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- エッセー作品「ドレスが社交するとき」平木智子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第9期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「昨日」です。平木智子さんの作品「ドレスが社交するとき」と山本さんの講評です。
ドレスが社交するとき
友人のトシさんがイギリス人の夫人を伴って久しぶりロンドンから帰省して来た。
彼は大学時代の同期会が鎌倉で開かれるということで1日夫人に付き合ってくれないかと、すでに連絡を受けていた。
その当日がやって来て、鎌倉で2人で落合うことになった。夫人のフェイとはロンドン時代から懇意にしていたので、久しぶりの再会を㐂(よろこ)び合う。
久しぶりに人と会う時、何を着てゆこうかとワードローブをあれこれ組合せて楽しむ習性が私には、ある。
こゝ数年、きものを解いて洋服にリメイクする作業を続けている。
きもの地は中は狭いが、11メートルほど使用しているので、婦人服ならほとんどのアイテムにリメイクすることが出来る。
これまでに、ブラウス+フルレングススカート、コートとスカートのアンサンブル、ポンチョとハーレムパンツ等、様々なデザインでリメイクして来た。
最近の作は、めくら縞の紬でつくったポンチョと、中広のカフ付き7分丈パンツの上・下。
遊び心優先で、年令意識などは髙い棚の上に放りなげて、さび朱をアクセントカラーに使ったカジュアル作品で。これを着て出かけようと決めた。
衣服というものは、ワードローブに仕舞いこまれているのを好まないから、きっとこの服も㐂ぶことだろう。
鎌倉駅東口で2人に会い、ロンドンからのおみやげのフォートナム&メイソンの紅茶を頂き、フェイを引受けて、私達はおしゃべりをしながら小町通りを歩いていた。
私達を追いこして行った夫人が、数メートル先で踵を返して、私のところに戻って来た。
「ちょっと失礼、この洋服はどちらで作られましたか」
「私が作りました」と応えると、
「あー、そうですか。こゝのところ難しかったでしょ?」と前立ての両端に2ミリ程出したトリミングを指した。
「えゝ、私はドレスメーカーですが、ここが一番難所でしたよ」
「そうでしょうね。とてもステキなデザインですね」
とほめて下さって、先へ去って行った。
通りすがりにチラッと見ただけで、ここまで品定めする人だから、かなり洋裁について詳しい人なのだろう。
その人もかつて、トリミングで苦心したのかと思ったりした。
フェイとは、美術館の後、ゆっくり夕飯を摂り、お成り通りのホテルまで送って、別れた。
茅ヶ崎へ戻り、ラスカで少しショッピングをして、エレベーターで下に降りる時、お若いカップルと一緒になった。
「ステキな洋服ですね」と又もや、私の衣服に関心を寄せる人が現われた。
「ありがとうございます。きものを解いて作ったのです。
実は今日鎌倉へ出かけたのですが、あちらでもおひとりこの服をほめて下さった方がいました。今日は奇遇な1日です。」
「鎌倉を散策するのにぴったりな洋服ですね。」
この服が㐂こんでいるナと感じた。
私自身もお気に入りの洋服で同じ日に2度も他人さまから声をかけられてほめて頂いたことで、自作品であっただけにハッピーだった。
山本ふみこさんからひとこと
本作を読んで、あらためて「平木智子」という書き手のプロフェッショナルを確認しました。
プロとして布に向かうのと同じ気持ちで、エッセーを書いておられます。皆さんも同じですよ。経験を積み、研鑽を積んできた皆さんは、もっと自信を持って、堂堂とお書きください。
「わたしにはたいした経験もなければ、ましてや研鑽など……」ですって?
そんなことは決してありません。ひとの道は、等しく豊かで学びにあふれています。
さて、「ドレスが社交するとき」のなかで、わたしがもっとも好きなのはここです。
「衣服というものは、ワードローブに仕舞いこまれているのを好まないから、きっとこの服も喜ぶことだろう」
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
■エッセー作品一覧■
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