50代おひとりさまが本当に望む暮らしを求めて地方移住。小さく働き、豊かに暮らす術
2024.12.232019年10月18日
数々の悲しい別れを乗り越えて。最終回
59歳からの1人暮らし~ひとり時間の楽しみ方~
50代で遭遇した6人との死別。夫や妹、友人を交通事故やがんといった病で亡くし、大きな悲しみから立ち直っていく経験談。今回は最終回。「寂しさは時薬が癒してくれる」と話す朝川さんの、ひとり時間の過ごし方です。
楽しいと思える時間
突然夫が他界しひとり暮らしになってから4年が過ぎました。
時々「将来ひとりになったら」と考えることはあったけれど、ずっと先のことだと思っていました。この頃ようやく時間の使い方が上手になってきました。
ジムでの運動や観葉植物や蘭を育てること、帯や和服をリメイクすることも好きな時間です。
そして本は10代の頃から常に近くにあります。家から歩いて数分の所に図書館があることは幸運なことです。寝る前はいつも本を読んでいます。
これらのことは夫が健在の時から私の楽しみでした。
ピアノについて
娘たちは2人とも3歳過ぎからピアノを習い始め今もレッスンに通っています。長い年月が経ち発表会での演奏は最後の方になりました。
私は幼稚園の音楽教室でオルガンから始めました。その後好みではない先生につきいつのまにか止めていました。不完全なピアノだったのです。娘たちの成長を見ながら「いつか私もきちんと習いたい」と思ってきました。
娘たちの結婚式で夫が歌を歌いました。私はピアノを弾くために数ヶ月レッスンに通いました。大人になって習う楽しさを実感しました。運動と同じで弾く前の基礎練習が重要だということ、指の置き方で音が違うこと、ペダルの踏み方で済んだ音が出ること、先生のアドバイスで少しずつ曲が仕上がっていくことがとても嬉しかったです。私もピアノを習い始めようと思っていました。
でも夫が他界してから夫との思い出があるピアノを弾くことはありませんでした。
鍵盤に触れるようになった
昨年の秋、偶然入ったお店は静かで落ち着いていました。珈琲がとても美味しかったです。そこに懐かしい曲が流れていました。バッハです。
初めて夫と2人で会ったのは原宿の「プレイバッハ」というお店でした。ジャズ風にアレンジしたバッハの曲が流れていました。店内にはたくさんのかすみ草が飾られていました。
バッハを聴きながら忘れていたことを次々に思い出しました。
帰宅して久しぶりにピアノを開けました。少し怖かったけれどそっと弾いてみました。指がこわばって思うように動きません。ちょっとずつ音が出てきました。
いつの間にか1時間が過ぎていました。
ピアノは亡くなった妹も弾いていました。色のあせた楽譜には娘達の練習の跡がいっぱいです。彼女たちの幼かった頃、キラキラしていた頃が楽譜ににじんでいるようです。
またピアノを弾く時間ができました。楽しいと思うことが増えました。
先生のレッスンを受ける日も近いかもしれません。
時薬の効果
私にとって大事な身内や友人が次々と亡くなり、身体の中に穴が空いたような時期がありました。
そしていつの間にか1人暮らしも5年経っていました。「寂しさは時薬が癒してくれる」と言われます。この頃楽しいと思えることが少しずつ増えてきました。
時間を忘れるくらい夢中になれること、今日は昨日より成長したなと感じること、無から何かを作ること、胸が熱くなって叫びたくなるくらい感動すること。
これからもそんなエネルギーを自分の中に持ち続けていたいです。
今回を最終にいたします。