独特な構成が絶妙に絡み合う

不思議な本「熊の敷石」

公開日:2019.06.13

幼少の頃から読書が大好きな久田さんが、定期的に行っている読書会についてや、文学にちなんだ場所巡り、おすすめの本について紹介。今回は読書会にて、堀江敏幸さんの「熊の敷石」を読んだお話です。

5月は「熊の敷石」

2019年5月の読書会の課題図書は堀江敏幸氏の短編集「熊の敷石」。今までに読んだことのない不思議な本でした。

こんな本を読むのは初めてだと思い、会の席でそんなことを話すと、他のメンバーも同じ意見の人がほとんど。短編小説なのだけれど、斜め読みできないほど密度が濃く、それでいて話が全く違う展開になるので、途中で置いておいてしまっても、またそこから前を読まなくてもスーと入っていける……そんな不思議な本でした。

一見ばらばらな話が絡み合う作品

書き始めは、熊についてのメルヘンチックな描写から始まります。

そして描写は現代へ。

フランス留学経験のある日本人の「私」は、「フランス語辞典」を書き上げた「リトレ」の伝記の紹介文と部分訳を作る仕事のためフランスを再び訪れ、田舎にいる旧友ヤンを訪ねます。

ヤンと再開して話をするうち、「私」はびっくりしました。ヤンはリトレと同郷「アヴランシュ」出身の人だったのです。

そこからヤンとの話が弾み、モン・サン・ミシェルやリトレが引用した寓話について、ヤンとの出会いなどなど、次々に話題が移り変わっていきます。

モンサンミシェル
※イメージ

ユダヤ人問題や、ヤンの隣人カトリーヌと盲目の息子についてなど、重い内容の話も多くありました。

ひとつひとつは関係がなさそうなさりげないエピソードなのですが、それぞれが綿密に絡み合っており、しっかりと繋がって一本の作品を構成しています。

物語の最後は熊の敷石の寓話で終わっていて、非常に考えさせられる内容となっていました。

書き出しと、最後の部分の構成が本当に見事な作品で、時間がある時にぜひもう1度ゆっくり読んでみたい本です。

また、最初に書いた通り少しずつ読むのに向いている本なので、普段はあまり本を読まない人にもぜひオススメしたい一冊です。

堀江敏幸氏の作品を読むのは初めてでしたが、今回の「熊の敷石」が非常に面白かったのでもう少し読んでみようということになり、来月の課題図書は同じ作者の「めぐらし屋」になりました。

久田かえこ

好きなことは読書。本は小さい頃からいつもわたしのそばにありました。引っ込み思案な点がありますが、裏を返せば奥ゆかしさにつながるのでしょうか。4人姉妹の長女で、和歌山の実家で母を見てくれていた一回り下の妹が60歳で他界、その時の寂しさを紛らわせてくれたのは数々の本とそれを通して出会った仲間たちです。

マイページに保存

\ この記事をみんなに伝えよう /

注目企画