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- 映画レビュー『PERFECTDAYS』
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回は、ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダースが描く『PERFECT DAYS』。外側からの視点によって切り取られた日本の姿とは……。
「PERFECT DAYS」
かつて日本には“清貧(せいひん)”という言葉があった。欲を捨てて、清く正しくつつましく生きることを指す。久々にこの言葉を思い起こさせてくれたのは、意外にもドイツ人監督ヴィム・ヴェンダースが日本で撮った本作である。
役所広司(やくしょ・こうじ)演じる主人公の平山の仕事は、公衆トイレの清掃員だ。下町の風呂なしのアパートに住み、夜明けとともに起きて、掃除用具を機能的に積み込んだミニバンで仕事に向かう。
ドア、便器、鏡、床などを手際よく、けれど丁寧に磨き上げ、休憩時間には、公園のベンチに座って木漏れ日を浴びながらコンビニで買ったサンドイッチをほおばる。仕事が終われば、自転車で銭湯へ向かい、行きつけの飲み屋でビールをあおる。
東京スカイツリー(R)を見上げる下町、浅草の路地、神保町の古本屋といった懐かしい昭和の風情が残る東京の風景がスクリーンに広がる。
カーステレオに入っているカセットテープから流れる70年代のポップスや、読んでいる文庫本からするとなかなかの趣味人らしい。そんな穏やかな生活に波風が立つのは、まだ10代の姪が家を出て転がり込んできたときだけだ。
運転手付きの車で、娘を迎えに来た妹との短い会話から、父親との不和がほのめかされるが、それ以外に平山の素性を示すものはほとんど登場しない。
『ベルリン・天使の詩』などで知られる名匠ヴェンダースは、1985年に敬愛する映画監督小津安二郎(おづ・やすじろう)を主題に『東京画』というドキュメンタリーを撮った。
月日は流れ、街はすっかり様変わりしたが、監督はそんな東京に安らぎと理想的な生活を新たに見出したようだ。
本作は、2023年のカンヌ国際映画祭で役所広司に最優秀男優賞をもたらした。外側からの視点によって切り取られた日本が私たちに訴えてくるものは何だろうか。
PERFECT DAYS
公衆トイレの清掃員として働く平山(役所広司)は、質素なアパートに住み、好きな音楽や本に囲まれて静かに暮らしていた。ある日、家出した姪のニコが訪ねてきてそのまま居座ることになり……。
監督/ヴィム・ヴェンダース
脚本/ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬
製作/柳井康治
出演/役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、三浦友和他
製作/2023年、日本 配給/ビターズ・エンド
2023年12月22日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他、全国公開
https://www.perfectdays-movie.jp/
今月のもう1本「ポトフ 美食家と料理人」
19世紀末のフランス。美食家のドダン(ブノワ・マジメル)と彼とともに働く天才的な料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)の料理の評判はヨーロッパ中にまで広がっていた。ある日ユーラシア皇太子をもてなすことになるが、ウージェニーは病に倒れる。
『青いパパイヤの香り』で知られるベトナム出身フランスを拠点に活躍する監督トラン・アン・ユンが紡ぎ出す食への情熱と愛の物語。第76回カンヌ国際映画祭最優秀監督賞受賞作。
ポトフ 美食家と料理人
監督・脚本・脚色/トラン・アン・ユン
出演/ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル他
料理監修/ピエール・ガニェール
製作/2023年、フランス 配給/ギャガ
2023年12月15日(金)よりBunkamura ル・シネマ、渋⾕宮下他、全国順次公開
https://gaga.ne.jp/pot-au-feu/
文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。
※この記事は2024年1月号「ハルメク」に掲載された内容を再編集しています。