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国内旅行で巡った観光地や心に刻まれた風景を綴ります。今回は50歳ころから始めた山登りについて。井上靖の小説『氷壁』を読んで憧れていた、涸沢カールと呼ばれる美しい谷についに到着! なのに悲しくて涙が……!?
2日目、本谷橋まで
今日は梓川左岸を更に1時間ほど進み、横尾に向かいます。ここで道は奥穂高岳への道と槍ヶ岳への道に別れます。
今回私達は奥穂高岳への道をとり、横尾大橋を渡って本谷橋を目指します。これまでに比べたら道は細くなり登山道という趣ですが、しばらくは比較的平坦な道のりで、道の左手には屏風岩という大きな岩壁がそそり立ちクライマーに人気の場所です。
横尾から本谷橋までの標高差は150m強、1時間30分ほどで楽に歩けます。
本谷橋から涸沢まで
天気はあまり良くなく、雨が心配です。ここから涸沢(2,300m)まで標高差は510m、2時間ほどで到着できる予定です。
本谷橋を慎重にわたり終えると、道はいよいよ本格的な登山道となり、右側を梓川の支流が流れ落ちていきます。
夫はスイスイ登っていきますが、私は2,000mを超えると息苦しさを感じ始め少し遅れ気味になりました。高いところは平地に比べると酸素濃度が薄くなります。2,000mで平地の80%弱、2,500mで75%弱、3,000mで70%弱の濃度になるので、息苦しさを伴います。
それに加え、私は上りが苦手で時間もかかります(ですが、高山病になったことは一度もありません。その反対に下りは大得意です)。
夫にペースをあわせてもらい、こまめに休憩を取りながら自分のペースで登り続けて2時間半後、なんとか涸沢に到着しました。
道中ついに雨模様になってしまい、雲の中ですからもちろん涸沢カールも奥穂高岳も見えないのが残念です。これも山懐に入り込んだ自然の有り様のひとつなのだと、納得するしかありません。
今日は涸沢ヒュッテという山小屋に泊まります。清冽な山の空気が心地よく息をするたびに疲れを持ち去ってくれ、どこか懐かしいような山小屋の匂いに心癒される時間が流れていきます。
3日目、ただただ雨
出発は8月初めでしたが、この2泊3日の山行きのうち、2日目、3日目ともに天候には恵まれず、3日目はかなりの雨模様になってしまいました。
持参したセパレート型の雨具が登山仕様ではなかったため、流れ落ちる汗で衣服は中までぐしょ濡れでした。
本谷橋から横尾までの登山道は川のように水が流れ、靴の中はまるでザブザブの池、ひたすら黙々と上高地まで戻ってきました。かなりの雨の中、はじめての急な登山道の下りを、とにかく慎重に慎重に、かつスピーディにひたすら夫の後について下り降りてきました。
後々あの馬鹿力(?)は何だったのだろうと不思議に思います。上高地で入ったお風呂がもう天国でした。
それでも山へ?
実は3日目の朝、山小屋を出発する時私はポロっと泣いてしまいました。30年憧れ続けてきた場所である涸沢に自分は立っているのに、涸沢カールも奥穂高岳も一度も私の前に姿を現さなかったからです。
自分が場違いな所にいるようで、例えようもなく悲しくちょっと辛かったのです。
その時慰めてくれた夫の一言で、私はもう一度涸沢に来ることを決めました。そして涸沢のさらに先、日本第三位の標高を誇る奥穂高岳(3,190m)に登るという一大決心をしました。
私は登山に関しては素人で、奥穂高岳にいきなり登ることは体力的にも未知数で、技量も伴いません。まずは初心者向きの比較的低い山から中級の山へと徐々にトレーニングを積んでいくことにしました。
靴もトレッキングシューズから登山靴へ、雨具は登山仕様の本格的なもの、ザック、ウェア・パンツ・靴下・ストックも登山用のもの、これらをしっかり準備することは自分の身の安全にも繋がります。さまざまな過程をこなした6年後、私は念願の奥穂高岳に挑戦したのです。
その、3,000m級の奥穂高岳に挑戦した話は次回へ。
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