私の好きなイイ男たち その2

漫画家生活40周年 ひかわきょうこの黒髪男子たち

公開日:2020.04.09

リアルタイムで手塚治虫を読み東映作品を見て育ち、累計鑑賞本数は1500本以上。「漫画・映画・アニメは私にとって酸素のようなもの」と語るK・やすなさんがあふれる漫画愛をつづります。今回は、ひかわきょうこさんが描く黒髪男子についてです。

ロマンチックコメディから西部劇まで ヒーローはかっこいい黒髪男子

 

『メロディ』表紙
『メロディ』表紙
『メロディ』付録
『メロディ』付録

昭和の乙女たちを胸キュンさせた、ひかわきょうこが昨年で画業40周年を迎えました。

最近はウェブサイトや同人誌などの発表手段が増えて、数え切れないくらいの漫画の描き手がいます。その中で長い間第一線で活躍されているのは、ご本人の才能と努力のたまものですね。

『春を待つころ』のふじおみくん
『春を待つころ』のふじおみくん
『荒野の天使ども』のダグラス
『荒野の天使ども』のダグラス

私がひかわきょうこをチェックし始めたのは、学校を舞台にしたいわゆる「ロマコメ」とか「ラブコメ」のジャンルから、西部劇を描き始めてからです。

初期の、硬派だけれどさりげなく優しい、そして、長身細身黒髪イケメン男子(なんと完璧な!笑)藤臣くんと、ドジだけれど何事も一生懸命なちまちまっとした(作者の表現)千津美ちゃんとの恋の行方を描いた連作は、当時人気がありました。

絵柄も1980年代の作家に多かった、少し細めで強弱があり、線の入りと終わりがきれいなペンタッチです。

それがなんと、ずっとその世界でいくと思いきや、西部劇の連載を始めてしまうのです。驚きの選択ですね。だって大変なんですよ、西部劇って!

まず馬や牛が描けないとだめです。西部劇は基本は男の世界で、悪役顔やそれらしい背景や建物を描くことも必要。

そして、絶対に外せないのが、カウボーイのテンガロンハットです。

帽子姿の人物をカッコよく描くのは難しいと思います。特に女性の作家の描く軍帽・制帽は残念なものが見受けられます。

少し話はそれますが、さいとうちほは帽子姿のキャラクターを描くのが上手です。『VSルパン』ご覧になるとよくわかります。ルパンの時代って成人男子は必ずと言っていいほど帽子かぶってましたから、苦手じゃ話になりませんよね。

『ルパン』
『ルパン』

こんな厳しい条件をクリアした『荒野の天使ども』、『時間をとめて待っていて』もまた、黒髪のイケメン流れ者カウボーイダグラスとおてんば娘ミリアムの物語です。

出会ったときはダグラス17歳、ミリアム8歳、さまざまな事件が起こり2人に10年の時が流れていきます。

 

私が無人島に持っていくならこの作品『彼方から』

『彼方から』
『彼方から』

ひかわきょうこは、西部劇を連載してから、絵の線の質が変わってきたようです。内容に引きずられたせいか、少女漫画のきらびやかな感じがいい意味で薄まり、幅広い層が読める感じになったと思います。

そんなタイミングで登場したのが『彼方から』です。個人的には、無人島とあの世に持って行くと決めているくらいに大好きな作品です。

この記事に掲載するために『彼方から』の写真を撮ろうと、久しぶりに引っ張り出したら、全7巻を3回繰り返して読んでしまい、我が家が機能停止に……(だからしまい込んであったのですが)。

設定がしっかりしていて無駄がなく、登場人物が脇役に至るまで、それぞれの人生を推測できるくらい丁寧に作りこまれています。心温まる場面、泣ける場面、ハラハラドキドキの場面など、読み終わってもあそこをもう一度という具合に、何度読んでも飽きません。

ちゃんと(!?)「壁ドン」もあるんですよ!

 

異世界ファンタジーの傑作、主人公イザークも魅力的

『彼方から』画集

こちらが私の好きなイイ男ナンバーワンは、イザーク・キア・タージくん18歳です。無口黒髪細身、秘密を抱え、力をひけらかせず心根は優しく、ごくごく稀におちゃめなこともする実に私の「ツボ」の男子でございます。

ヒロインより描いているコマ数が多いし、「いい男」、「きれいなにーちゃん」、「美しい」などと周りの人間にガンガン言わせているので、作者は描いていて楽しかったことでしょう。実にうらやましい。

隣はノリコ。ひかわ作品のヒロインは健気な子が多く、読んでいて元気をもらえます。彼女もかわいらしいけれど芯は強く、自分のできることを一生懸命するタイプです。

この作品は、平凡な女子高生ノリコが異世界に飛ばされるところから始まります。そこで出会ったのが渡り戦士(傭兵みたいなものです)のイザークでした。

彼は、特殊な力を持っていることを隠して生きてきました。ところが、その力を破壊的で邪悪なものに覚醒させる「目覚め」という存在が出現すると知って、それを抹殺するために待ち受けていたのでした。

しかし、何も知らないノリコに必死で頼られて、やむなく二人で旅をすることになったのです。

二人の力を手に入れて世界を支配しようともくろむ敵と闘い、心優しい人々と助け合いながら日々を送るうちに、イザークとノリコは心を通わせていきます。

異世界で男女が出会って戦って恋をして……というありがちな話で終わらないのが、『彼方から』の魅力です。自分の内面と向き合い、本質に「目覚め」、その先の世界と自分の関わりにまで思いをはせるという、心の旅の物語でもあると思います。

好きなところを挙げるときりがないので、最後に一つだけ。

異世界に飛ばされたノリコが、言葉を一から覚えていくところが好きというか、素晴らしい設定だと思いました。異世界や過去未来に飛ばされるジャンルの話では、ほぼ言葉の不自由がないのがお約束。

キスの力やら特殊アイテムやら前の世界で勉強していたということでクリアしている、あんな話こんな話……。広い心(笑)で見逃してあげているのですが(笑)、この作品はぬかりなかったですね。

言葉を勉強中に起こるエピソードも楽しいし、ノリコの前向きな姿勢も読み手に伝わってきます。

絶賛しておりますが、ご安心ください! 『彼方から』は、優れたSF作品に与えられる「星雲賞」を受賞しています。過去の受賞者には萩尾望都、竹宮惠子、宮崎駿などそうそうたるメンバーが名を連ねています。
 

その他の作品にも素敵な人が登場

『お伽もよう綾にしき』1
『お伽もよう綾にしき』1
お伽もよう2
お伽もよう2

『彼方から』の後、始まったのが『お伽もよう綾にしき』のシリーズです。

もののけと交流できる不思議な力をもった鈴音と、彼女の親代わりだった修験者の新九郎との恋と冒険の物語です。二人は力を合わせて、妖怪(というより、それを操る人の心の中の悪)と戦います。初めての時代劇で、室町時代の設定も新鮮です。

この二人は邪気がなく微笑ましいカップルで、読んでいて心が和みます。二人に絡む、もののけが変化している「おじゃる様」という俺様なお公家さんキャラが秀逸で、こちらも読み飽きない作品です。

回収していない伏線があるような気がするので、小休止中と理解しているのですが、どうなのでしょうか? 再開を望んでいます。

魔法にかかった新学期
魔法にかかった新学期

現在第二部を連載中です。

『魔法にかかった新学期』も、男性が保護者的存在で、再会した幼なじみで高校教師と生徒というカップルです。古代文字の力を借りて、彼らを含む5人で、人の心を曇らせる怪しいものと戦います。

黒髪男子ではないけれど「まーくん」も誠実でいいですよ。公開されているプロフィールによると、作者は現在63歳。「ハルメク世代」ですね(笑)。

これからもよい作品、そして黒髪イケメン男子を生み出してほしいです。私も、読み手として感性や体力気力を衰えさせないようにして、ついていきます!

本日の作品

  • 『春を待つ頃』白泉社文庫 1979年から81年までの藤臣くんに会えます。
  • 『荒野の天使ども』白泉社文庫 1984年と85年の作品集。続編『時間をとめて待っていて』があります。
  • 『彼方から』白泉社文庫 1991~2003年連載
  • 『お伽もよう綾にしき』白泉社文庫・花とゆめコミックス 2005~2008年連載
  • 『お伽もよう綾にしき ふたたび』花とゆめコミックス 2009年~
  • 『魔法にかかった新学期』花とゆめコミックス 2017年~ 連載中

 ※『画集 彼方から』は絶版

K・やすな

漫画、アニメ、映画鑑賞、読書が趣味の自称「オタクな主婦」。子どものころは考古学者か漫画家志望。美術館めぐりや街歩きも好きだが、基本的に単独行動。なぜか、どこへ行っても道を尋ねられる。好きな花はカワラナデシコ。

マイページに保存

\ この記事をみんなに伝えよう /

注目企画