「さつまいもの天ぷら」横山利子さん
2024.09.302024年08月31日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第8期第5回
「100字エッセー」の展覧会
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。今月のテーマは「100字エッセー」。100文字で綴るエッセーを5作書くことに挑戦しました。皆さんが書いた5作の中から山本さんが選んだ1人1作をご紹介します。
「100字エッセー」の展覧会
●浅井京子
粗忽物の私の日々は、失敗が多い。失敗から多くのことを学び対策をとってきたが、対応はできるものの失敗は減らない、いや、増えている。この先も失敗から学ぶ人生を続けていくのか、こんなんでいいのかなあ。
●新井典子
色街と呼ばれる地域が東京都文京区湯島にあった。そこに女子学生寮「湯島寮」はある。さまざまな大学の学生たちが生活を共にした。敷地は黒い塀で囲まれ、昭和レトロのような木造2階建ての中に不思議な青春が生まれた。
●磯野昌子
おまわりさんが私の車をのぞいている。「しまった! つかまる、5分もたっていないのに」あわててあやまる。彼は紙を出して言う。「取り締まりのフリをします。誰が見ているかわからないので……」粋な人だった。
●大井洋子
家の庭に蝶と戯れ、塀の上を闊歩する毛並みの良い猫が、お隣さんの家族と知った後、その名字で呼んでいる。いるのを見られても、「だからなに」という顔でこちらをじっと見返す。勝気で自由奔放に生きる小林さんだ。
●大竹昌子
7年かかって、やっとレモンの木の実が育っている。花が咲いて、小さな実がついてもみんな落ちてしまい、黄色いレモンを収穫することはなかった。果樹用の肥料が効いたのかしら、たくさんあるわ、黄色くなーれ。
●小田原薫
鎖編み。細編み。長編み。編み物言葉に誘われて久々に余り毛糸をひっぱり出す。1本の毛糸がひと目またひと目をとつながり編み地に変わる。不ぞろいでも手編みはあったかい。ひとりきりでも心は毛糸で包まれる。
●北谷利花
かつてないほどの、成長期。体重計にのる。見たことのない数字。いやぁ。この体重はありえない。アイスクリームのせい? 帰宅したら、冷凍庫からアイスを出してひんやりと食べている。このところ毎日。やっぱりダメ?
●熊本美千代
若い人の言葉についていけず「何? 何?」チャットで作った曲を聞かされて、私から出る言葉と言えば「チョット……なーに」チャット、チョット。ヤとヨの違いだ。
●小林登美子
半世紀ぶりに島を訪ねると、いたるところで家が朽ちていた。学校の跡地はジャングルになっていた。もう島民全員が参加した運動会の歓声は聞こえない。それでも夜、昔と変わらずたくさんの星たちが島の上で輝いていた。
●相良章子
ひとりで過ごすことが何よりも大切な時間だ。人の中にいるのが嫌いなわけではない。多分人的騒音が苦手なのだ。わがままを言えば心地いい音だけを聴いていたい。外ではセミの大合唱。うるさいけれどなぜか耳に優しい。
●佐々木はとみ
ハルメク7月号「だから、好きな先輩」を読みながら、夫に「りりィって知ってる?」と聞くと、すぐに「私は泣いています ベッドの上で……」と歌い始めた。最近の事はすぐ忘れるが、昔の事はよく覚えているのよね!
●栞子
波に乗るのはむつかしい。できれば毎日水中深くにひっそりもぐってのんびりしたい。背泳ぎで空を見ながらプカプカ浮かんでいたい。そんな勇気はないものだから、波に乗っているふりをして、あとで激しく船酔いしてる。
●志倉英子
抜く。引っ掻く。むしる。単純な動きをくり返しながら、頭の中では話が尽きない。彼と、彼女と、あの人と。相談したり、納得したり、問うてみたり。そんな無言のお喋りができる相棒との草取りが好き。
●スギウタコ
私の頭の中にらんまるという猫がいる。シャーシャーと音をたて、頭のなかをひっかきまわしたり、蹴とばしたり。鐘をついたりもする。やんちゃな猫だ。仕事が忙しくなるとらんまるは暴れだす。VDT症候群と診断された。
●玉木裕子
ロバが好きだ。ちょっとガンコそうだけど、やさしい目をしてる。たくさんの荷物をのせて、崖っぷちを進む。イヤな顔ひとつしないで黙々と自分の仕事をこなしている。その健気さをみていると応援せずにはいられない。
●傳田啓子
遊んでいたカネチョロ(とかげの方言)が、私を見て草の繁みに逃げ込んだ。秋明菊の茎をおろのきながらヒョイと横を見ると、先ほどのカネチョロが出てきて、まあるい黒い目で私を見ている。脱皮を見守ったあいつかな。
※注釈:「間引く」=同義語「疎抜く(おろぬく)」。信州地方では「おろのく」とされる。
●説田文子
辞書を買う。本屋の書棚を見上げて立ち、順に背文字をたどりながら、しんとした時を過ごす。棚から手に取りその重さを感じ、ページをめくる音を聞き、指に吸いつく感触を味わう。一から育てる日々が、また始まる。
●富山芳子
子どもの頃、夏になると夕食も入浴も早めに済ませ、家族みんなで玄関前の縁台で夕涼みをした。近所の人達も加わり、おしゃべりや花火など、ゆったりしたひと時を過ごす。大空は輝く星屑に覆いつくされていた。
●梨岡知佐子
真っ青な空にまっすぐ伸びたひこうき雲。いつも思う。「ああ、きょうも白いはちまきが応援してくれている」すると自然に力がわいてくる。はちまきは薄くなりながら「無理はしないでね」とも、ささやいている。
●八田りえ子
成田日航ホテル。玄関に入ってすぐ右にカフェ。土曜日午前10時半、ほぼ満席で外国人が多い。午前中ここへ来るのは初めてだ。空いたテーブルにつき、注文したベーグルとコーヒーを待つ。こんなひとときが好き。
●濱本祐子
研修に行く。推しのトートバッグを目立たぬようロゴを隠し肩に掛けて。別に見つかってもいいけどちょっと恥ずかしいから。すると後ろにいた仕事の上役に「元祖鯉 広島東洋カープ」と音読された。
●前田元子
半世紀使ったミシンの代わりにやってきたコンピューターミシン。はじめは言葉の通じない異星人のようだったが、慣れてくると思いのほか素直で、糸を通したり針をあげたり下げたりとやさしく手伝ってくれる。
●前場勢津子
ジャーッ。台所の流し台で水を流し、野菜や器を洗うのが好き。この心地よさはどこからくるのか。誰にも譲りたくない時。楽しい時。キュッ! 蛇口を閉め、自己陶酔の時は終わった。やり終えたあとの満足感。フーッ。
●横山利子
お隣の庭にバスケットゴール出現。子どもさん2人バスケを始めたらしい。朝夕聞こえるボールの音、笑い声、パパママの声も混じる。わたしも掃除機をリズミカルに動かす。そして想像のボールを思い切りよく投げ込む。
※掲載は五十音順・敬称略
※掲載にあたりルビは()内に記載しています。
※一部の作品は、講師監修のもと加筆・修正を行いました。
山本ふみこさんからひとこと
皆さんの「100字エッセー」傑作選です。
おたのしみくださいまし。
「100字エッセー」は書き手をいろいろな意味で鍛え、脳もこころもやわらかくしてくれます。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
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