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- 過酷!オスは追い出される?ミツバチの冬の過ごし方
一年中手に入るはちみつですが、それを作るミツバチたちの驚きの越冬については知らない人が多いのでは?食糧が取れない冬をミツバチはどのように過ごしているのでしょうか。養蜂歴40年以上の「みつばちおじさん」こと養蜂家・藤善博人さんに聞きました。
冬はミツバチにとって過酷な季節!
甘くておいしいはちみつは、ミツバチが花から花へと飛び回り、せっせと蜜を集めることで作られます。
ミツバチが蜜を集めるのは、草花が咲いている春から秋にかけてだけ。この時期にはちみつをたっぷりと作ってくれるおかげで、私たちは一年中はちみつを楽しむことができます。
とはいえ、はちみつはミツバチにとっても大切な食糧のはず。草花が枯れ、蜜を集められない冬はどうやって過ごしているのでしょうか。
養蜂家の藤善さんによると、ミツバチにとって冬はとても過酷な季節なのだそう。蜜や花粉を取りに行けなくなる以上、どうしても食糧が少なくなりますし、そもそも寒さに強い生き物でもないからです。
「でも、ミツバチは家族で助け合って、この困難に立ち向かいます。ほとんどの昆虫は、卵か幼虫、さなぎの状態で冬を越しますが、社会性を持っているミツバチは成虫が集団で越冬します。これは、とても珍しい能力なんですよ」(藤善さん)
実は、スズメバチやアシナガバチの働き蜂は冬になると死んでしまい、新しい女王蜂だけが翌年に向けて冬眠します。一方でミツバチは、女王蜂も働き蜂も一緒に冬を越します。
ミツバチ家族の冬の過ごし方について、藤善さんに詳しく教えてもらいました!
食糧を蓄え、身を寄せて暖め合う
そもそもミツバチは、1匹の女王蜂と数万匹の働き蜂、そして少数のオス蜂で群れを作り生活しています。そして、この数万匹という群れ全体で、一つの生命体として機能します。
群れという生命体の一つの細胞が働き蜂、というイメージなので、1匹では決して生きていけないそう。そのため、飢えや感染症といった危機は群れ全体に影響し、例えば食糧が足りなければ、群れが全滅してしまいます。
そんなミツバチの冬の課題は、食糧の確保と寒さ対策。この両方を群れで克服しないと、家族みんなが越冬できないのです。
そこで秋になると、働き蜂が冬に備えて蜜や花粉を巣の中に蓄え、女王蜂の産卵も控えさせます。子どもが生まれれば、その成長にも育児にもエネルギーが必要になるので、暮らしを省エネモードに切り替えるのです。
そして、寒さをしのぐために働き蜂たちは巣箱の中で体を寄せ合い、羽の付け根にある飛翔筋という筋肉を細かく動かして熱を起こし、巣の中を30度前後の温度に保ちます。
「ちなみに巣の中の温度は、春から秋にかけては幼虫を育てるために35度以上に保っています。幼虫がいない冬の間は30度前後に抑えているところを見ると、ここでも省エネをして食糧の消費を節約しているのでしょうね」(藤善さん)
こうした省エネ対策が功を奏してか、冬の働き蜂(ウィンタービー)は寿命まで伸びるのだそう。
「春から秋にかけての働き蜂の寿命は35日~40日程度なのに対し、冬の働き蜂は3カ月~5か月と長寿です。食糧を貯蔵するという特殊な能力に加え、成虫が集団で越冬する社会性を持っていることが、ミツバチの強さの一つなんですよ」(藤善さん)
秋になると追い出されるオス蜂
群れで越冬するために、力を合わせてがんばる働き蜂。厳しい冬を越すために、実はもう一つ対策をしています。
それはなんと、秋になるとオス蜂を巣から追い出すこと! かわいそうに思えますが、藤善さんは「群れが生き残るために必要」だと話します。
「ミツバチの社会は、女王蜂、働き蜂、オス蜂それぞれで役割がはっきりと分かれています。役割は大きく分けて『遺伝子を次世代につなぐ』ことと、『群れの維持』の2つ。冬のオス蜂は、このどちらの役割もこなせないので、食糧不足に備えて追い出されてしまうのです」(藤善さん)
女王蜂の役割は、交尾をして卵を産むことだけです。女王蜂は生後10日ほどで交尾のために巣の外に出て、10匹~30匹ほどのオス蜂と交尾をします。そこで得た精子を体内に蓄え、一生をかけて卵を産み続けます。
一方で働き蜂は、育児・巣作り・はちみつの濃縮・採蜜など、群れの維持に関わるあらゆる仕事をこなします。巣箱を暖めるのも、外敵と戦うのもすべて働き蜂。そしてこの働き蜂は、すべてメスです。
では、オス蜂の役割は…?
それは、女王蜂と交尾をすることだけ。「遺伝子を次世代につなぐ」中で、交尾だけがオス蜂に与えられた役割です。
オス蜂は女王蜂との交尾を終えるとその場で息絶えますが、交尾をできなかったものは巣に戻ります。
しかし、巣に戻ったところで働かずに遊びまわるだけですから、冬になる前に巣から追い出されてしまうのです。
「そうして、蓄えた食糧で無事に冬を越した働き蜂たちは、春になるとまた蜜を集めに外に出掛け、新しく生まれてくる幼虫を育てながら世代交代をしていきます」(藤善さん)
ミツバチの社会では女性たちが一丸となって、群れという一つの命をつなぐという使命を全うしているのですね。
ミツバチ家族をサポートする養蜂家
そんなミツバチ家族をサポートし、見守っているのが養蜂家のみなさんです。養蜂家は、ミツバチ家族が無事に冬を越せるよう、秋の間にいろいろな準備やお手伝いをしています。
その一つが、食糧の供給。「冬に食糧が不足しないように、秋の間に何回にも分けて砂糖水を給餌します。冬ではなく秋に給餌するのは、巣箱の温度を下げないため。冬に巣箱を開けると、冷気が入ってしまいますからね」(藤善さん)
さらに、巣箱が効率よく暖まるように、巣板の数を調整して空間を狭くしておくのも、養蜂家の大切な秋の仕事。
「秋のうちに食糧と巣箱の準備を整えたら、冬はできるだけそっと見守るようにしています。内部検査も、巣箱の温度を下げることにつながるので基本的に行わないんですよ」と藤善さん。
養蜂家に見守られながら家族で厳しい冬を越え、遺伝子をつないでいくミツバチたち。目の前のひとさじのはちみつは、そんなミツバチ家族からの貴重な贈り物なのですね。
お話を伺ったのは:藤善博人さん(養蜂家)
養蜂歴40年以上。みつばちについて深い知識を持つ。自宅でも養蜂を行っており、自家製のはちみつを毎日楽しんでいる。採蜜やミツロウキャンドル作りなどが体験できる「みつばち教室」の人気講師。「みつばちおじさん」として親しまれている。
取材協力:山田養蜂場
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