西村玲子

2019年12月16日

「おひとり様レッスン」は一人旅からスタート!

【西村玲子さんイラスト旅行記】直島でアートな一人旅

イラストレーターの西村玲子さんが一人旅に挑戦。旅程を決め、手配をし、瀬戸内海に浮かぶ芸術の島「直島」へ1泊2日。「ひとりで何かをすることは、暮らし方や年齢にかかわらず、人生を楽しむためのひとつの選択肢だと思う」という。

一人旅は…仕事以外では行ったことがない

一人旅は慣れていた。仕事でいろんなところに出かけているから。そう簡単に考えていたのは間違いであった。

「一人旅に出かけるという企画、大丈夫です」、うきうきとお引き受けした。どこにしようかと考えることから旅が始まる。以前から気になっていた直島が浮かぶと、ほかの候補地は霧に包まれて消えていった、今度はお願いよーという声を残しながら。

わくわくと、一人旅の計画。無謀な欲望も出てくる

早速ガイドブックを買う。直島だけのというものは見当たらない。しかしそれが想像の翼を広げてくれる。

岡山まで新幹線で行くとして、倉敷にも寄ろうかしら。友人が勧めてくれた豊島にも行きたいし、2泊して尾道まで、と無謀な欲望も出てくる。ガイドブックでの旅は自由で若々しい。年齢も考えてくださいませ、そうであった。2泊はやめて1泊、と絞り込む。

明日午前10時10分の『のぞみ』に。準備はできた。できるだけ荷物は軽く、余分なものは持たない。大きめのトートバッグにする。これは何でも入りすぎて、必要なものがすぐ見つからず失敗。

 

 

さて、岡山に到着。宇野港行きの電車、すぐには来ない。そんなところから、ずれが生じる。山手線や地下鉄の乗換えと同じに考えていたわけである。

港でも船が出るのが1時間後。その辺りにはカフェもなく、ぼんやりと時間を過ごす。カフェさえあれば文庫本を読んでいくらでも時間を過ごせるのだが、と嘆く。

時間に追われるのは嫌だけれど、ここのところはしっかり調べてロスのないようにしなければと、もう遅いが反省する。

直島に着いた。宿泊先の車が迎えてくれる。途中、直島の説明をされながら、すばらしいホテルに到着。部屋に案内されてふーっ。部屋からの眺めは美しい。ディナーを20時にしてよかった。周辺を見て回ることにする。

洗練された広々とした公園と海と山。ぽんぽんとアート作品が置かれていて、馴染んでいる。「Final Call」という作品は金属の触れ合う音と風に動く形、池の水の動きが見事でいつまでも見ていたい。

ドライブウェイのような山道を散歩する。舗装されたきれいな道だが、人にも車にも会わず、ただ風になびく木々の音だけ。こんなところで暗くなってしまったら大変と引き返す。少しはやせたかしら。

レストランはベネッセハウスミュージアムの中。大きな空間に私の好きなサイ・トンブリやホックニー、ジェニファー・バルトレットなどの作品がゆったりと並んでいる。こんなことなら散歩をしないで、もっと早く来ればよかったと思ったが、食事の後も鑑賞できるシステム。画集を持っている人々の本物の作品を、こうして静かにひとりで(食事していた人はちらほら)、贅沢の極みであった。

 

 

 

一人旅なら、計画していなかった楽しみも

あくる日は朝食を食べながら計画を立てる。クライマックスの地中美術館を観たら、高松に出てから帰ることにした。同じ航路を帰るより四国に渡って瀬戸大橋線。豊島も倉敷も行けなかったが、そんなに焦ることもあるまいと言い聞かせる。

次回というものがあればその時にね。年齢がふとそういう言葉を使わせた。

地中美術館はアプローチの美しい庭園から、いきなりシビアでシンプルな内部へ。暗い空間の上のぽっかりと四角い空。そぎ落とされたそれらの中を動きながら人間とは、人生とはという思いに駆られる。これはざわざわとグループで来ないで1人か2人、静かに体験したい。

港でまた、ずれが生じる。高松港までの船に乗るのに2時間待つことになる。ちょうど雨が降り始め、雨の音を聞きながらぼんやりアイフォンなど見て過ごす。ま、無事に船に乗り込み、瀬戸大橋の上を走る列車の快適だったこと。往復したいくらいである。

岡山から東京に。家に帰り着いたのは22時くらいになっていた。ひとり旅、癖になりそうである。反省点を学習したらもっといいものになりそうです。

 

■にしむら・れいこ
1942(昭和17)年生まれ。エッセイスト、イラストレーター。暮らしの中の素敵なものを色鉛筆で、描き続けている。『西村玲子のていねいだけど軽やかな暮らし』(株式会社ハルメク刊)。

イラスト・文=西村玲子 構成=竹上久恵(編集部)

※この記事は、2014年7月号「いきいき」(現「ハルメク」)の掲載記事を再編集しています。

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