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- 怒りのストレスに振り回されないための2つの心づもり
夫の突然死、知的障害のある長男の出産、下半身麻痺…どんなときも心折れることなく、しなやかに生きてきた岸田ひろ実さんの強さの秘訣は“心理学”にありました。実体験から軽やかに生きるヒントを伝えます。今回は、怒りの感情との向き合い方について。
“怒り”は、人の心を乱す感情
喜怒哀楽の感情表現で、私が“持つ”のも“見る”のも苦手なのは「怒」です。自分が怒った後は、自己嫌悪に陥ります。怒っている人に会うと、つられて自分の心も乱れてしまいます。
一方で「怒」という感情は、活動のエネルギー源にもなります。怒りがあるから、喜びや幸せをくっきりと感じることができます。
また、怒りは、行動を起こすきっかけになることもありますよね。2006年に39歳で亡くなった私の夫は、よく、世の中の理不尽に対して怒っていました。
当時、不動産業界の凝り固まった通例に辟易して「俺が業界を変えたい」と、一念発起して、会社まで立ち上げたほどです。
つまり、怒りを無くすのではなく、怒りとどう向き合うかが大切なのです。まず、自分に怒りの感情が現れるときとは、どのようなときでしょうか。誰しも、物事と向き合うときは、その良し悪しを自身の物差しで測ります。しかし、その物差しには、しばしば思い込みが含まれます。
自分の物差しや思い込みに反することが起きると、怒りが生じます。
人それぞれの物差しと思い込みを想像してみる
ここで怒りに身を任せるのではなく、パッと視点を変えてみましょう。あなたを怒らせた人にも、「物差しや思い込み」があるのです。
例えば、電車の優先座席に、元気そうな若者がいたとします。「なぜ席を譲らないんだ!」とあなたは怒るかもしれません。でも、その若者に目に見えない障害があったとは考えられないでしょうか。
私にも、こんな経験がありました。
車いすに乗って外へ出かけると、どうも周囲の視線が気になります。ジロジロ見ないでほしい、同情されているようで不快だ、と尖った感情を向けてしまうこともありました。
ある日のことです。大きな交差点で信号待ちをしていたら、高校生たちが私を見ながらひそひそ話していました。何か悪口を言われているのかもと思った私は、逃げ出したくなりました。
しかし、聞こえてきたのは「車いすに乗っているあの人、一人で交差点を渡りきれるかな」という、私を気遣う言葉でした。信号が青に変わるや否や「お手伝いしましょうか?」と、声までかけてくれたのです。
そうして、私は気づきました。
私は周囲に対して、勝手に自分の思い込みを押し付けて、一人で落ち込んだり、腹を立てたりしていたに過ぎなかったことに。
怒っている人に同情する必要はない
さて。
そうは言っても、あからさまに怒っている人に出会うこともありますよね。
怒っている人に対して、自分の心まで乱れないようにするには、もはやその人の「怒りの感情」と向き合わないことです。「なんで怒っているんだろう」「どうしたらわかってあげられるだろう」と推測すると、心は疲弊します。
ただ単に「この人は怒っているんだ」という、現実だけを認識するのです。怒りに共感や同意はできなくても、怒っているという現実だけを見ようとすれば、自分の心の乱れは軽減されます。
自分の怒りに振り回されそうになったら、できるだけ冷静になって視点を変え、相手の行動の理由を考えること。
相手の怒りに振り回されそうになったら、怒りの感情には向き合わず、現実だけを見ること。
この2つが、怒りと付き合うためには大切なことだと思います。
岸田ひろ実さんのプロフィール
きしだ・ひろみ 1968(昭和43)年大阪市生まれ。日本ユニバーサルマナー協会理事。株式会社ミライロで講師を務める。27歳、知的障害のある長男の出産、37歳夫の突然死、40歳、病気の後遺症で車いすの生活に。自身の経験から、人生の困難や障害との向き合い方を伝える。
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撮影=山下コウ太
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