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- 私の仕事は、結婚式の披露宴の司会でした(3)
専業主婦が、憧れていたブライダル司会者へ道を切り開く。20年間、現役のブライダル司会者として仕事をし続けてきた過去や、これからのことを語ります。今回はスクール卒業後、プロとしてデビューするために事務所へひたすら電話をかけた体験談です。
心得と現実の辛さに挟まれて
ブライダル司会者になるためのレッスンは アナウンスレッスンは勿論、接遇マナー、結婚式の歴史を含め、あらゆることまで勉強しなくてはならなく、本当に何もかもが初めてのことばかりでした。
特にブライダル司会者の心得の中で、“結婚式の依頼当日に万が一、自分の家族の不孝と重なった場合でも、絶対に現場に行くこと”“自分が死んでしまい、この世からいなくなった以外は、はってでも現場にいかなくてはならないこと”があり、これを聞いた時は凄い世界に入ったものだと思いました。しかしまだその時はそこまで重く受け止めてはいませんでした。
数年後、私が中堅司会者になった頃、母を脳梗塞で見送ることになりました。病院から母の遺体が実家に戻って来たのに、私は披露宴の現場に行かなければならず、一生懸命にいつもと同じように振る舞い、「おめでとうございます」とアナウンスしていました。
披露宴がお開きになり会場からの帰り道、辛くて泣きながら歩いたことは今でも忘れません。あとにも先にもここまで辛いことは、私の人生の中でもありませんでした。
母に教えてもらった接遇マナーが財産に
私の実家は呉服屋で、私は呉服屋の娘でした。接遇マナーに関しては、小さい頃から母に教えてもらったと共に、母の後ろ姿を見て自然に覚えたことも多かったようで、あまり苦労したことはなかったように思います。さまざまな研修でステップアップし検定試験を受け、現在は講師として指導もしています。母に教えてもらったことすべてが私の財産となったようです。
体に染み付いた業界用語で恥ずかしい思いも
業界用語はたくさんありますが、何より驚いたのは夜でも「おはようございます」と挨拶をすることです。新人はいろんなホテル、レストラン、会館、神社で、まずは顔と名前を覚えてもらわなくては仕事につながりません。たとえネズミでも挨拶することが、新人の大切な仕事です。「おはようございます。宜しくお願いいたします」と一日100回、200回、いや、300回くらい言っていたような気がします。
さすがにネズミには一度も遭遇はしませんでしたが、犬や猫には「おはようございます」と本当に言っていました。この習慣は完全に体に染みつきました。仕事以外でも「おはようございます」と言ってしまうのです。それが夜でもつい言ってしまうのです。けげんな顔をされ本当に恥ずかしです。最近は年代が上がってきたので、ボケてると思われたのではないかと心配しています。でも習慣とは恐ろしいもので、やっぱり「おはようございます」と言ってしまいます。
アナウンスレッスンはひたすら練習あるの
アナウンスの練習は、発声練習 “あ え い う え お あ お”。おなかから声を出し、正しい口の形で発声します。ア行からワ行まで声を出していくと、うっすら汗がでてきます。
早口言葉、“新春 シャンソンショー”“青巻紙 赤巻紙 黄巻紙”。原稿の中には読みにくい言葉、文もあります。それに対応する練習が早口言葉です。これは正しい口の形で正確に音をだしていくしか方法はなく、ただひたすら練習しかありません。
結婚式の歴史や流れを理解して、自分なりに把握してアナウンスをしていくには日常すべてが練習でした。道にある看板を正しく発声する。電車の外の景色を実況していく。トイレで鏡があれば口角をあげ笑顔の練習をする。ふと気が付くと白い目で見られ、恥ずかし思いも随分してきました。主人に“独り言を言っているよ”と良く言われたことも記憶しています。
しかし何が大変といっても、やはり人前で喋ることでした。自主練習をやっていても緊張から声がうわずったり、頭が真っ白になり出てこなかったり……。上手い下手以前に人前で平常心で話すのは、私にとっては簡単なことではありませんでした。20年たった今でも、大きなステ-ジやテレビ、ラジオの仕事の時は、内心はドキドキしています。でもプロという立場上、平常心を装っているのです。
司会事務所へかたっぱしから電話
スクールでの初級クラスでの話しに戻ります。予習・復習を必死でおこなう毎日。迷う時間も与えられず、もちろん追加のお金を払い、中級クラス、上級クラスに進んでいきました。上級クラスに進むと実習先のみなさんの話から、卒業後のことや業界のこともだんだんわかるようになりました。そこで司会者はプロダクションに所属しなければ、仕事ができないこともはっきりわかりました。
有名な所では、お笑い芸人は吉本興業、タレントはホリプロと、テレビなどで聞いたことがあると思います。司会者も同様にプロダクションがあります。まずはプロダクションに所属しなければ仕事はもらえません。
そのプロダクションに所属するにはオ-ディションを受けて、合格しないと所属できません。私の通っていたスク-ルは卒業したらそれで終了でした。卒業オ-ディションと、カリキュラムにはありましたが、それは簡単に言えば卒業発表会。いつもの授業の中で一人ずつ成果を見せるだけでした。
初級 中級 上級クラスと30万以上お金をかけてきました。そして約1年という年月も費やしてきました。でもまもなく向かえる卒業で、すべての過程が終了になるのです。主人が頑張って働いてくれたお金でいろいろ勉強できたからといっても、これで終わりとはどうしても納得できませんでした。
私は企業電話帳を見て、司会事務所にかたっぱしから電話をかけました。しかしどの事務所もデビューすらしていない私の話を聞いてくれるところはなく、必死にかけまくりました。そしてやっと会ってくれるという事務所を見つけ、私はそのプロダクションに入ることができやっとデビューにこぎつけつけたのです。でもここでも大きな落とし穴が待っていたのです。
それは次回にお話しますね。
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