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子煩悩な父と教育熱心な母。育ててくれた両親への感謝と、たくさんの愛をもって生き、懸命に家庭を築いたその生きざまを上野さんが娘の視点から語ります。
子煩悩な父
私の父は1913(大正2)年、母は1914(大正3)年に埼玉県で生まれました。二人は同郷で、1939(昭和14)年に結婚しました。その後、東京都杉並区阿佐ヶ谷で茶・海苔販売業をして、私たち子ども4人を育ててくれました。
父はよく働く人で、正直で実直な人でした。そして、とても子煩悩な人でした。
実家には1955(昭和30)年代には、まだお風呂がなく、銭湯に行くのが日課でした。
お風呂に行くことができない日は、父が大きなやかんでお湯を沸かし、洗面器にタオルを浸し、熱いタオルをフ-フ-と冷まして、4人の子どもの顔を拭いてくれます。そして、顔を拭きながら一人一人に必ず、「ほーら、日本一いい子ができた」と言ってくれました。私は兄たちも私もみんな日本一なんだと思って、小躍りしながら布団に入ったのを思い出します。
私は末っ子で父親っ子でした。幼少のころいつも父のひざに座っていました。この温かい父のひざが、私の「生きる」の原点です。
教育熱心な母
母は子どもの成長を楽しみに生きてきた人だと思います。この頃の母親は近所の人とお茶飲みぐらいが息抜きだったと思います。決して経済的には豊かではありませんでした。昭和の時代の家事は電化製品もなく、かまどでご飯を炊いて、たらいで洗濯をしていたのです。
電気洗濯機を買ったときは「ああ、これで楽ができる」と喜んでいました。
私と母は駅の方の商店街によく買い物に出かけました。母が惣菜を買っている間私は本屋に入ります。モンゴメリ-の『赤毛のアン』などをよく読んでいました。私はE・ポータ-著の『栗毛のパレアナ』という本を見つけ欲しくなりました。母に「欲しい本があったけど、200円もするのよ。高いよね?」というと、「いいから、買いな」と言ってくれました。1965(昭和40)年ころはラ-メンが70円の時代でしたので、200円は大変だったと思います。
母は教育熱心な人でした。
母の突然の死
前回も書きましたが、母は1975(昭和50)年12月に亡くなりました。その年私と次兄の結婚式があり、母も疲れていたのだと思います。11月に次兄の結婚式が終わり、12月9日に次兄の家に遊びに行くので海苔巻きを作り、出かけました。そして、駅で倒れたのです。クモ膜下出血でした。その頃はまだ脳外科の手術もままならず、5日後の14日に亡くなりました。
父の母への愛
母が亡くなったとき、父は母に深々と長々と頭を下げ「長い間ご苦労様でした」と言い、泣く間もなく、「さあ、葬式だ」と自分に言い聞かせるように振り向きました。その父の姿に男らしさを強く感じました。それから父は15年間一人暮らしをするのです。その時、父62歳、母61歳でした。
母が亡くなってから、私はよく実家に通いました。ある年の5月25日だったと思います。仏壇にきれいな芍薬の花が飾ってあります。「あら、きれい、だれかにもらったの?」と聞くと、父は「違うよ。買ったんだよ。今日は母さんとの結婚記念日だから」といったのです。父の母へのすてきな愛に、私の心は震えました。
父の死
父は1990(平成2)年7月に胸の痛みを訴え入院しました。そして、母と同じく一週間で亡くなりました。心不全でした。よく生きざまが死にざまといいますが、両親共長患いしなかったので理想の死に行くさまだったのかもしれません。
父は生前、毎朝東の空に向かって柏手を打って、その日のみんなの無事を祈ってくれていました。これもまた、頭を深々と下げるのです。今も高い所で私たちを見守ってくれていると思います。
私の両親は本当に普通の人で、大きなことを成し得た有名人ではありません。でも、こうして実直に正直にたくさんの愛をもって生き、懸命に家庭を築いたその生きざまを、残された私たちに見せておく、このことも大変なことだと思うのです。
私にとって最初の教師は両親です。そして今も尊敬し、誇りに思っています。
どう生きたのかという風景が顔に表れるといいます。私も両親を見習って限られた人生をハッピ-にするべく努力していきます。
セピア色のお話でした。
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