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- エッセー作品「月参り」加地由佳さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。加地由佳さんの作品「月参り」と青木さんの講評です。
月参り
夫を見送り、早くも8年が過ぎました。
夫は会社を後輩に譲り、ほっとしたのか、ある朝、突然に立てなくなり車いすの生活となりました。
若い頃から猪突猛進の性格で、趣味も仕事という、外ばかりの日々から、一転して家ごもりとなったのです。
一時、入退院もありましたが、「やりたいことは、すべてやり切った、後悔はない」と言いつつ生涯を閉じました。
夫の8年半余りの介護の日々は、私はいろんな方に支えられ、一喜一憂しながら、無我夢中でした。
見送った頃は、寂しさよりも、やれやれ、とほっとする想いで一杯でした。
日がたつにつれ、夫の財務整理や会社の事など、難題が次々と降りかかりました。
四十九日の法要後には、菩提寺の住職様が
「若輩な者で故人へのお経が足りないから毎月命日に月参りに伺いたい」
と深々とお辞儀をされました。
夫はお寺の檀家総代を務めさせて頂いて、先代の住職が亡くなり、新しい住職様の引き継ぎにも尽力をしました。
若い住職は息子と同年です。
私は月参りを断ることもできず「お願いします」と頭を下げました。
それからは毎月19日午前10時から、お参りとなりました。
前日より仏壇をよりきれいに掃除、灰ふるい、お花を入れ替えて、お供え物も用意します。
当日は40分余り私も正座をして後ろでお経を頂きます。
終わるとお茶とお菓子でお接待をして近況や雑談をします。
隣に住む息子一家よりも住職様一家の様子がよくわかり、すっかりと住職様と親しくなり仲良しです。
甘党だと知り、大福餅を作りお土産にしたら、そのお子様にまで、「また、大福餅をもらってきて」と言われるやら。
私は久しぶりの和菓子作りに目覚めるやら。
6月のお菓子は水無月を作るつもりで、お稽古をして本番に備えねばと思います。
作るのは好きで、ついつい試食しすぎるのが問題だと、いつも思いながら、
住職様やお子様の喜んで下さる顔を楽しみに、今月も月参りの日を迎えたいと思います。
青木奈緖さんからひとこと
旦那様を見送られて八年、淡々とふり返っていらっしゃいますが、喜び・悲しみに彩られた日々だったに違いありません。そしてこの間、月命日にもご住職をお迎えしてお経をあげて頂いているとのこと、なかなかできることではありませんね。それでも何事も継続した先に見えてくるものがあるものです。
この方は講座開設からずっと参加してくださって、今ではご自身のスタイルをしっかり身につけていらっしゃいます。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。講座の受講期間は半年間。
ハルメク365では、青木先生が選んだ作品と解説動画をどなたでもご覧になってお楽しみいただけます(毎月25日更新予定)。
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