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- エッセー作品「お茶」中村今日子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第9期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「お茶」です。中村今日子さんの作品「お茶」と山本さんの講評です。
「お茶」
「お茶」といえば、私の場合「緑茶」だ。
家に人を招いた場合の「お茶」も緑茶であるし、ご飯、アジの開き、納豆、みそ汁などの朝食の後に欲しくなるのも緑茶である。
そんなふうに「緑茶」は、日本の食文化の礎(いしずえ)だと思っている。
故郷で織物会社の事務員として就職した時に、まず先輩から教わったのがお茶の淹れ方と電話応対だった。
私の母もお茶の好きな人だった。
人口4万人の小さな町に、お茶屋さんが2件あって、そこでグラムで買っていた。
そうして私はといえば東京の葛西の街に住んで45年になるが、メトロにお茶屋さんはあったが、今はもうない。
時代は移り変わり"お茶屋さん"より珈琲店の方が多い昨今である。
お抹茶は和菓子と共に、日本文化として根付いているが、珈琲よりは一般的ではない。
再開発される前の日本橋の山本山のお店の「玉露」。
それこそは日本橋らしいお店の楽しみだった。
しかしそのお店が通りから見えなくなり※、玉露もかつては800円で楽しめていたのが、2千円になったと知って「ちょっとお茶」という気にはなれない"庶民の飲み物"ではなくなった。
「ビルの家賃で高くなっているんだよ。」と娘は言うが、私達庶民はそんな日本橋再開発は望んでいない。
日本橋なら「お江戸日本橋」江戸東京博物館のあの立派な木製の日本橋をイメージする。
その袂に茶店があって、魚河岸か呉服店があってという"お江戸"を想像する。
どうして"日本橋"のイメージのかけらもないような街造りがなされたのか⁉
地価が高いから家賃収入のいい高層ビル街になったのか⁉
私は昔の"山本山"の復活を願っている。
"玉露"はその文字からも分るように、上級のせん茶で、玉のような味わいを3度 は楽しめる。
私は"山本山"で"玉露"をいただくことを、日本橋で過ごす時間の楽しみにしていたので、本当に残念である。
1年に1度の季節の"新茶"に関しても言わせていただきたいが、適正価格が分からない。
2千円でも美味しい"新茶"を味わえないと、がっかりする。
お湯の温度が難しいが、あの新茶の色と香りと味わいは、1年に1度味わいたいぜいたくである。
そんな事を考え合わせると"お茶""緑茶"は、今やぜいたく品なのだろうか⁉と、日本食、日本文化の行く末を心配する。
ちなみに私は、日常には静岡煎茶の深むし茶"紫"を使っているグラム700円で、濃く出るので、満足している。
3時に和菓子があると、"緑茶"を淹れる。
紅茶、ハーブティーは、我が家 ではおしゃれな飲み物で、めったにいただかない。
※日本橋の「山本山の本店」は「山本山 ふじヱ茶房」に店名を改称して営業しています。(2023年4月時点の情報です)
山本ふみこさんからひとこと
これは「中村今日子」という書き手自身にとって起点となる作品だと思います。
今後、楽に、楽しく書いてゆけるのではないかなあと感じています。
楽に、楽しくとならべて書きましたが、このふたつは同じ「楽」の字を使っていながら、このふたつは似て非なるもの。
「楽しい」というほうをとり上げてみますとね、「楽しい」は決して楽じゃありません。
「楽しいのは大変」です。
「中村今日子」がここまで自らの表現について迷い、格闘してきた道のりを、わたしは知っています。
それで、書いていて楽しいという境地にたどり着くのは大変だけれども、ここまできたら、だいぶ楽になりますよ、とお伝えしたくて「楽に」と「楽しく」をならべて書いたのです。
だいぶ楽とは、自由にのびのびという意味でもあります。
ここからはじまる文章世界の展開を、こころから楽しみにしています。
「楽に」「楽しく」「楽しみ」……、ああ、日本語ってやっかいです。
でも、どこまでもうつくしくて、慎重につきあえば、どこまでも頼りになります。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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