毎日着たい大人のワンピース!実用性&ときめきが叶う
2024.09.052021年07月07日
夏が楽しくなるストール・帽子・洋服をご紹介
涼やかで美しく夏を彩るメイドインジャパンの小物たち
長い夏を、少しでも心地よく過ごす方法はないものでしょうか。そこでお話を伺ったのは、日本人の暮らしを見つめてきた、全国各地の老舗や職人の方々。夏を涼しく過ごすメイドインジャパンのアイテムと知恵を紹介します。
東京青梅「壺草苑」と山梨「武藤株式会社」が出合って生まれた、極薄の藍染ストール
6月の初め、電車を乗り継いで訪れたのは東京・青梅市。駅から一歩出ると、緑の匂いが鼻をくすぐります。そこから車でおよそ5分も行けば、住宅地の中に美しい藍の布が現れます。夏の蒸し暑さを、サアッと吹き飛ばすようなすがすがしい光景。そこが、江戸時代から伝わる天然の藍染の古法を現代に受け継いできた「壺草苑(こそうえん)」です。
「うちでは昔ながらの『天然藍灰汁発酵建て』という製法にこだわって、天然素材だけを使用した藍染を今も行っています。最近は化学染料で染めた藍染も多く出回り、それも同じように『本藍』と呼ばれたりする。でも、色の深さや美しさは、並べてみると格段に違います」。そう語るのは、壺草苑の工房長である村田徳行(むらた・のりゆき)さん。
藍を染める液を作ることを「藍建(あいだて)」と言い、その大元には、蒅(すくも)と呼ばれる原料が必要です。それは、蓼藍(たであい)という植物を発酵させ、約1年間という長い時間をかけて作り上げるもの。夏の間に刈り取りを行い、冬の間も温度を一定にしながら発酵させていく……その手間のかかり具合から、今では作り手が激減してしまったそう。
その貴重な原料の蒅(すくも)を取り寄せ、壺草苑の工房で、灰を使った灰汁(あく)、酒、ふすま(小麦粉の皮)を加えながらさらに発酵をさせていく。こうして手間暇をかけて育て上げた藍で染めた色は、ハッと目がさめるような美しさです。
「壺草苑さんに出合ったのは、15年くらい前のこと。そのモノづくりのすごさに魅せられて、ぜひ一緒に仕事をしたいと思いました」。そう言うのは山梨県のストールメーカー武藤株式会社の武藤英之(むとう・ひでゆき)さん。「muto」のストールは、極細の天然繊維を使った、繊細で軽い着け心地が特長です。
「今は高速の織機で織るやり方が主流ですが、うちでは昔からあるシャトル織機で、低速で織り上げています。大量生産の方がもちろん儲かるんだけど、あえて手間がかかるやり方で挑戦したい。これ以上ないくらい細い糸を使って織ったストールは、着け心地がとても軽くて肩が凝らず、肌にもやさしいんです」。
そんな二つのモノづくりが出合って生まれたのが、極細の麻糸を使った藍染のストール。この極薄のストールを木製の板に挟み、何度も藍にくぐらせて染め上げていくことで、どこにもない唯一の色柄が生まれます。つけているのを忘れるほどの軽さで、暑苦しくなく、首まわりをさわやかに包んでくれるのです。
工房長の村田さんいわく「もともと藍染は体を守るために始まったもので、古来から虫よけなどにも使われてきました。夏に身に着けると、目にも涼やかで気持ちいい。白いブラウスなんかに巻くと、色が際立ってきれいですよ」。
壺草苑の村田徳行さん(左)、武藤株式会社の武藤英之さん(右)。「丁寧で嘘のないモノづくりでつながっている」というお二人の作り上げる藍染ストールは、まさに唯一無二の美しさです
横浜元町「近沢レース店」の扱いが楽な普段使いのレースアイテム
ハンカチにマスク……今の暮らしに欠かせなくなった小物たち。そんな必需品にもちょっとした遊び心が加われば、気分が明るくなるものです。蒸し暑い夏には、さわやかなレースがそんな気持ちに味方してくれます。
レースと聞くと、なんとなく高級品、とか、エレガントなよそゆき用……と思われる方も多いのではないでしょうか。神奈川県の横浜元町に代々続く「近沢レース店」は、そんなイメージを覆す、普段使いのレースを提案しています。
「レースって、ちょっとしたスパイスみたいなもので、少し取り入れるだけで気分が明るくなったり心が癒やされたり、そういう効果があるものだと思います。それ自体にパンチがきき過ぎていると取り入れづらかったりしますが、ちょっとした使い方ですごく素敵に変わる。私たちは、レースをどんなふうに暮らしに取り入れてもらったらよいかを、常に考えてきました」と、取締役の近澤匡祐(ちかざわ・ただすけ)さんは言います。
「近沢レース店」は、シルクの輸出商として創業したのち、横浜元町でリネンストアを開業。外国人居住地に住まう人々を相手に、テーブルクロスやハンカチ、ピローケースなどの日用品を中心に取り扱っていました。そのお客様からの注文で装飾に入れていたレースや刺しゅうが評判となり、レース製品の専門店に発展したという歴史があります。
「だから、レースはもちろんですが、麻についてもこだわりが強いんです。さまざまな国の麻を比べて、アイテムによって一番良いものを選んでいます。ここにある麻のブラウスは確か創業から間もないころ、当時は冷房なんてない時代でしたから『どうにか夏を涼しく過ごせるものはないか』と、考えられたものだと聞いています。いかに暮らしに寄り添ったモノを提案できるか。それが私たちの仕事だと思っています」
そして「近沢レース店」と言えばこれ、という看板商品がレースつきのハンカチです。美しいレースで描かれるモチーフは無限大。編集部員も愛用していますが、何度洗濯してもレースがよれず、パリっとしたままです。
「レースは繊細なイメージがありますが、普段使っていただくには洗濯に強くないと意味がない。例えば最近人気のタオルハンカチなら、普通は綿のレースをあしらうのが一般的です。でもうちではあえてポリエステルのレースを使う。
タオルハンカチって、アイロン掛けをしないで使えるのが魅力でしょう?でもレースがヨレててアイロン掛けしなきゃ、となったら面倒ですよね。だから型崩れしにくい、丈夫なポリエステル糸を使っているんです。
また縫い付けも上手にしないと、レースが変に浮いてきてしまう。それを抑えるには、職人の丁寧な技術が必要。これをきれいにできる職人は、なかなかいないんです」と近澤さん。
汗をかく季節、機能性とともに気分も明るく変えてくれる。そんなレースの品を一つ取り入れてみると、夏がより涼しく、楽しく変わるかもしれません。
東京「ベル・モード」の顔かたちを美しく見せるクローシュ
日差しの強い夏に欠かせない小物といえば、帽子。でも帽子ってモノによってかぶりにくかったり、似合わなかったり、選ぶのに迷ってしまいませんか。
「良い帽子にとって必要な条件は、まず心地よくかぶれること。そして美しく見えること。日本人に一番似合うものを届け続けたい」。そう語るのは、東京の老舗帽子店、「ベル・モード」会長の喜多洋子(きた・ひろこ)さん。「ベル・モード」はフランス語で「麗しきモード」。
創業者である筒井光康(つつい・みつやす)さんは、大正の終わりにパリで帽子の製法を学び技術を持ち帰った、日本の帽子業界の先駆者です。
「それまで日本にあった帽子は、すべて輸入もの。外国の方の頭は長方形で、日本人の頭はどちらかというと丸い。そもそもの形が違うので、かぶりにくいものでした。本当に日本人の頭や顔の形に合うものを作りたい、と、お店を開いたのが始まりで」そんな帽子づくりの精神が、今もずっと引き継がれているのです。
「長年やってきて、つばの長さがどのくらいだとかぶったときキレイに見えるか、ステッチの幅は何mmがいいのか……という知識をたくさん蓄えてきました。ちょっとしたつばの傾きで、見え方は全然違う。
例えば女性だと顔への影の入り方次第で、すっきりと小顔に見えたりするんです」。その細やかなモノづくりを支えるのが、日本の職人の技術。
「デザインによって木型の種類も変えながら、ミリ単位で調整して作っているので、職人の手次第で仕上がりが変わってきます」。 細かいステッチまで、工房の熟練職人が一点一点丁寧に縫い上げる。だからこそ、その心地よさと美しさは格別。ふんわりと守られているようなかぶり心地に、思わず笑顔がこぼれます。
「やっぱり、かぶったときに『素敵だね、いいね』って喜んでもらえるものが基本。そんな帽子を、これからも作り続けたいですね」
青森「北洋硝子」が作る自然の色彩を閉じ込めた津軽びいどろペンダント
夏が深まり強まる日差し。紫外線や暑さを連れてくる反面、夏の光を受けてきらきらと輝く水面や美しい木漏れ日には、思わず時間を忘れて見とれてしまいます。
そんな自然の美しさを閉じ込めたハンドメイドガラス「津軽びいどろ」は、青森県で昭和24年に創業した「北洋硝子」が生んだ工芸品。「うちの魅力は何といってもこの“色”。色を入れたガラスは他でも見られますが、うちは、自社調合した100色もの色ガラスを使って、青森の自然を表現しています。例えば海や山は、色が青だけ、緑だけでできているということはありませんよね。青の中でも淡い色と深い色がある。白を入れたらもっと奥行きが出る……そういう、言葉では表現できない細かい部分まで再現することができるんです」と、職人の篠原義和(しのはら・よしかず)さん。
ただ色ガラスはその色によって膨張率が違い、単に色ガラスを入れればその色になる……というわけではありません。一緒に使ったときに割れてしまわないよう綿密に調合され、職人技によって微調整しながら着色しているのです。
「特にペンダントのような小さな製品は、一瞬で熱が冷めてしまうので注意が必要です。着色して、熱してを短時間で繰り返すスピード勝負。しずく型の先の小さい穴まで、熱が下がらないうちに成形するので集中力が要ります。でも少しでも時間をかけてしまうと、この自然な丸いカーブに仕上がらない。いかに人の手が“かかっていない”ように見せるかが、こだわりなんですよ」
そうして出来上がったガラスは、万華鏡をのぞいたときのように心が躍る華やかさ。胸元に着けるだけで、なんだかお守りのように心が癒やされます。
「津軽びいどろは『光の器』。光を受けることによって、その美しさが際立ちます。津軽びいどろのグラスに水を張って、窓辺に置いておくだけで絵になるんですよ。青森は雪国だから夏の光を恋しく思う気持ちが人一倍あるんでしょう。また身に着けると服の色によって表情が変わる。その楽しさも一緒に味わってもらえたら」。
メイドインジャパンの小物たちを味方につけて、心地よく、気分よく過ごすことで、日本の長い夏もグンと楽しく変わりそうです。
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