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2018年11月06日
美しい自然と向き合いにいく旅物語
国内旅行で巡った観光地や心に刻まれた風景を綴ります。今回は50歳ころから始めた山登りについて。井上靖の小説『氷壁』を読んで憧れていた、涸沢カールと呼ばれる美しい谷。奥穂高岳へのルート途中にあるその場所に向けて踏み出したお話です。
私が山に登り始めたのは50歳ころです。一人息子が小さいうちはオートキャンプ場に寝泊まりし、滝巡りや自然探勝路など豊かな自然にたっぷりと浸っていたものでした。そのうち息子は親と出かけなくなり、ふっと自分のどこかに穴が空いたような寂しさを感じるようになりました。
そんな時、学生時代に読んだ井上靖の小説『氷壁』を思い出したのです。読み終わってからいつか「涸沢(からさわ)に行ってみたい、涸沢カールと呼ばれる美しい谷を見てみたい」と憧れ続け、その場所に向けて踏み出したときが、山への一歩となったのです。
登山関連の本で調べると、上高地から横尾までは高低差のない平坦な道を行くようです。それでも全くの素人が、北アルプスにそびえる奥穂高岳へのルート途中にある涸沢まで登ろうというのですから、準備だけは必要です。
知人で登山をされる方に、私のような登山の経験がない者でも涸沢までの往復は可能か伺ったところ、「装備をしっかりすること、焦らずに高度順応しつつマイペースで登ること」とアドバイスをいただきました。
私は夫と名前も知らない小さな滝や、1~2時間山道を歩かないとたどり着けない滝を結構楽しんでいましたので、山道歩きには比較的慣れていました。それを踏まえ意を決して2000年8月、夫と2人涸沢へと旅立ちました。当時私は52歳でした。
初日は上高地から明神池を見学し徳沢園で1泊します。
上高地から梓川左岸を1時間ほど歩き、梓川にかかる明神橋を渡ると明神池です。
ここには穂高神社奥宮があり、秋には大祭が行われます。池の水はどこまでも透明で、空を、樹々を写し込み静かな空間が広がっています。水面を見つめていても飽きることがなく、日々の喧騒を忘れ、心が空っぽになれる場所でした。
ここには嘉門次小屋があり食事もできます。かの有名なウォルター・ウェストンが奥穂高岳を登頂したとき、案内人として同行したのが上條嘉門次氏で、この小屋にはウェストンが使ったピッケルも飾られています。
明神池から更に1時間程左岸を歩けばハルニレに囲まれた草原、徳沢に到着します。
この草原は昭和初期、夏の間は牛や馬が放牧されていたそうで、その跡地は現在キャンプ地になっています。5月には白く可憐なニリンソウの群落が美しいところです。
徳沢には井上靖が定宿にしていた徳沢園という山小屋があり、「氷壁の宿」とも呼ばれています。小説『氷壁』に憧れての山行き(?)ですから、ここで宿泊することに決めていました。
小屋泊まりは初めてでしたが、静かな時間が流れていき、穏やかな1日の終りになりました。上高地から明神へ、明神から徳沢へとたどる道すがら、少しずつ山懐に入り込んで行くような期待と不安が湧いてくる一日でした。
山に登られる方ならカールが何たるかはご存知でしょう。かつての氷河による浸食作用によってできたすり鉢状の広い谷のことで、ちょうどスプーンで掬ったような地形です。
カールと呼ばれる地形は日本にもいくつかありますが、奥穂高岳にあるものを涸沢カールと呼んでいます。涸沢カールの紅葉の美しさはとても有名ですし、奥穂高岳は人気の山ですので、夏になると涸沢ヒュッテのテント場は色とりどりのテントで埋め尽くされます。
次回登山2日目は、30年憧れ続けてきた場所である涸沢へ。しかし私はそこで悲しくて涙してしまうのです。