎でした。
幼い頃は小学校の授業に飽きて2年生で自主退学、植物採集をして独学で植物学に取り組みます。22歳で東京大学の植物学教室への出入りを許され研究に励みました。
甘いものが大好きだった牧野富太郎は、大学近くのお菓子屋さんの娘、壽衛(すえ)を見初め結婚するのですが 研究にお金がかかり生活は貧しかったようです。でも壽衛や周りの人々の支えで研究に打ち込み1500種類以上の植物を発表、収集した標本は40万枚以上にも及びました。
地位や名誉、お金に目もくれず、一途に植物を愛し、周りの人々を愛し、何より天真爛漫な人柄が多くの人に愛された牧野富太郎は、94歳の生涯を終えるまで心豊かな人生だったのだろう……と牧野植物園を訪れて感じました。
高知県立牧野植物園とは
牧野富太郎が生涯かけて愛した植物を楽しむことができる高知県立牧野植物園は、高知市内から車で20分ほどのところにあって、彼が亡くなった翌年1958年に開園しました。
そこは「植物園を造るなら五台山がええ」と、90歳を超えた牧野富太郎が望んだ場所。高知市街や海を見渡せ風が渡る高台で、こんもりとした山の起伏を生かして造られました。牧野富太郎ゆかりの野生植物など3000種類以上の草花が元気に育っています。
2023年はNHKの朝の連続テレビ小説「らんまん」で注目の植物園になりました。
門を入ると 牧野富太郎が育った土佐の自然を再現したエリア「土佐の植物生態園」が迎えてくれます。木漏れ日があふれ、木々を抜ける風が心地よく、どこからともなくいい香りが漂い、ほ~~っと幸せな気持ちになります。
園内には牧野富太郎記念館や展示館、さまざまな植物がある植栽エリアや温室などがあります。
記念館は、自然に溶け込んだ名建築
進んでいくと、まず牧野富太郎記念館本館があります。私はこの建物にとても興味を持ちました。木材がふんだんに使われ、中央が中庭になっていて日差しがたっぷり入る明るい開放的な建物です。
屋根は中央に向かって勾配を持ちながら円形に流れるようにつながっています。そして床にはデッキが広がります。ここには図書館や映像ホール、ショップなどがあります。
その先にある展示館も同じ様式で、屋根の曲線が美しい。天井を見ると梁が規則的にリズミカルに並び、とてもダイナミックです。著名な建築家・内藤廣さんの設計です。
この中庭には牧野富太郎が命名した植物の中の250種類が植栽されていて、周りの展示室のどこからでも眺められるようになっています。とってもいい雰囲気です。
ここはイベントが行われたり、訪れた人々がお弁当を食べたりできる広い空間です。天井の梁がまるで木の葉の葉脈のようで圧倒的な迫力を感じます。
木々に囲まれた山の自然になじむように柔らかな曲線でデザインされた建物は、気持ちいいぐらいシンプルでダイナミックです。光と影が素晴らしい!この建築を見ているだけでも大満足でした。
牧野博士の魅力満載の展示館
展示館では、牧野富太郎の遺品や、年譜、愛用の品が展示されていたり、シアターがあったり。その生涯を知ることができます。
牧野富太郎が「植物に会いに行く」と正装して植物採取に出掛けるときに持ち歩いた、愛用のブリキ製のかばんです。
晩年の書斎を再現しています。たくさんの書籍に囲まれ、採取した標本が積まれ、机に向かって植物をスケッチしているところです。
170mの回廊…牧野富太郎の植物図に感動
さあ、園内を巡っていきます。8ヘクタールもある園内は東京ドーム2個分の広さですが、所々にベンチもあってゆっくり楽しめます。
記念館から展示館へは170mの回廊があります。雨の日や暑い日も大丈夫ですが ここでは日陰が好きな植物をたくさん見ることができます。回廊の片側が遮光されていて、山アジサイやシダなどがきれいでした。
そして、所々にその植物を描いた牧野富太郎の植物図が展示されていて、その緻密さに驚きます。
ボタニカルアートのように精密で写実的だけでなく、分類学に必要な肉眼では見えない内部の構造や形態まで描く(「牧野式植物図」と言われているそうです)、この植物図が1700枚あまりも残されているそう。それにかける膨大な時間と熱量を思うと、本当にすごい!!
これは牧野富太郎が命名した「ジョウロウホトトギス」。彩色されていて美しい植物図でした(『なぜ花は匂うか』という本の表紙にもなっていました)。観察力や描写の精密性に驚きますが、使っていたのはペンではなく、京都の筆師が作る長くてコシのある「根朱(ねじ)筆」を愛用していたそうです。
五感で楽しむ、ふむふむ広場
ふむふむ……とうなずきながら、匂いをかいだり手で触ったり五感で植物を楽しめる体験型のエリアです。
ここからも高知の雄大な風景が望めます。
かわいらしいカンナ&ローズ園
バラは、アンジェラ、スーベニール・ドゥ・ラ・マルメゾン、キングなど咲いていました。自然な雰囲気です。
足元では、ピンクのポコッとしたかわいい「ヒルザキツキミソウ」が群れて咲いていて、優しい雰囲気です。
カンナはいろんな種類があって、この「カンナ・パテンス」は、鮮やかな朱色の細長いラッパ型の花がいろんな方向を向いて咲くので動きがありました。
穂状に咲くプリムラを初めて見ました。「プリムラ・ヴィアリー」は蕾(つぼみ)が赤くてピンクの花が下から咲いていきます。葉っぱを見ると確かにプリムラです。
こんな植物、めったに見られません!
園内を歩いていると、見たこともない植物にたくさん出合えます。いくつかご紹介します。
1.「トビカズラ」
びっくりしたのはトビカズラ! 「ブドウかな?黄色い帽子をかぶった子どもが釣り下がってるみたい」といった感じのユニークな花をつける大型のつる性植物です。訪れた5月には満開でした。
長さ7~8cmの暗紫色の花が20個ほど房のように付いています。それが太いツルにいくつも釣り下がっていて、ここだけまるでジャングルのようでした。
高さ4~5mあったでしょうか、大迫力でした。この雰囲気、日本じゃないみたい。
トビカズラという和名には諸説あるみたいですが、源平合戦で観音像が空を飛んでこの木に飛び移り、焼失を免れたという伝説から「飛葛」と名付けられたそうです。
2.「ガンゼキラン」
ガンゼキランは、5~6月に開花する希少なランで、絶滅危惧種に指定されています。訪れた昨年は5月13日から19日まで期間限定で公開されていて、ちょうど見ることができました。
展示館の南の細い山道をどんどん下りていくと、木々が生い茂る斜面に5000株のガンゼキランが群生していました。圧巻です!
地際の茎の部分、バルブがごつごつした岩石のように見えることから岩石蘭と名付けられたそうです。2024年のガンセキランの公開日は2~3週間前にホームページに掲載されるそうです。
3.「土佐寒蘭」
土佐寒蘭センターでは、「土佐寒蘭」を中心に260品種も保存されていて、10~12月に開花を迎えるようです。
冬の初めに咲くので寒蘭と呼ばれるそうで、牧野富太郎によって「シンビディウム・カンラン」と学名がつけられました。毎年11月下旬には「寒蘭展」も開催されています。
温室のスケールがすごい!
圧巻が、大きな温室です。楽しくてなかなか出てこれませんでした(笑)
右にみどりの塔があって ここが入り口です。外から見ると普通の入り口ですが、一歩入ると……。
すごいです! 異空間! 洞窟?
高さ9m、薄暗い空間で天井が太陽のような形に開いていて、そこから射す光が動きます。シダ植物が根付いて、アコウという常緑の木の気根が壁を這っています。ただならぬ雰囲気! 面白いですね~。
そこから回廊が続いていて両サイドにもいろんな植物が。見ると「コウモリラン」や「タニワタリ」がたくさんありました。
原始の森をイメージして作られたそうです。塔を見上げ、回廊を見上げ……面白くて、しばらくこの空間を楽しんでいました。
回廊を出ても見上げるほどの大きな熱帯植物ばかり。自分が小さくなった気がします。
高さ10m以上あるゾウタケがあったり、面白い実がなっていたり、花が咲いていたり。左下の葉はタニワタリです。
ジャングルゾーン。水の流れる音、あふれる緑……。何か潜んでいそうな雰囲気あります。
2階に上がると、ウォーターガーデンにはオオオニバス! お皿のよう! 直径3mはありそうです。
横から見るとすごいトゲです。
1階下に下りて見上げるとガラス張りになっていて、オオオニバスを下から眺めることができます。葉脈がきれいに見えて驚きです。水の中を覗けるような仕掛けがあって面白いですね~。まるで水族館のよう!
オオオニバスの裏側を、私は初めて見ました。
スポンジ状の葉脈があるので浮くとか? 子どもが乗っても沈まないので、夏休みには15kg以下の子どもを乗せるイベントもあるそうです。
温室は本当に面白い!
何度でも訪れたい、牧野植物園
園内には所々にベンチがあってゆっくりできるようになっています。植物園というより公園のようで、のんびりした時間が流れます。
園内の植物は自然に近い状態で植栽されていて、楽しみながら遊びながら植物を身近に感じることができます。
「雑草という草はないのです」と牧野富太郎が言うように、何気ない草もとても丁寧に管理されています。建物も植物の見せ方も人へのやさしさを感じさせる……それは牧野富太郎のお人柄そのものかもしれません。牧野富太郎が残したものは珍しい植物だけでなく、植物へのやさしい思いなんだと思いました。
一日では周りきれなくて……また違う季節に訪ねたい場所になりました。
- 住所/高知県高知市五台山4200-6
- 開園時間/9時~17時(最終入園16時30分)
- 休園日/年末年始(12/27~1/1)、メンテナンス休園(2024年6/24、9/30、11/25、2025年1/27)
- 入園料/一般730円(高校生以下は無料)、年間入園券(1年間有効のフリーパス)は2930円
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