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- エッセー作品「Lサイズ、メンズです」甲斐てい子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第9期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「仕上げる」です。甲斐てい子さんの「Lサイズ、メンズです」と山本さんの講評です。
Lサイズ、メンズです。
鹿児島(夫の実家)に帰省する日、横浜(自宅)はとても暖かかった。
2月半ばというのに最高気温が16度とか18度とか。
春物の一重のコートでもよさそうだったが、ごく薄いダウンの上着を着た、念のため。
南の鹿児島はもっと暖かく、上着いらずだった。
街路樹の椿はどれも今を盛りと赤い花を咲かせてはぽたぽた落とし、モクレンは暖かさに急かされたか、おっとりと上品な印象を裏切って、バタバタと白い花を開いていた。
ところがである。
横浜に帰る前日、明日から気温がぐっと下がる、との予報になった。
最高でも8度。10度も下がるのか。寒がりのわたしは不安になる。
「そんなのでいいの?」と薄くて短いダウンのジャケットしか持ってきていないわたしに夫は言うのである。
ますます不安になる。
そこで夫が着てきたライナー付きのカメラマンコートを借りることに。
帰るのはわたしだけだし、夫は前日新しいジャケットを購入していたので問題はないのだが……
わたしは大柄だが、メンズのLサイズのカメラマンコートはさすがに大きい。
ちょっと重いがコートの中で体が泳ぐ感覚は、うん、悪くない、かな。
長年の愛用でくたびれて、肩の線も崩れている。
だらんと垂れた袖は、袖口を1回折り返すと、ダークブラウンの裏地が出て、スエード調の暗い表地のアクセントにならなくもない。
「ヘンじゃない?大あわてで、夫の服をひっかけてきた必死の妻、っぽくない?」
「ぜんぜん」
そっか。
大き目のリュックにスニーカーで来ていたから、翌日わたしは、大きめのコートに大きめのリュックとスニーカーで、空港バスのターミナルへと歩いた。
東京ほど何を着ていても構わないところはない。
くたびれたメンズのコートだが、守られているような安心感?気分はいい。
おっと、ポケットに夫のサングラス。
トドメにこれを頭にのせるとするか。
山本ふみこさんからひとこと
愉快ですね。
こんなお茶目なたのしみ方ができるのは、おしゃれさんの証です。
お姿が目に浮かぶなあ、実際に見たかったなあと思わせることにも成功しています。
長年の愛用でくたびれて、肩の線も崩れている。
だらんと垂れた袖は、袖口を一回折り返すと、ダークブラウンの裏地が出て、スエード調の暗い表地のアクセントにならなくもない。(本文より)
おお、なんて素敵。
この正確な描写、生きていますね。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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