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- 人生相談:夫の死後、不倫疑惑が…心の整理がつかない
読者のお悩みに専門家が答えるQ&A連載。今回は62歳女性の「夫の死後、片付けで親しくしていた女性がいたことが発覚。心の整理方法がわからない…」という相談に、仏教の教えをわかりやすく説いて「穏やかな心」へ導く、住職・名取芳彦さんが回答します。
62歳女性の「他界した夫の女性関係疑惑」についての相談
昨年の6月に突然、夫が65歳で亡くなりました。私の母の米寿のお祝いの会で倒れ、翌日には心筋梗塞でこの世を去りました。
夫は単身赴任をしていたため、一人で夫の部屋を片付けていたら一通の手紙が出てきました。ある女性のお母様にあたる方からのようです。
その手紙は「いつもお世話になり、ありがとうございます…」というような内容で、気になって生まれて初めて夫のスマートフォンを見てしまいました。
そしたら、LINEにその女性とのやりとりがあり、仕事の内容だけではなくプレゼントをあげたり、食事に行ったりしていたような内容で、彼女よりも夫の方が好意を持っていたようにも感じ取れる内容でした。
どこまでのお付き合いだったのかは、文面だけではわからず、聞きたい夫も他界していて、もういません。夫のことを信じていただけにショックが大きく、いまだに心の整理がつきません。
他界する前の半年間も、夫婦でいろいろなところに旅行に出掛け、幸せな40年だったので「それくらいは遊ばせてあげてもよかった」と思える日と、「どうしても悲しくて許せない」と思う日があります。
私はこれからどう生きていったらいいのでしょうか?相談にのっていただけるとありがたいです。
(62歳女性・セゾンさん)
名取さんの回答:優しい夫の思い出を大切に、心の整理箱にふたを
結婚して40年間幸せに暮らし、最後の半年は旅行にも出掛けて、仲むつまじいお二人の姿が目に浮かびます。
義母の米寿のお祝いの席はもちろん、その準備もご夫婦でアイデアを出して二人三脚でその日を迎えられたことでしょう。そんな晴れの日の翌日の急逝。続いて、単身赴任していた部屋の片付けからの不倫疑惑発覚の急転直下の事態に、セゾンさんが途方に暮れたのも無理はありません。
夫が亡くなって一年が経過。セゾンさんなりにご自身が抱える問題点を小分けにして、心の整理箱に入れてこられたことでしょう。しかし、多くは箱に入れただけで、まだ閉じられていないかもしれません。何かにつけて思い出し、心が覆われるのはそのためでしょう。
そこで、心の整理箱を閉じるお手伝いができればと思います。
セゾンさんが抱えた最大の問題は、“夫への不信”でしょう。女性の母親からお礼の手紙に何と書いてあったかは相談からはわかりませんが、感謝の手紙のようですから、セゾンさんの夫はその女性に優しくしてあげたのだと思います。
セゾンさんはご自分以外の女性に優しく接する夫に嫉妬していらっしゃるのかもしれません。
「あなたって優しいよね。だ・れ・に・で・も」は、私が家内に何度も言われた皮肉です。それを聞いて「これは“もっと、私に優しくして”という意味なのだ」とわかり、私がその思いに応え始めたのは、50歳を過ぎてからでした。
「誰にでも、わけ隔てなく親切にしなさい」と教育されてきた世代の男たちにとって、恋人や妻の「私を特別扱いして」という心の声に真摯に向き合うのはとても難しいと思います。
しかし、セゾンさんがお書きになっているように、仲良しのご夫婦の様子から察すると、夫はセゾンさんをしっかり特別扱いしていらっしゃったと思います。
本当のことを知らないでいる勇気を持って
もう一つ、どうにも解決がつかない問題は、実際はどうだったかという問題でしょう。
亡くなった夫に真相を聞くことはできません。仮に女性に聞いても、彼女の言うことが真実かどうかはわかりません。どんな説明をされても「ウソではないか」「夫に限ってそんなことがあるはずがない」という疑いの心が起きるでしょう。
嘘はない方がいいのですが、だからと言って本当のことを知らなくてもいい、と私は思っています。
“真相は闇の中”と言ってしまえばそれまでですが、仏教では「わからないことをわからないとしておく勇気を持つのも大切だ」と、“不思議(思議しない)”を説きます。
真相がわからないことによる心のモヤモヤは、今回の“夫の女性問題”(と言えるかどうかもわかりませんが)を誰かに吐き出すことで、少しは晴らすこともできるでしょう。
しかし、世の中は、セゾンさんの話にどんな尾ひれがついて泳ぎ回るかわかりません。私なら、興味本位の推測の尾ひれがつかないように、自分の中に閉じ込めておきます。
「真相がわからない以上、今回のことは、一人私の心にしまって墓場まで持っていこう」と覚悟して、整理箱を閉じるのです。
夫と過ごすはずだった未来を置き去りにして、セゾンさんは先に進むしかありません。モヤモヤが入った箱を一つでも多く閉じることができて、セゾンさんがいきいきと過ごされるのをお祈りしています。
回答者プロフィール:名取芳彦さん
なとり・ほうげん 1958(昭和33)年、東京都生まれ。元結不動・密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所所長。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。写仏、ご詠歌、法話・読経、講演などを通し幅広い布教活動を行う。日常を仏教で“加減乗除”する切り口は好評。『感性をみがく練習』(幻冬舎刊)『心が晴れる智恵』(清流出版)『気にしない練習』(三笠書房)、『心がすっきりかるくなる般若心経』(永岡書店)など、著書多数。
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