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- 【映画レビュー】セザール賞で7部門受賞!「幻滅」
女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回は、19世紀の文豪オノレ・ド・バルザックが44歳で書き上げた『幻滅―メディア戦記』を映画化。第47回セザール賞で、7部門受賞の快挙を成し遂げた注目の作品です。
「幻滅」
19世紀の文豪オノレ・ド・バルザックが44歳で書き上げた『幻滅―メディア戦記』を映画化した本作は、フランスのアカデミー賞といわれる第47回セザール賞で、ベネチア国際映画祭金獅子賞の「あのこと」などを抑え、作品賞など7部門受賞の快挙を成し遂げた注目の作品だ。
舞台は、19世紀前半のフランス。宮廷貴族が復活し、享楽的な生活や文学、芸術が復活した時代である。
成功を夢見る若き詩人リュシアン(バンジャマン・ヴォワザン)は、パリへ出て、ブルジョア階級の新聞編集者ルストー(ヴァンサン・ラコスト)と出会うが、やがて、虚飾と快楽にまみれた世界へ身を投じていく。
バルザックは、俯瞰(ふかん)で社会を捉え冷徹といわれるまでの眼差しでその真髄を見つめ、そこに生きる人間の生き様を描き出した。この物語でも、メディア界の腐敗や欺瞞ぎまんを容赦なく描き出しているが、面白いことに起こっていることは、今日と変わらない。
愛憎入り交じる人間模様だけでなく、インターネット時代の悪業のようにいわれているフェイクニュースやステルスマーケティングなども変わらない。
つまりとても現代的なのである。監督のグザヴィエ・ジャノリは、この映画化を25年間温め、ついに実現したという信念の持ち主だが、20年どころか人間の本質は数世紀という時を経てもそれほど変わっていないというのは大いなる皮肉でもある。
主要な登場人物の中で、カナダのスター監督で俳優としても活躍するグザヴィエ・ドラン演じるナタンは、原作には登場しない人物だ。俗物のルストーと対極にある志の高い芸術至上主義者であり、ある種バルザックの分身ともいえる。人間は弱く愚かであるが、そこに甘んずることを決してよしとしない監督の分身ともいえるだろう。
「幻滅」
詩人として成功を夢見るリュシアンは、愛人関係にある貴族の人妻と駆け落ち同然にパリへ出る。ブルジョア階級で小さな新聞社の編集者であるルスト−と知り合った彼は野望渦巻くメディア界に身を投じていく。
監督/グザヴィエ・ジャノリ
出演/バンジャマン・ヴォワザン、セシル・ド・フランス、ヴァンサン・ラコスト、グザヴィエ・ドラン、ジェラール・ドパルデュー他
製作/2022年、フランス 配給/ハーク
2023年4月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町他、全国公開
https://www.hark3.com/genmetsu/#modal
今月のもう1本「せかいのおきく」
江戸時代末期。武家の家に生まれながらも今は父親と二人、貧乏長屋で暮らしているおきく(黒木華〈くろき・はな〉)は、ある日、のどを切られて声を失ってしまうが、それでも子どもに文字を教えることに夢を持ち続けている。
古紙や肥やしを売買して日銭を稼いでいる中次(寛一郎)に思いを寄せるが……。阪本順治監督が、人々が肩を寄せ合って暮らす“長屋”を舞台に、美しいモノクロ映像で描き出す人情物語。殺伐とした時代に心の滋味になる作品だ。
監督・脚本/阪本順治
出演/黒木華、寛一郎、池松壮亮、眞木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司他
製作/FANTASIA Inc.、YOIHI PROJECT
配給/東京テアトル、U-NEXT、リトルモア
2023年4月28日(金)より全国公開
http://sekainookiku.jp/
■文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。
※この記事は2023年5月号「ハルメク」の連載「トキメクシネマ」の掲載内容を再編集しています。
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