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- エッセー作品「負うたZ世代に教えられ」西羅幸子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。西羅幸子さんの作品「負うたZ世代に教えられ」と青木さんの講評です。
負うたZ世代に教えられ
有難いことに、我が家は本好きな子供達に育った。
特に上の子は本があれば夢中で読み、読み終わって3歩歩いたところに本が置いてあれば「あ」と一言発し、しゃがみ込んでまた夢中で読む。
その頃はよく「この子を誘導したいと思ったら、ヘンゼルとグレーテルのパンみたいに本を蒔いておけば簡単だね」と夫と笑っていた。
それほど無心になって活字を追う我が子が可愛かった。
そんな本好きな子供も、自身の成長と社会の変化によって、随分と様子が変わってきた。
スマホを手にしたからだ。
スマホはとても便利だ。玉石混交の情報とは言え、昔実家に鎮座していた百科事典よりも、もっと多くのものが手のひらに収まる。電車の中でも99%の人が携帯を見ている。
スマホ登場以前は、みんな何をしていたのか私には思い出せない程だ。
映画もゲームもキラキラしたものも、見たい時にすぐ見られるのだから、手放せなくなるのも理解出来る。
うちの子供に限ったことではないのだけれど、めっきり本を読まなくなった。
あんなに本好きだったのに、と私は残念だった。
下手に読書好きであるが故に、スマホに延々と連ねられる文字を、これまた延々とスクロールし続ける……
これがZ世代の一般的な姿なら、世界は早晩滅びるね! などと腹立ち紛れに、言ってみたりしていた。
あまりの苛立ちに一度、下の子に愚痴を言ったところ「毎日一生懸命仕事をしているから、スマホが息抜きなんだよ、大目に見てあげて」と優しく言われてしまい、そこからは出来るだけ我慢はしているが、面白くないことに変わりは無かった。
そんなある日、少し考えの変わる出来事に遭遇した。
出勤前の慌ただしい朝、急いでいた私は、洗面所の蛇口のレバーを勢いよく下げ過ぎて、あろうことか、へし折ってしまったのだ。最大水量で流れ続ける水道、止める術がない。
私は呆然とし、頭を高速回転させ打開策を考えたが、混乱するばかり。
欠勤させて貰って、水道屋さんを呼ぶにしても、それまでに一体何万リットルの水を無駄にするのか、水道代はどうなる? そんなことばかりが頭を駆け巡り、立ち尽くしていたその時、子供が「ドライバー状のものをここに刺し込んだら動かせるみたい!」と叫んだ。
私が役に立たない頭を高速で動かしていた時、子供はスマホを高速で検索していたのだ。
おかげであっという間に水を止めることが出来、私達は無事に出勤した。
この突発事態では、私はZ世代のネット検索力に助けられた。
百科事典にはこの知恵は多分載っていないだろう。
子供はスマホに夢中になるだけでなく、役立てる手立てもしっかり把握していたのだ。
どうでもいいことばかり見ていた訳じゃなかったんだな。
今回はZ世代の我が子に教えられたのだった。
青木奈緖さんからひとこと
今、私たちが生きている時代のひとこまが見事に切り取られています。
大人も子どもも本を読む時間はどんどん減って、スマホを眺める時間が急速に増えていますね。そうした傾向を安易に善悪で判断してしまわずに、リアルでいきいきとした場面で残しておくことに意味があるように感じます。
10年後、20年後にこの作品を読み返したとき、私たちは何を思うのでしょう。
目に浮かぶような描写力に優れた作品です。全開になった水道を前にしたら、私もきっとオロオロしてしまうでしょう。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。講座の受講期間は半年間。
ハルメク365では、青木先生が選んだ作品と解説動画をどなたでもご覧になってお楽しみいただけます(毎月25日更新予定)。
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