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普段はキャンピングカーに乗って、夫婦で楽しく旅をしている蒲池さん。以前、母親を看取りに、東京から大分に駆けつけたときのことを書きました。今回は、母が亡くなった後、ひとりで過ごす父親との会話の中で思い出した母の手紙についてつづります。
母からの手紙
「突然訪れた母の看取り。1300キロを車で駆けつけて」では、母が亡くなったときのことを書きました。
その後、母が亡くなり一人になった父と電話で話す機会が多くなりました。いつものように母の話で盛り上がっていた時のこと。私がもらった母からの手紙の話になり、父がどうしてもその手紙を読みたいというので、送る前に私も久々に目を通してみました。父は母が手紙を書いていたことを全く知らなかったのです。
懐かしい文字
袋に大切にしまった手紙は16通。34年という歳月を経て、封筒も便箋もすっかり色あせています。手紙をゆっくり開くと、便箋いっぱいに母の文字が……。多いときは、4枚にもわたりぎっしり書かれています。
九州の大分から東京と遠く離れた地で、夫の両親と同居生活を始めてからの私の苦悩に対する励ましや喝を入れる内容です。
娘に伝えたいことをしっかり頭の中で整理をして、想いを一つ一つの文字にしたためていきます。目で追っていくと当時の苦しさが蘇り、母の優しさに包まれた瞬間、もう涙が止まりません。
問題が生じる度に娘を思って、一所懸命につづった文字から母の温もりが再び伝わります。辛くなると心の声に触れては、元気を取り戻していた頃が思い出されます。
母は決して「がんばれ」とは言いませんでした。「私の娘だもの道は開ける、自分の力をもっと信じなさい。」とメッセージを送り続けてくれました。しっかりしたバックがあることが、当時の私にどれほど勇気を与えてくれたことか…。
一通だけは弟の就職を喜ぶ内容が記されていて、唯一母の最高の笑顔を思い浮かべることができる手紙でした。
父の感想
心待ちにしていた手紙を封筒の消印順に並べ変えてからじっくり読み始めた父。字が下手だからと書くことを極端に嫌っていた母でしたので、母の文字を目にする機会が殆どありませんでした。それだけに開いた便せんにぎっしりと書き詰められた文字を見て、胸に込み上げてくるものが……。
結婚を機に同じ夢を追い、嬉しいことも悲しいことも分かち合いながら人生を共に歩んだ二人。父は母のことをよく分かっていると思っていました。
「お母さんは香寿代と同じくらい、いやそれ以上に苦しんでいたんじゃなー。今初めて知ったー。お父さんに知られんように夜遅くに書いちょったんじゃなー」
16通の母の気持ちに父も思いを重ね合わせて、胸がぐっと熱くなったそうです。改めて知る母親像も加わり、母への想いはますます募るばかり…。
「あと3、4年一緒に過ごせるとよかったなー」
大切な宝物
現在のように穏やかな時間を過ごせるまで、母には幾度私の背中を押してもらったことでしょう。携帯電話で手軽に話せる時代になると、母からの手紙を受け取ることは二度とありませんでした。
直に話せることは大切ですが、形として残る直筆のメッセージ力の偉大さを痛感しています。
直筆の文字には書き手の魂が込められています。ですから手紙を開けばいつでも優しさに触れることができます。
身近な人には手紙を出す機会はなかなかありませんが、記念日など特別な日に自分の思いを文字に残しておきたいと思いました。
母からの手紙はかけがえのない宝物です。
お母さん、また甘えさせてね。
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