コート・ニットの洗濯・手洗いのコツ

2023年05月01日

洗濯のプロが教える春の衣替えのコツ・1

ウールやポリエステルのコート、ニットの洗い方のコツ

気温が上がる5月・GW(ゴールデンウィーク)は春の衣替えシーズンですね。冬物衣類の収納で特に困るのが、ダウンコートやセーターの洗濯。そこで知っているようで意外と知らない、コートやニットの洗濯方法・手洗いのコツを、洗濯のプロに教わりました。

汗・皮脂・ホコリは、ドライクリーニングでは落ちない!

今回お話を伺ったのは、プロの洗濯職人集団として、国内外のトップアーティストの舞台衣装クリーニングを請け負う、洗濯職人集団「洗濯ブラザーズ」。大切な服を長く着続けてほしいという理念から、各地で正しい洗濯法を伝える講習会も行っています。

洗濯ブラザーズ


「実は、ニットやコートは、ただ押し洗いするだけでは、汚れは落とせないんです」と、次男の茂木康之さん。

「多くの方と話してわかったのが、正しい洗濯方法を知っている人はごくわずかということ。特にニットやコートはドライクリーニングに出すものと思い込んでいる方が多いのですが、実はそうとは限りません」

本来ドライクリーニングは、水に弱い素材を水の代わりに油性の溶剤で洗う方法です。

「でも、衣替えの際に落とすべきは、汗と皮脂、ホコリ汚れ。これらは水溶性のためドライクリーニングでは落とせないのです」

コートやニットの洗濯・手洗いのポイントはすすぎと脱水

手洗いで汗や皮脂、ホコリ汚れを落とすポイントは、洗剤と水を先に混ぜ、しっかり泡立てること。

「日本の水は軟水のため、衣類に洗剤が浸透しやすい一方、洗剤が衣類に残りやすいんです。洗剤のすすぎ残しは縮みや色落ちなどの原因になるため、よく混ぜることで洗剤ムラをなくし、泡で繊維を守りながら洗うのが正解です」と、三男の今井良さんは言います。

そしてもう一つ、すすぎの前に脱水をかけることも重要なポイントです。

「汚れは押し洗いの作業で落ちるのではなく、洗濯機の脱水をかけることで繊維からはがれ落ちていくのです」

コートやニットを家で手洗いするメリット

  1. 気になる汚れがすっきり落ちる
  2. 風合いがよみがえり、長持ち
  3. クリーニング店に持っていく手間が省ける
  4. 節約になる

手洗いの準備:家で洗える素材か見分ける!

家で洗える素材かそうでないか


手洗いをする前に注意が必要なのが、衣類の素材です。基本的にニットやコートも家で洗えますが、光沢やシワ加工が施されたデザインは洗濯後の手入れが難しいので、プロに任せましょう。

家で洗える素材

・アンゴラ:毛足が長く、縮みやすい素材。洗う前に身丈、袖丈の採寸を。
・ポリエステル:化学繊維の一つで、丈夫。裏地などによく使われている。
・ウール:着用頻度が高く、汗や皮脂を吸収しやすい。水洗いが必須。
・シルク:部分的に濡れると輪染みになりやすいが、正しく洗えばOK。
・カシミヤ:ウールと同様、汗や皮脂を吸収しやすく、水洗いがベスト。 

家で洗えない、洗いにくい素材

・キュプラ:裏地によく使われる素材で、水濡れすると縮んでしまう。
・混紡素材:性質の異なる素材の混紡は、水洗いは避けるのが賢明。
・皮革・毛皮:水に濡れると繊維が硬くなり、シミや型崩れの原因に。
・光沢・シワ加工のもの:光沢やシワ加工の再現はプロに任せるべき技と心得て。
・レーヨン:シルクに似た化学繊維。水に濡れると大幅に縮んでしまう。

注意!ボタンなどの装飾はアルミホイルでカバーを

くるみボタンの守り方

くるみボタンやビーズなどが付いた服は、装飾をアルミホイルでくるんでおけば自宅洗い可能。割れるのを防止できます。

手洗いの手順1:洗剤をなじませて汚れを浮かす

洗剤をなじませて汚れを浮かす


何度か着たニットには、汗や皮脂が蓄積しています。それらを落とすには、前処理をして汚れを浮かすことが肝心。ここではカシミヤのカーディガンで実践していきます。ウールのコートやシルクのスカーフなども同様のやり方で行います。

汚れをチェックすべき3大ポイントは、襟・袖口・脇!

襟ぐりはファンデーション汚れ、袖口には皮脂汚れ、汗腺のある脇の下には汗汚れが蓄積。黒ずんだり黄ばんだり、色が変化していることも。汗や皮脂汚れは、肌が触れる内側部分に付着するため、ボタンなどを外して、しっかり内側を確認します。

【準備するもの】

洗濯アイテム

・洗濯用桶
・中性洗剤
・洗濯用ブラシ

汚れを浮かす方法

汚れを浮かす方法

1.水で薄めた洗剤液をつけます
中性洗剤と水を1対1の割合で薄めた洗剤液(前処理用)をブラシに付け、汚れ部分に垂直にたたきつけます。

2.洗剤液を浸透させます
毛羽立ちがおきないように優しくたたき、繊維の奥まで洗剤液を浸透させます。生地を傷めるので、くれぐれもこすらないように注意。

3.指の腹でさらになじませます
洗剤液がしっかり浸透したら、指の腹で優しく生地をなでて、さらに洗剤液を繊維になじませます。

4.時間をおきます
通常の汚れなら10分以内、汚れがひどいものは15分ほど時間をおきます。写真のように汚れが浮き上がってきたら、次の手順へ。

状態・アイテム別汚れを浮かせるコツ

ダウンコートに付着する汗や皮脂汚れ、ウールコートの表面に付いたホコリ汚れ、セーターなどのニットに付いたシミは、素材や状態に合わせた前処理で汚れを浮かせましょう。

・ナイロン製ダウンコートの洗濯方法

ナイロン製ダウンコートの洗濯方法

水と洗剤を1対1で混ぜた洗剤液をスポンジに含ませ、よく泡立てます。スポンジで汚れを優しくこすり、泡で汚れを分解させます。

・ウールのコートの洗濯方法

ウールのコートの洗濯方法

洗う前にブラシでホコリを落とし、毛玉を取っておきましょう。毛玉取りには、歯ブラシが便利。軽くこするだけで驚くほど取れます。

・シミがついたニットの洗濯方法

シミがついたニットの洗濯方法

セーターの洗濯で特に多いお悩みが、シミ汚れです。コーヒーやしょうゆなどの汚れも、ついてから1週間以内なら大丈夫。服の裏側にシミが移らないよう手を入れ、前処理用洗剤液をつけたブラシでシミをたたきます。

手洗いの手順2:桶の中で押し洗いをして、汚れを動かす

前処理で汚れを浮かせたら洗剤液につけ込み、押し洗いをしていきます。押し洗いは1着ずつ行い、洗剤液の汚れ具合によっては、同じ洗剤液で2~3着洗ってもOKです。

押し洗いの方法

押し洗いのやり方

1.たっぷりの水に洗剤を入れる
水または30℃以下のぬるま湯5Lに、中性洗剤を5ml入れます。お湯の方が汚れ落ちはよいですが、生地は傷みやすくなるので注意。

2.洗剤液をしっかり泡立てる
洗剤液をかき混ぜ、しっかり泡立てます。この泡が汚れを動かすとともに、クッションとなって繊維を傷みから守ってくれます。

3.衣類をつけ込み、押し洗い
カシミヤやウール、シルクは浮きやすいため、しっかり押して沈めます。続けて3~5分間押し洗いをしていくと、徐々に汚れが出て、水が濁ってきます。

4.下処理した部分を軽くこする
襟ぐり、袖口、脇の下の部分や、汚れている部分は、汚れが動きやすくなるよう指の腹で優しくこすります。

5.3分つけたら絞る
押し洗いを終えたら、そのまま3分ほどつけおき、繊維の奥に蓄積した汚れまで落としやすくします。その後手で軽く絞ります。

手洗いの手順3:洗濯機で1分だけ脱水し、汚れを落とす

ここまでの工程で、繊維の奥にたまっていた汚れが落ちやすくなっています。ここで脱水をかけることで、汚れを根こそぎはがし落としていきます。

脱水の方法

脱水の方法

1.洗濯ネットに入れる
摩擦で繊維が傷まないよう、ネットに入れます。ネットの中で衣類が動かないよう、ネットの余った部分は縛るのがポイント。

2.1分間脱水する
脱水時間を1分にセットし、脱水。うまく回らないときは乾いたバスタオルを1枚入れると重量のバランスが整い、回り出します。

手洗いの手順4:きれいな水ですすぎ、洗剤を洗い流す

きれいな水でしっかりすすぎ、洗剤の残りまでしっかり洗い流します。ここで水が濁るなら、まだ汚れが残っている証拠。その場合は「手順2」からもう一度やり直しましょう。

すすぎの方法

すすぎの方法

1.水を取り換え、衣類を入れる
きれいな水に取り換えた桶に、ネットから出した衣類を入れ、押し洗いと同じ要領で衣類を優しく押しながらすすぎます。

2.洗剤の残りがないかチェック
繊維の一部が白くなっている部分は、洗剤が残っているサイン。指で優しくもみ洗いをして、残り洗剤をしっかり落とします。

3.再び脱水を3分かける
2度目の脱水は、ニットは1分、コートは30秒。コートは脱水時間をあえて短縮して水気を残しておくのがポイントです。

手洗いの手順5:自然乾燥で8割くらい干す

脱水が終わったら形を整えて、直射日光が当たらない場所で、少し湿り気を感じる程度まで乾かします。扇風機などで風を送りながら、近くに除湿器を置くと効率よく乾かせます。

ポイント1:平干しで型崩れ防止

型崩れしないニットの干し方

バスタオルの上に、形を整えて平らに干します。タオルが濡れてきたら取り換え、衣類の向きもときどき変えて、満遍なく乾かします。

ポイント2:ハンガー使用時は重みを分散!型崩れを防ぐ

ニットの干し方

セーターは型崩れを防ぐために、2本のハンガーをそれぞれ肩と身頃に通し、重みを分散させながら干します。コートは、1本のハンガーにかけ、少し多めに残した水気の重みで、生地を伸ばしながら干します。

手洗いの手順6:アイロンやドライヤーで乾燥させる

ニットは仕上げにスチームアイロンの蒸気を当てながら完全に乾かします。ダウンは、ドライヤーの温風で熱を与え、羽毛をしっかり乾燥させることが大切です。

ポイント1:アイロンの蒸気を当てる

ニットのアイロン方法

ニットからアイロンを少し浮かし、蒸気を満遍なく当てます。繊維がふっくらとして毛並みが整い、新品同様の風合いに仕上がります。

ポイント2:ドライヤーで内側から熱風を送る

ダウンの乾かし方

ドライヤーの先端を袖口に通し、裾を手で押さえながら約10分温風を送り、乾燥。羽毛がダマにならず、ふんわり感がよみがえります。

これで、コートやニットの洗濯・手洗いも怖くありませんね。衣替えの際は、ニットやコートの汚れをしっかり落としてから収納しましょう!

次回は、春の衣替えで服の虫食い・カビを防ぐコツを紹介します。

■教えてくれた人

洗濯ブラザーズ

洗濯ブラザーズ

3人兄弟で洋服の正しい洗濯法を普及する洗濯のプロ集団。次男(中央)が営むクリーニング店「リブレ ヨコハマ」は、劇団四季などの舞台衣装のクリーニングを手掛ける。長男(左)と三男(右)は洗剤開発などを担当。

【店舗情報】
LIVRER yokohama

住所:神奈川県横浜市都筑区すみれが丘20-2
電話:045-624-8320
営業時間:10時~18時 水曜定休

取材・文=大門恵子(ハルメク編集部) 撮影=公文美和

※この記事は2019年6月号「ハルメク」に掲載された内容を再編集しています。

■もっと知りたい■


※雑誌「ハルメク」は定期購読誌です。書店ではお買い求めいただけません。詳しくは雑誌ハルメクのサイトをご確認ください。

HALMEK up編集部
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