50代からの女性のための人生相談・106

人生相談:同居中の義母がストレス…そんな自分も嫌

名取芳彦
回答者
元結不動・密蔵院住職
名取芳彦

公開日:2022.12.10

読者のお悩みに専門家が答えるQ&A連載。今回は58歳女性の「同居中の義母に意味もなくイライラ…義母に優しくできない自分にもイライラする」というお悩みに、仏教の教えをわかりやすく説いて「穏やかな心」へ導く、住職・名取芳彦さんが回答します。

58歳女性の「同居中の義母がストレス…」というお悩み

現在、義母と同居しています。

しかし、義母の存在を感じるだけ、顔を見るだけでストレスを感じイライラ……。 義母とはできるだけ、会話もしたくないと思ってしまいます。

そして「会話もしたくない!」と思ってしまっている自分の気持ちに対してもイライラしています。

どうすればもっと義母を大切に思え、イライラしないですむのでしょうか?

(58歳女性・くーさん)

名取さんの回答:共通項を見つけてそつない会話を

名取さんの回答:共通項を見つけてそつない会話を

同居している“義理のお母さん(以下、おかあさん)”と一緒にいるだけで、これといった理由はないけれど、ストレスを感じイライラしてしまう……とおっしゃるくーさん。

この難題を解いておかあさんを大切に思えるようになるには、やはり、ストレスを感じる理由を分析するのが先決でしょう。

おかあさんの“何”が、くーさんの意にそぐわないのか……ということです。

自分の心の闇に光を当てるようで気が引けるかもしれませんが、少し勇気を出して自分の都合(わがまま)と向き合うことをおすすめします。

くーさんが対処できないようなものは出てきませんから大丈夫です。

おかあさんの歩き方、話し方、トイレの使い方、片付けの方法などが気に入らないのかもしれません。服のセンスや着こなし、箸の上げ下ろしにもストレスを感じているのかもしれません。

あるいは、話す内容のピントがずれている、ネガティブな内容ばかり、自分のことばかり話す、人の言うことを聞かない、なども考えられます。

ここに挙げた例は、すべて私がストレスを感じていること、あるいは人にストレスを与えてしまっていそうなことです。

名取さんの回答:共通項を見つけてそつない会話を

仏教の世界ではストレスもイライラも“苦”と表現します。仏教でいう苦の定義は「自分の都合通りにならないこと」です。

私たちがストレスを感じるのは、自分の都合通りになっていない時ですから、見事な定義付けだと思います。くーさんがおかあさんにストレスを感じイライラするのも、くーさんが望むようなおかあさんではないからです。

「自分都合」を押し切るか、諦めるか

「自分都合」を押し切るか、諦めるか

さて、苦をなくすには二つ方法があります。

一つは、都合通りにしてしまう(願いを叶える)方法。くーさんの場合なら、「おかあさん、こうしてみたら?」とおかあさんに提案して、くーさんの理想に近付いてもらうのです。

しかし、ご高齢のおかあさんが今になってやり方を変えるのは難しいでしょう。変えたくない、変えられない理由がおかあさんにあるからです。

苦をなくすもう一つの方法は、自分の都合(願い)を少なくしたり、自分の願いをなくしたりする方法です。自分の都合に向き合って、それをひっこめて心穏やかになるために、自分の中で折り合いをつけるのです。

「おかあさんにはできないのだから仕方がない」ときれいに諦めたり、「私もおかあさんにとやかく言えるような生き方はしていない」と自分を反省する材料にしてみたり、「私の理想通りの人になってくださいというのは無謀な話だ」と自分自身で納得したりするのです。

こうして折り合いをつければ、会話さえしたくないという感情は徐々に薄まっていくでしょう。

会話は言葉のキャッチボールです。キャッチボールの基本は、相手の受けとりやすい球を投げること。剛速球や変化球を投げる必要はなく、相手が受け取りやすい球を投げるつもりで、そつのない会話をなさればいいと思います。

そして、おかあさんを大切に思いたいのに、それができない自分を情けなく思っていらっしゃるくーさん。「私って、まだまだだな。ではどうするかな」というその思いが、人を成長させるのですから、とても素敵な感覚だと思います。

共通項は「新しく作る」努力も大切

共通項は「新しく作る」努力も大切

そこで、おかあさんを大切に思えるようになる方法を一つお伝えします。

それは、おかあさんとの共通項に気付くことです。仏教で説く慈悲も、その発生の土壌は相手との共通項に気付くことと分析しています。

知らない人とエレベーターに乗れば、「寒くなりましたね」と二人の共通項の話題で心の距離を縮めます。友達同士でも、ふとした会話から相手がハルメク読者だとわかれば「えーっ!私も!」と大いに話が盛り上がるでしょう。

考えてみれば、おかあさんとの共通項はたくさんあります。二人とも昭和生まれ、女性同士、ストレスやイライラに振りまわされてきた者同士、徐々に体力気力がなくなっていく者同士、同じ日に同じ屋根の下で生きている者同士など、数え上げればきりがありません。

もし、そのような共通項に気付いてもおかあさんを大切に思えないなら、新しい共通項を作るのです。

食卓を彩るおかずにおかあさんの一品を加えるだけでも、テーブルの上はお二人の共同作業という共通項になります。一緒にスーパーに出掛けるものいいかもしません。

おかあさんの趣味に興味を持って(持ったフリをしてでも)、取りくんでみるのも悪くないでしょう。

共通項は「新しく作る」努力も大切

こうした共通項に関する名言に「子ども叱るな、来た道だ。年寄り笑うな、行く道だ」があります。

子ども時代はかつて自分が歩いた道ですし、年寄りが歩いている道を自分も行くことになるという共通項です。

私はわがままな年寄りを笑うより、嫌悪していた時期がありました。そこで、今では後半を変えて「子ども叱るな、来た道だ。年寄り嫌うな、行く道だ」にして、座右の銘にしています。

この言い換えは、私自身が年寄りになったので、「嫌わないでください」という懇願のようなものです。

自分を苦しめている己の都合と向き合う勇気を少しだけ出して、その問題に対処する知恵を働かせ、共通項にたくさん気付いて、おかあさんを大切に思えるようになれることをお祈りしています。

回答者プロフィール:名取芳彦さん

回答者:名取芳彦さん

なとり・ほうげん 1958(昭和33)年、東京都生まれ。元結不動・密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。写仏、ご詠歌、法話・読経、講演などを通し幅広い布教活動を行う。日常を仏教で“加減乗除”する切り口は好評。『感性をみがく練習』(幻冬舎刊)『心が晴れる智恵』(清流出版)など、著書多数。

構成=石丸繭子(ハルメク365)

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