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- 【書評】『94歳セツの新聞ちぎり絵日記』他2冊
雑誌「ハルメク」の編集部員がおすすめする新刊情報を毎月お届けします。今月は、90歳から始めた新聞ちぎり絵が大きな話題を呼んだ木村セツさんのストーリーを綴った本など3冊をご紹介します。
木村セツ著『94歳セツの新聞ちぎり絵日記』
90歳から始めた新聞ちぎり絵が大きな話題を呼んだ木村セツ(きむら・せつ)さん。それまでアートに触れる機会もなかったごく普通の主婦が、水を得た魚のように才能を開花させたストーリー。
本書は、写真のように精緻でありながら、ちぎり絵独特の温もりと、どこかユーモラスな表現が話題を呼んだ『90歳セツの新聞ちぎり絵』の続編。表紙からいきなり新聞紙とは思えない作品に目を奪われます。
読み進めると、毎朝仏壇に手を合わせ、おいしく食べ、猫と遊び、ちぎり絵に精を出すセツさんの穏やかな日常にほっこり。豊かに年齢を重ねるってこういうことですね。
中道あん著『「誰かのために」を手放して生きる』
ブロガーで著述家の中道あん(なかみち・あん)さんの新刊は、「人生の折り返し地点を通過したら、“家族のため”“誰かのため”ではなく、自分のために生きる」ための指南書です。
50代からの人生は、それまでに積み上げてきたものを丁寧に棚卸しして、自分のためにワクワクするようなことを見つけて優先させることだと説く中道さん。それは年を重ねた人だけの特権だと言います。
120%普通の主婦だったという中道さんからのアドバイスには、何も特別なことはありません。肩の力を抜いて読み進めるうちに、きっとみなさん「何か新しいことができる」と希望が持てるはずです。
八木詠美著『休館日の彼女たち』
処女作『空芯手帳』で第36回太宰治賞を受賞した著者の第2作です。
他者と関わることに臆病な主人公・ホラウチリカが大学時代の恩師から任されたのは、「休館日の博物館でヴィーナス像の話し相手をする」というアルバイト。
荒唐無稽に思える設定ながら、軽快で知的なヴィーナスとの会話を通じて次第に心がほどけ、彼女に惹かれていくリカの心情が丁寧に描かれ、二人の過ごす密やかな時間が上質な絵画のように浮かび上がります。
物語の終盤、一人永い時を生きるヴィーナスの孤独と、自身の願いに向き合ったリカがある“犯行”に及び……。その結末を含め、心の奥にある閉塞感や不自由さを蹴り飛ばすような、爽快感が残る作品です。
※この記事は2023年6月号「ハルメク」に掲載された内容を再編集しています。
※雑誌「ハルメク」は定期購読誌です。書店ではお買い求めいただけません。詳しくは雑誌ハルメクのサイトをご確認ください。
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