長く愛せる上質きもの!50代にオススメ
2022.12.312019年10月02日
おしゃれ着としてカジュアルに着物を着よう!
江波戸玲子さんが教える50代からのカジュアル着物
今、50代のおしゃれ感度の高い女性を中心に、カジュアルに着物を楽しむ人が増えています。そこで、ギャラリー「ポンナレット」を主催し、デザインを手掛ける江波戸玲子(えばと・れいこ)さんに、着物を普段使いするコツや小物の選び方を伺いました。
着物をカジュアルに着るとは?
温かみを感じる、厚手の木綿の着物を着る江波戸玲子さん。さわやかな秋晴れを想起させる帯の上に、ちょこんと乗った金時雲のような雲の帯留め。遊び心を感じさせる着こなしが素敵です。
江波戸さんは、神奈川県の葉山と東京都世田谷区に拠点を置く、ラオス、カンボジアの手織り布を扱うギャラリー「ポンナレット」を主催しており、着物や着物小物の企画と制作を手掛けています。
江波戸さんがおすすめするのは、美術館へのお出掛けや食事のときなど、着物をおしゃれ着として普段使いすることです。
「着物は、素材や合わせる小物の選び方次第で、カジュアルにも正装にもなります。普段使いをするなら、素材は木綿がいいでしょう。家で洗濯できますし、周りが皆洋服でも悪目立ちしないんです」
とはいえ、着物を着るとなると「苦しい」「着付けが大変そう」と、普段使いとはほど遠いイメージを抱きがちです。しかし、江波戸さんによると「それは、着付け次第」なのだそう。
「私が師事している森田空美先生の着付けは、コーリンベルトなどの複雑な器具を使いません。道具を使うと窮屈な着付けになりがちですが、腰ひも、伊達締めだけで着付ければ、体になじみます。身に着けるものがさまざまあると、忘れものも増えて大変ですしね(笑)」
江波戸さんが考える、着付けで一番大切なことは「支度」。着付ける前に、手に取る順に一式を広げておきます。
「着付けにはリズムがあるんです。流れに乗れば15分くらいで、あっという間に終わりますが、『あれ、紐がない』『あれ、来客だ』なんて気がそれてしまうと、リズムが乱れて着付けも崩れてしまいます」
準備ができたら、あとは肩の力を抜いて胸を開き、背縫いがまっすぐ背すじに沿っているか確認しながら手順通りに着付けていくだけ。着物をまとうだけで、自然と体のバランスが整った「着ているだけで美しい」姿が完成します。
自分だけのおしゃれが楽しめる上に、着るだけですっと背すじが伸び、若々しく美しい姿に保つがある着物に魅了される人が増えていることも納得です。
着物がもっと楽しくなる小物選び
着物を普段着として楽しむ上で、こだわりたいのが小物の選び方と使い方。小物を選ぶときは、どんなことを考えればいいのでしょうか。小物ごとに、江波戸さんに聞いてみまいした。
帯:扱いやすく、表情が豊かな半幅帯を使う
江波戸さんがおすすめする帯は、「半幅帯」。半分に折って使用する名古屋帯ではなく、すでに半分の幅になっているものです。
半幅帯は、初心者でも扱いやすいところが魅力です。「角出し」と「貝の口」の基本の結び方を2つ覚えておき、「あとは適当にアレンジして、結べばいい」と江波戸さん。
写真の半幅帯は、ともに江波戸さんが企画・制作しているポンナレットの半幅帯。写真左は、カンボジアで現地の女性たちが糸を紡ぎ、草木で染め、手で織り上げた布をパッチワークした作品。写真右は、江波戸さんが惚れ込んだイタリアのテキスタイルと、カンボジアの布を組み合わせた帯。
それぞれ、どの柄を正面に出すかによって印象が変わる楽しさがあります。
草履:鼻緒と前つぼは、柔らかくて太めのもの
江波戸さんの草履の特徴は、指を挟む部分である前ツボの布が柔らかくて太いこと。また、鼻緒も綿がたっぷりで柔らかいため、歩いていても足が痛くなりません。
草履の幅にも注目。左2足は幅広なので歩いていても足が疲れません。
「写真右のように足幅が狭い草履の方がおしゃれには見えますが、無理はできませんから(笑)」(江波戸さん)
こちらの草履もすべて、ポンナレットの商品。鼻緒には、ベネチアで買い付けた型染めテキスタイル(左)、ミナ・ペルホネンの布(中央)や、カンボジアの織物(右)とこだわりがつまっています。
かばん:お出掛けバッグは柔と硬の素材の組み合わせがポイント
バッグは、コーディネートを大きく左右するため、選び方には注意したいところ。
「巾着のような和風小物を合わせるのは、“それっぽく”なり過ぎてしまうので好みではありません。大きめの荷物を持っていくときは、硬い素材の革を使った、ハードなイメージのあるバッグを持つ方が、コーディネートが決まると思います」
江波戸さんのおすすめは、布と革を組み合わせたバッグ。バッグの中身は布で覆えるようになっており、持ち物を目隠しできるというひとワザが。
パーティーやディナーには、個性的なクラッチバッグを
革のバッグは、あくまでも大きな荷物を持って移動したいときや普段のお出掛け用。おしゃれなパーティーやディナーには、クラッチバッグを合わせるのがおすすめ。「手に持ったときの華やかさを意識しています」と江波戸さん。
帯締め:素材はお気に入りのリボンでいい
帯の表情を変えるアイテムが、帯締め。江波戸さんは「お気に入りのリボンを使えばいい」と言います。江波戸さんのお気に入りは、真田紐と革ひも。どちらも手芸店でメーター売りをしていたものを1mほど購入しました。
「もちろん、和小物として販売されている帯締めをオーソドックスに使ってもいいと思います」
帯留め:個性的な帯留めを見つけてみる
江波戸さんの帯留めコレクション。自由に組み合わせられる少し個性的なものを集めています。その多くが、知人のアクセサリー作家に制作をお願いしたものです。「既成概念に捉われない、ユニークな作品が出来上がることが多いんです」と江波戸さん。素材がシルバーや真鍮だと、帯や帯締めの色に左右されることなく使いやすいのだそう。
江波戸さんがカジュアル着物を楽しむようになったきっかけ
今でこそ、ギャラリー「ポンナレット」を主宰し、さまざまな着物と着物小物を手掛けているほど着物に親しんでいる江波戸さんですが、40代の前半までは着物に関心すらなかったと言います。
「私は今60代なのですが、私たちの世代って関心が外国にいっていたんです。小学生の頃から大好きだった番組が『兼高かおる世界の旅』。外国カブレでした(笑)」
幼い頃から海外への憧れを抱いていた江波戸さんはCAになり、その後結婚し、育児をする日々に。「仕事をしていない自分がもどかしくて、世の中から取り残されている気がしていました」と振り返ります。
その後、女友だち3人でイタリア製の洋服の輸入販売を始めます。当時はバブル。高い洋服が毎シーズン飛ぶように売れ、消費されていく様には、事業の成功とは裏腹に違和感を感じていたそう。
そんなときに出会ったのが、作家の渡辺一枝さん。海外に強い関心を持つ一方で、普段着には”着物”をまとい、自分のルーツを大切にするライフスタイルがとてもカッコいい! と感じた江波戸さん。「思い立ったら、その時」と、すぐに表参道の呉服店「青山八木」に着物を選びに行き、その場で教えてもらった森田空実さんの着付け教室に通い始めました。
そして50代を意識し始め、人の役に立ちたいとアジアの途上国への支援にも関心が、むくむくと強くなっていた2000年頃。
カンボジアやラオスの女性たちが糸を紡いで織る、布の美しさに強くひかれた江波戸さんはその布を生かして、着物のアイテムを作る事業を立ち上げます。これが、今も続けている「ポンナレット」の始まりでした。
「現地の人たちは、支援金でお金が一時的に入っても、そのお金をお祭りの衣装などに一瞬で使い込んでしまうので、継続的に支援しないと役に立たないと思いました。NGOの方と手を組んで、スタッフに時計の見方、読み書き、記録する大切さを教えたり……。今はだいぶよくなりましたね。これからもできる限りは続けていくつもりです」
文化も言語も違う異国との調整を続けてきた江波戸さん。「大変ではないのですか?」と聞いたところ、「そうね」と笑います。
「でも細かいことを気にしていたらキリがないし、ただ単に私が楽しいと思うことを見つけてマイペースにやっていたら、ここまで来ていたんですよね。
もし、読者の方が着物を着てみたいと思っていらっしゃるなら、『思い立ったら、その時』と思って、気軽に挑戦していただきたいです」
カジュアル着物を始めたい方におすすめの本
左から、三砂ちづる著『きものとからだ』 (木星叢書刊)、大橋歩著『大橋歩コレクション7 着物は楽しい』(マガジンハウス刊)、清野 恵里子著『折にふれて きものの四季』(文化出版局刊)。それぞれ、付箋がたくさん貼られています。
「着物を始めたいと思ったら、まずは友人や知人で、自分が素敵だと思う着物を着ている方に、どんな着物がおすすめか聞いたり、着こなしを見本にするといいですよ」とアドバイスをくれた江波戸さん。もし周りに聞く人がいないという方、もっと着物について知りたいという方に向けて、江波戸さんがおすすめの本を教えてくれました。
『きものとからだ』は、着物は苦しい、着物はきつい、といったマイナスイメージを持っている人におすすめの一冊。着物がからだに与える作用が、わかりやすく解説されているそう。
『着物は楽しい』は、大橋歩さんがイラストとともに自身の着物事始めを語った一冊。かわいい着物コーディネート例も見どころの一つ。
『折にふれて きものの四季』は、文筆家・清野恵里子さんの雑誌「ミセス」での連載をまとめた一冊。幅広い年齢層のモデルさんが着こなす着物のコーディネートが、とても参考になるそう。
本を読むことからでもよし、お店に着物を見に行くところからでもよし、ぜひカジュアル着物を始めてみてくださいね。
江波戸玲子(えばと・れいこ)さん
ラオス・カンボジアの手織り布とオリジナル着尺、帯、小物などを、「PONNALET葉山の家」を中心に、日本全国のギャラリーやイベントにて展示・販売。日々の暮らしの中で蚕を育て、糸を紡ぎ、草木で染める。そしてゆっくりと丁寧に織りあげてゆくラオスの女性たち。一度は途絶えそうになった絣の技を受け継ぎ、力強く生きているカンボジアの人々。そんな織り手たちとの繋がりを大切にしている。
http://www.ponnalet.com/index.html
江波戸玲子さんは、雑誌「ハルメク」2020年2月号特集「今年こそ、きものを着てみませんか?」にも登場しています。スタイリスト岡部久仁子さん、江波戸玲子さん、スタイリスト横森美奈子さんによる、着物を素敵に普段使いするコツをお届けします。
雑誌「ハルメク」は、書店ではお買い求めいただけません。詳しくは、雑誌「ハルメク」のサイトまで。
取材・文=竹上久恵(ハルメクWEB編集部)、撮影=中村彰男