通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第5期第3回

エッセー作品「なんとかなる」宮本昌子さん

公開日:2022.12.28

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「一歩」です。宮本昌子さんの作品「なんとかなる」と山本さんの講評です。

「なんとかなる」
エッセー作品「なんとかなる」宮本昌子さん

なんとかなる

次女春子から聞いた話

淳のこと。ただいま21歳。
わたしの5番目の孫、男の子であるが、珍しく幼い頃からクラシックバレエを好んで、熱心に練習を重ねてきた。

16歳の時、ローザンヌのコンクールで入賞したことからその後は外国で暮らしている。
経験の少ないうちは、語学の堪能な母親を頼りになんとか旅を続けていたようだ。
司令塔の母は家にいて指示を出す。
ビザの申請、住民票など必要な手続きをする。住む家をさがす。自炊の道具を買うための指令を出す。
いっそついていったほうがいいのではないかと思うが、母親はじっと耐えた。

私共外野は「ついていっておやり」「あらかわいそうにご飯作ったこともないのに……」とがやがや。
最初は寮で食事もついて安心していたが、2年後からは社会人となり住居も食事も独立した。
心細そうな淳に向かって父親は何げなく「なんとかなるよ」となぐさめた。
ひとごとだと思って……(これは春子のつぶやき)無口でおとなしい淳は黙ってきいていた。

その後カナダを振り出しにアメリカ、ハンガリーと修業を重ねて、最近は炊事にもなれて夕食の作品を写真に写してきたりしているそうな。
「料理の才能はないわね。」(これも春子のひとりごと)
しかし淳は、少々の苦労はあっても、踊れることが何よりも幸せだという不思議な青年である。
夏休み1ヶ月を日本で過ごし今年の9月には、あこがれのウィーンで働くことが決まりうれしそうに飛び立った。
初めの頃よりは旅支度もかなり静かに手早くととのえて……

淳の小さい頃から、男の子がバレエをやることにあまり賛成でなかった祖父(私の夫)は「早く大学に行かないとみんなより遅れるよ」と心配していたのに近頃の淳を見て「淳は偉いなあ―」と感心するありさま……
「日本に戻る時期はぼくが自分で決める」と言っているそうで、外野も静まりじっとみまもる。

淳がまだ夏休みで家にいる6月頃
お父さんの会社からベトナムへの転勤命令が出た。
特別語学が堪能であるわけでないし外国が好きなわけでない彼は戸惑った。
特別の使命を受けて出かけることになるが、コロナのために入国ができないなどのトラブルで8ヶ月末まで待機することになった。
ベトナムってどんなところ、人々は、食事はと、なんとなく落ち着かないお父さんに、淳がぽつんと「なんとかなる」と……
しばらくしてお父さんが「お―そうだな」と。(笑)

今はもう現地の生活になじんで無事暮らしているようです。

山本ふみこさんからひとこと

テーマとしてはこの作品も、むずかしいのです。どこがかというと、家族のはなしが、ね。

家族のはなしはどうしても甘くなるし、読む側からすると、家族のアルバムを延延と見せられるようなことになりがちです。

ところが「次女春子から聞いた話」には、それぞれある距離をとって自立した皆さんが登場します。そんな皆さんの「一場面」「一場面」を冷静にあたたかく描かれました。

冷静にあたたかく、と思わず書きましたが、このふたつは、ひととしても、書き手としても大事な要素です。  

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

現在第5期の講座を開講しています(第6期までの募集は終了しました)。次回第7期の参加者の募集は、2023年6月を予定しています。詳しくは雑誌「ハルメク」2023年7月号の誌上とハルメク365イベント予約サイト(6月更新予定)のページをご覧ください。


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ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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