自称「オタクな主婦」が、漫画・映画について語ります

月の力に導かれ ~月にちなんだ漫画あれこれ~ 後編

公開日:2020.11.12

リアルタイムで手塚治虫を読み東映作品を見て育ち、累計鑑賞本数は1500本以上。「漫画・映画・アニメは私にとって酸素のようなもの」と語るK・やすなさんが、月にちなんだ漫画を紹介。月にちなんだ漫画の世界に浸ってください。

「かぐや様は語られたい」語り継がれるかぐや姫の物語

紫式部が物語の祖と称えた「竹取物語」。ならばヒロインの「かぐや姫」は最古のアイドルかもしれません。やがては月に帰る、手の届かない光り輝く絶世の美女、かぐや姫が後世に与えた影響は計り知れないものがあります。千年以上物書きの創造力を刺激し続けているのはすごいことです。

月に関連した物語とセットになっていることも多く、前章であげた「月光条例」でも「かぐや姫」は物語の鍵となっています。

「YAIBA」 青山剛昌 1993年

YAIBA

いきなりこんな絵でびっくりしたかもしれませんね(笑)。我が家のかぐや姫はこのお方です。バニーガール風のお召し物も麗しい「かぐや様」で、とっても高飛車な性格です。

子どもたちが夢中になっていたアニメ「YAIBA」の敵キャラです。月の裏側に住む月人で地球征服のために侵略してきます。彼女にとって竹取物語は侵略失敗の黒歴史なのです。対するヤイバくんは強くて天衣無縫な少年剣士。

「名探偵コナン」の青山剛昌の出世作で、「コナン」本作にも剣道が絡むと、こちらのキャラクターがお遊びで登場することもあります。

「輝夜姫」清水玲子 2005年

輝夜姫

彼女たちは「かぐや姫」ではなく、それぞれ作中に「かぐや姫」(こちらも厳密にいうとヒトではない)らしき存在が登場します。どちらも詳しく言えないのがつらいところ……。

「輝夜姫」は清水玲子の作品です。とても画力があり、美女から残虐な殺人犯、動物、多角度から見た顔や体など、きれいな絵柄で難なくこなす作家です。

晶(あきら)は赤ん坊のときに竹林に埋められていた少女です。かぐや姫の伝説がある島の施設で育てられたのち、養子になりました。この島の子どもたちは、ある目的のために養育されていたのでした……。

はい、あらすじはここでおしまい! 話が複雑で私の力ではうまく書けません。

キーワードだけ挙げておきますね。かぐや姫、羽衣伝説、ドナーとクローン、極秘の米軍キャンプ、世界各国の要人、地球の危機 etc。 少女漫画らしからぬキーワードですが、そういう話なんですもの(開き直りっ!)

「輝夜伝」さいとうちほ 連載中

輝夜伝

「輝夜伝」は、さいとうちほを取り上げた回でも少し書いています。竹取物語がベースになっている華麗な平安絵巻で現在連載中です。

月詠(つくよみ)は、「血の十五夜」といわれる謎の大量死事件で消えた兄を探すために、男装して宮中の警護職に就きます。宮中に住む「かぐや姫」、姫を慕う天皇や、何かを企んでいる上皇、同僚のイケメン武士たちなどと関わるうちに、彼女の運命は思わぬ方向へ……。

月に住む人々

「かぐや姫」も月に住む人の仲間ですが、かぐや姫とは関連付けず、月に人が住む(または、住んでいた)、あるいは、文明がある(あった)という設定の作品もあります。

代表的なものが「美少女戦士セーラームーン」です。こちらは説明不要ですね。セーラームーンと同様に、月に住んでいた人間が転生する話が、「ぼくの地球を守って」です。

母星が滅びて帰る所がなくなり、月の基地で亡くなった七人の異星人男女は、現代日本に転生します。徐々に明らかになる前世の記憶と、現実の自分との葛藤のなかで成長してしてゆく七人の姿を描いたSF作品です。恋愛ものの要素もあります。コロナ禍の今再読して、話の中でも重要な、ウイルスとワクチンのエピソードがより心に響きました。

発表当時ちょっとした前世ブームが起きましたが、現在ではRADWIMPSの「前々前世…」が受けて、「歴史は繰り返す?」と思ったりもします。

若い頃お好きだった方、続編ありますよ!

「月の子」清水玲子 1995年

月の子

清水玲子作品をもう一つ。こちらは「人魚姫」の話が通奏低音となっています。

「人魚族」は実は宇宙人で、宇宙の星々に生息しています。彼らは産卵に適した地球に、宇宙空間を泳いでやってきます。月の裏側からニューヨークにやって来たベンジャミンは、人魚族と地球の運命を左右する子どもでした。

人魚姫の話からこのようなSF作品に仕立ててしまう発想に脱帽です。男性ダンサーのアートに養われるので、踊りやファッションなどきれいなシーンもたっぷりあります。

ガンダムシリーズの一つである「∀(ターンエー)ガンダム」も月の民(ムーンレイス)と地球の人々の対立と和解の話なのですが、ガンダムオタクの長男がこのシリーズだけは一つもプラモデルを持っていないのです。なぜかな(笑)。

今ここにある月 泣けるおすすめ作品

長くなりましたが、最後に、月にファンタジーの要素を絡めていない作品を取り上げます。月がタイトルに入っていたり、物語の中で印象的に使われているものです。

炎の月 河相益巳 2011年

炎の月

絵柄は好みが分かれますが、話は断然面白い河相益巳。中国神仙ファンタジーから十字軍、現代の芸妓、傭兵からスナイパーまで、守備範囲の広い作家です。敢然と困難に立ち向かう男前なヒロインたちの活躍は読んでいて爽快です。

傭兵隊長ジェニーシリーズの一編で、戦闘時に発する強烈なオーラから「炎の月」とよばれるジェニーが中東某国の危機に立ち向かう話。「9・11事件」も話に織り込まれています。「月蝕(げっしょく)」というシリーズ作品もあります。

月影ベイベ 小玉ユキ 2017年

月影ベイベ

トリを務めるこの作品は、今回、50代以上の女性に一番のおすすめです。「ベイベ」なんてタイトルですが、決してファンキーな話ではありません。

最近の作品で入手しやすく、全9巻と手頃な長さ、現実の人間に近い絵といった、読み易い要素がそろっています。

舞台は、風の盆で有名な富山市八尾町。伝統芸能「おわら」の踊り手の母娘二代にわたる恋と友情、家族の情愛などがしっとりと描かれます。実際の街並みや行事の準備などが丁寧に描かれ、画面から胡弓の音が聞こえてきそうです。半月、満月が登場する場面が心に残ります。

特に第9巻、風の盆最終夜、満月を背にそれぞれの想いを胸に踊る人々のカッコよくも切ない姿に、私の涙腺は崩壊しました。

それにしても笠を被った女性の姿は情緒があって美しい。笠が傘と誤記されやすいのですが「夜目遠目笠の内(よめとおめかさのうち)※」って絶対にこの状態をいってますよね。

※夜見るとき、遠くから見るとき、笠に隠れたものは、はっきり見えないので実際より美しく見えるものである意味のことわざ。

月にまつわる作品、ざっと思い出すだけでもたくさん出てきました。大御所の傑作でも、旧作は徐々に棚から消えていくネットカフェと違い、ネット経由でほとんどの作品が入手閲覧可能ですので、ぜひ今回ご紹介した作品を読んでみてください。

 

今回の作品

今回は作者と完結年度のみを記しておきます。

YAIBA  青山剛昌 1993年
輝夜姫 清水玲子 2005年
月の子 清水玲子 1992年
輝夜伝 さいとうちほ 連載中
ぼくの地球を守って 日渡早紀 1994年
参考:続編 ボクを包む月の光 ぼく地球(タマ)次世代編 2015年
   ぼくは地球と歌う ぼく地球(タマ)次世代編Ⅱ 連載中
炎の月 河相益巳 2011年 (ジェニーシリーズは1987年からと長い)
月影ベイベ 小玉ユキ 2017年

 

 

K・やすな

漫画、アニメ、映画鑑賞、読書が趣味の自称「オタクな主婦」。子どものころは考古学者か漫画家志望。美術館めぐりや街歩きも好きだが、基本的に単独行動。なぜか、どこへ行っても道を尋ねられる。好きな花はカワラナデシコ。

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