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- そして6年後-奥穂高への道3
国内旅行で巡った観光地や心に刻まれた風景を綴ります。今回は50歳ころから始めた山登りについて。井上靖の小説『氷壁』を読んで憧れていた涸沢カールへ。しかし涸沢カールも奥穂高岳も見ることはできず……。それから6年後リベンジの登山へ向かうのです。
1日目
2000年、私は『氷壁』を読んで憧れ続けてきた涸沢へ。しかし涸沢カールも奥穂高岳も見ることはできませんでした。そんな悲しい経験をし、3,000m級の奥穂高岳へ登る一大決心をしたのです(詳細:「奥穂高への道1」「奥穂高への道2」)。
涸沢行きから6年後(2006年)、3泊4日の比較的ゆったりした奥穂高岳登山ツアーに参加しました。このツアーは上高地集合・解散ですので、夫と2人新宿から朝出発の直通バスを利用しました。昼過ぎには順調に上高地着、今日は横尾の山小屋まで3時間ほどの行程です。
時期は7月終わり、本来なら梅雨も明けているはずが、この年はいつまでもグスグズした空模様が続いていました。参加者は女性6名、男性8名の計14名でした。
2日目
今日も天気はよくありません。前回歩いた横尾から本谷橋までの道は整備されており、前回のような川歩き(?)は免れましたが、相変わらず視界は悪いまま、いつになったら梅雨は明けるのでしょうか。雨の降り方や梅雨の明け方は、子どもの頃の様子とは少しずつ姿を変えているように感じられます。
またこの冬は全国的に雪が多かったようで、涸沢カールは一面真っ白な雪に覆われており、ナナカマドがようやく芽吹き始めたばかりでした。
6本歯の軽アイゼンを装着して雪渓を進みます。ザイテングラートと呼ばれる岩稜に取り付き、岩を這い登りますが、高度が上がっているため息苦しく次の一歩が重く感じられます。仕方のないことですが、ツアーは自分のペースでは登れないことがとても辛かったです。
小雨の中、ザイテングラートに入ってすぐ一瞬雲が切れ、前穂高岳から吊尾根、穂高岳山荘が目に飛び込んできました。誰もが雨、雨、雨に辟易していましたから、一斉に歓声が上がります。
薄い酸素に苦しみながらも穂高岳山荘に到着、「雲の中だろうとついにここまで来た」と感激ひとしおでした。濡れた衣服は乾燥室へ、温かいコーヒーを飲みつつストーブを囲み、ツアーのお仲間との談笑が心嬉しい時間でした。
3日目
「奇跡の幕開け」……もうそれ以外に私は言葉を持ちません。朝、騒がしさに目を覚まし外に出てみると、目に飛び込んできたのは見渡す限りの雲海とそこから突き出す山々の頂き、そして真っ青な空でした。
なんと奥穂高岳山頂を目指すこの日に、梅雨明けが発表されたのです。
ザックを小屋前に置き、必要なものだけサブザックに詰めていよいよ山頂を目指します。
山小屋から見上げる奥穂高岳はまさに岩稜地帯、まさかこの岩壁からは登らないだろうと思っていたら、ガイドの方は迷うことなく壁に取り付きます。鎖とハシゴの連続、登る人と下る人が交代しつつ高度を上げていきます。
そしてついに山頂、この素晴らしい天気の中、憧れ続けた奥穂高岳の山頂を自分の足で踏みしめていました。足が震え、胸が震え、弾ける思いが体の中をほとばしります。
目を転ずると笠ヶ岳が、槍ヶ岳、北穂高岳、前穂高岳、西穂高岳、常念岳、乗鞍岳そして御嶽山がその美しい姿を輝くような雲海を従えて聳え立っていました。その時私は、この不甲斐ない登りをする私をここまで連れてきてくれた夫に、深い感謝を覚えました。
涸沢小屋にて
山頂での記念撮影後、慎重に穂高岳山荘まで戻り、涸沢岳に寄り道して帰路に着きます。今夜は涸沢にあるもう一つの山小屋である涸沢小屋に宿泊します。
山の天気は午後から雲が湧きやすいのですが、今日は雲ひとつなく晴れ渡り、前穂高岳から奥穂高岳、涸沢岳が夕景の中でくっきりと存在感を示しています。
テラスで好きな飲物を頂きながら暮れなずんでゆく山々の姿を堪能しました。山小屋の消灯時間は早く、必然的に山では早寝早起きが原則です。
翌日、朝から晴れ渡った涸沢から雲ひとつない穂高連峰のモルゲンロートを目にしました。澄み渡った空気の中で目にした穂高のモルゲンロート、山々が紫色から徐々に陽の光を浴びながら鮮やかなオレンジ色に姿を変えていく姿は、美しさを通り越してただただ神々しいばかりでした。
【後記】
私は上りが遅いので、登山口までのアプローチが個人ではなかなか大変な山や、技量的に未知数な山行のときだけ山岳ガイド同行のツアーを利用しています。どのようなガイドさんに当たるかは運次第になってしまいますが、良いガイドさんに恵まれれば、高山植物の名前を教えてくれたり、皆が苦しそうになれば花を見たり写真を取らせてくれたりと息つく時間をとってくれ、登山の楽しさが倍増します(いつも同じツアー会社を使い続け、自分向きのガイドさんがいたらチェックをしておき、その方が同行するツアーをツアー会社に教えてもらったり、ガイドさんに直接確認するのも手です)。
登山は、上りは比較的誰でもスイスイ行けてしまうのですが、意外と下りが難しく要注意です。事故は下りに多いのです。数をこなしつついろいろなものを吸収していただければと思います。ご参考までに。
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