コンビニの成人誌販売中止を契機に、考えたいこと

公開日:2019年02月21日

女性や子どもの性的搾取に無意識になっていませんか?

コンビニの成人誌販売中止を契機に、考えたいこと

コンビニの成人誌販売中止を契機に、考えたいこと

コンビニ大手各社が、「成人向け雑誌」を2019年8月末までに販売を中止する方針を決定しました。この問題をめぐっては表現の自由を重視する出版業界と、女性や子どもの人権を重視する行政・市民の間で対立がありました。販売中止に動いた背景を伝えます。

女性の胸を強調したアニメキャラが公共空間に

セブン-イレブンやローソン、ファミリーマートなどのコンビニ大手3社は1月、「成人向け雑誌」の販売中止を発表しました。販売中止の理由には、女性や子どもが安心して買い物ができる環境を整えることと、2020年の東京オリンピック・パラリンピックや2025年の大阪万博を前に、訪日外国人客が増加することへの配慮をあげています。ミニストップもすでに販売を中止する方針を決めており、国内の9割のコンビニで成人向け雑誌の取り扱いがなくなる予定だそうです。
(2019年1月21日ローソンプレスリリース「成人向け雑誌取扱い中止のお知らせ」、1月22日 共同通信47ニュース「ファミマ『成人向け雑誌』販売中止を発表 2000店から拡大『原則、全国の店舗』」他)

コンビニの「成人向け雑誌」は、業界団体「日本フランチャイズチェーン協会」のガイドラインに沿った形で、各都道府県の条例に則り流通が許可されているものです。条例で流通が規制される「有害図書」に比べて過激さが抑えられ、陳列棚には一般の雑誌と区別され、立ち読みができないようにシール留めがされています。とはいえ実際には、表紙には下着姿の女性や、胸を強調したアニメキャラクターが扇情的に描かれており、女性客らからは「子どもを連れて安心して店舗に入れない」などという苦情がコンビニ各社に寄せられていました。
 

成人雑誌は「人権侵害」か、「表現の自由」か

撤去が決まる前には、自治体や雑誌業界の間で、さまざまな駆け引きがありました。発端は2016年3月、大阪府堺市が成人向け雑誌の表紙を独自の包装で目隠しをする取り組みを行ったことでした。「UN Women」(ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関)と連携し、公的空間における女性・女児への性暴力やセクハラを防止する試みで、のちに千葉市にも波及しました。しかしこの取り組みを日本雑誌協会と日本書籍出版協会は「表現の自由」に基づく「出版の自由」や市民の「図書選択の自由」の観点から問題視し、堺市に対し「このような間違ったフィルム包装を即刻取りやめることを求める」という内容の申し入れ書を提出しました。

成人向け雑誌や、有害図書をめぐっては、憲法で保障される表現者・出版社側の「表現の自由」と、「人権」とが常に対立してきました。出版社や雑誌社はジャーナリズムであるため「公権力の表現規制」を嫌い、特に行政が介在する規制があった場合は、それに強く反発します。国民を戦争に向かわせるなどの不等な権力をはねのけるという意味では表現の自由は確かに重要ですが、女性や子どもの人権を軽視する事態も招いてきたのも事実です。

近年、人権上の観点から問題視されているのが、アニメや漫画のキャラクターの表現です。市場で販売されたりネット上に公開されるアニメの中には、少女や子どもを性的に描く児童ポルノと見間違うようなものがあります。自治体がまちおこしに活用した「碧志摩(あおしま)メグ」という17歳の美少女“萌えキャラ”が、「性的すぎる」と、公認撤回を求める運動に発展したこともありました。

国連女性差別撤廃委員会は2016年、日本は「ポルノや漫画、アニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲームなどによって、ヴァーチャルな子どもの性的搾取表現の主要製造者とされてきた」という問題を指摘しています。(2017年4月 日弁連「国連女性差別撤廃委員会 総括所見の活かし方と今後の課題」30ページより)

しかし、法的にはアニメやイラストなどの場合、特定の個人の人権が侵害されるとはいえません。その結果、「不快だ」という人がいて、「不快ではない」という人がいるというレベルで争うことになり、論争は水かけ論で終わってしまうのです。(永田えり子「〈性の商品化〉は道徳的か」江原由美子編『性の商品化』(勁草書房)10-11ページより)
 

家族連れや高齢者が利用する公共空間に、なじまない商品

ポルノ雑誌販売

※イメージ

 

コンビニは、今や誰もが自由に入ることができる公共空間です。青少年や女性、子どもが立ち入る場所に、性的な表現を掲載した雑誌があることは、欧米では考えられません。英国BBCは、日本のコンビニの「成人向け雑誌」を「ポルノ雑誌」と呼び、それらが廃止されたことをニュースにしています。

記事では「コンビニ利用者が、かつての男性客中心から、家族連れや高齢者も利用する空間に変わってきている」という時代の変化をあげ、こうした雑誌がもう売れなくなっている時代になったことを説明しています。(1月22日BBCニュース「2020年オリンピック:日本のコンビニチェーンが、ポルノ雑誌を廃止」)

元ローソン社員で流通ジャーナリストの渡辺広明さんは、「(成人向け雑誌は)売り上げの1%程度になり、批判の声が多い上に売り上げも減った。コンビニにとって『面倒な商品』になっていることは間違いない」と語っています。経営戦略の一環として、コンビニ各店が自主的に販売をやめたという構図が浮かびます。(1月23日朝日新聞「コンビニ『成人向け雑誌』販売中止、なぜ今」より)

コンビニには長きにわたり、「成人向け雑誌を置かないでほしい」という女性の声が寄せられていました。しかし、その声は聞き入れられてきませんでした。今回、初めて撤去されることになった理由が、販売数の落ち込みや、東京オリンピックというのでは、論点がズレています。

今回の問題の本質は、実は「女性や子どもの性的搾取」の問題です。売れるからという理由で、当然のように公共空間で成人向け雑誌が販売されてきたこともさることながら、女性や子どもを狙った性的搾取は近年、巧妙化し、女子高生を巻き込むJKビジネスなどにも発展しています。ただ普通に暮らしているだけで、それはじわじわと襲いかかってくることもあります。最近は、繁華街を風俗店の求人サイトを宣伝するトラックが、大音量で歌を流しながら走行し、その歌を子どもが覚えてしまうといった問題も指摘されています。性的情報の氾濫に、日本はあまりにも無頓着です。(2017年9月8日 弁護士ドットコム「走るアドトラック」)
 

性の商品化をストップするために、発信してほしい

しかし今回、注目したいのは、コンビニが自主規制に動いた背景には、女性たちの声があったという点です「あのコーナーが嫌だ」と思った女性客が個人的にコンビニに苦情を申し立てたり、チェンジオルグ(https://www.change.org/)という署名サイトで「みんなが使いやすいコンビニを」と呼びかけたり、新日本婦人の会(https://www.shinfujin.gr.jp/)が、「女性や子どもたちが安心して訪れることができるように」とコンビニに撤去を要請してきたりしたこともありました。新日本婦人の会では、全国320のコンビニ店舗に要請を行い、ツイッター上などでも積極的に発信したところ、「私もずっと嫌だと思っていた」などの声が次々寄せられ、共感が広がっていったといいます。

「この性的な表現は、嫌だ!許せない!」と思うことがあったら、チェンジオルグで署名を呼びかけたり、ツイッターやブログを使うなど、何らかの形で発信していってほしいと思います。今回のように、何かが動くきっかけになるかもしれません。
 

清水 麻子
清水 麻子

しみず・あさこ ジャーナリスト・ライター。青山学院大学卒、東京大学大学院修了。20年以上新聞社記者や雑誌編集者として、主に社会保障分野を取材。独立後は社会的弱者、マイノリティの社会的包摂について各媒体で執筆。虐待等で親と暮らせない子どもの支援活動に従事。tokyo-satooyanavi.com

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