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スリランカで宿泊すべきジェフリー・バワホテル5選

公開日:2020.12.08

スリランカの魅力を、現地在住の日本人フォトグラファー石野明子さんがお伝えします。スリランカ旅行では宿泊してほしい、世界的に有名な建築家ジェフリー・バワのホテルを紹介します。特別な癒やし体験、ラグジュアリーな気分を味わいたい人におすすめです。

建築家ジェフリー・バワは、どんな人? 

バワの制作風景(バワ財団提供)
バワの制作風景(バワ財団提供)

「スリランカを訪れたのなら、絶対にバワ建築に泊まりたい!」と思う方が多いのではないでしょうか。今回はスリランカの自然を心から愛し、時代を超えて愛される作品を作り続けたスリランカの建築家ジェフリー・バワとそのホテルをご紹介したいと思います。

ジェフリー・バワの建築したホテル「ヘリタンスカンダラマ」のインフィニティプール(編集部撮影)
ジェフリー・バワの建築したホテル「ヘリタンスカンダラマ」のインフィニティプール(編集部撮影)

ジェフリー・バワは、インフィニティプールを考案した建築家として有名です。インフィニティプールとは、プールの水面と海の水平線が一体となって、どこまでも水面が広がる景色が楽しめるプールのこと。バワ建築ではありませんが、シンガポールのシンボルとも言えるホテル「マリーナベイサンズ」の屋上プールはバワのアイデアが基となっている、と言えるでしょう。

ジェフリー・バワは1919年、スリランカの首都コロンボの裕福な家庭に生まれました。幼くして亡くした父は弁護士で、ジェフリー・バワ自身もその道に進むつもりで勉学に励んだそうです。しかしいざ弁護士として働き始めると、自分には向いていないことを確信し、建築家への道へと転身しました。イギリスで建築学を学び、建築家としてのスタートは1957年、彼が38歳の頃でした。そして亡くなる84歳まで個人の家からリゾートホテル、寺院、公共施設まで多岐にわたって精力的に魅力あふれる作品を残しました。

彼の生み出した独創的な「熱帯建築」は、これまでの西洋の建築とは一線を画するデザイン。ラグジュアリーホテルとして有名な「アマンリゾーツ」の創業者と建築家も、ジェフリー・バワの建築に影響を受けたことが知られておりジェフリー・バワのホテルの人気が一層高まっています。バワ建築の中でも、実際に宿泊・体感できるホテルや、バワスポットをご紹介したいと思います。

100mプールはまるで湖、ニゴンボのジェットウィングラグーン

ニゴンボのジェットウィングラグーン
写真にも収まりきらないほどの大きさのプール

スリランカの国際空港の近くにある港町・ニゴンボにホテル、「ジェットウィングラグーン」があります。インド洋と「ニゴンボラグーン」という浅瀬の間に位置しています。バワが初めて手がけたリゾートホテルです。

部屋はゆったりとした造りで、大きな窓が特徴です。窓の向かいには大きく、そして低めのソファが置かれ、時間とともに移ろうスリランカの空をゆっくりと眺めることができます。

床はバワ建築に多く見られる赤いタイル
床はバワ建築に多く見られる赤いタイル

バスルームは半屋外なので、最初はちょっとギョッとするかもしれませんが、それもバワ作品の醍醐味です。そして、このホテルの最大の個性はなんと全長100mのプールです。バワは常に自然、特に「水」が人間のすぐそばにあることが大事だと考えていました。水の揺らめきがもたらす安らぎを常に感じられるように、どの部屋からも、水(プール)を臨める巨大なプールにしたそうです。

バワが好きだったプルメリアの木が植えられたラグーン前のガーデン
バワが好きだった黄炎木(コウエンボク)の木が植えられたラグーン前のガーデン

日の出をラグーンのほとりから眺めれば、凪いだラグーンの水面がまるで鏡のように淡い空の色を映し出して息を呑む美しさです。大きなプールもまるでラグーンの水面のように揺らめきます。

早朝のニゴンボラグーン
早朝のニゴンボラグーン

きっとバワはこのプールでラグーンを表現したのではないかと私は思っています。

シーフードもぜひ試してほしい!
シーフードもぜひ試してほしい!

ラグーンのシーフードはスリランカでも有名なおいしさですので、ぜひ味わってほしいと思います。

灯台へ向かう一隻の船、世界遺産の街ゴールのライトハウス

世界遺産の街「ゴール」と灯台
世界遺産の街「ゴール」と灯台

次にご紹介するのはスリランカ南部の世界遺産の街ゴールにある「ジェットウィング ライトハウスホテル」です。ゴールはかつて海外貿易の拠点となっていた街で、西洋風の街並みが楽しめます。ポルトガル、オランダ、イギリスに統治されていた歴史の名残を色濃く感じられます。

モロッコをテーマにしたスイート「イヴァン・ヴァトゥータ」
モロッコをテーマにしたスイート「イヴァン・ヴァトゥータ」

そんな異文化が交錯する街のライトハウスホテルにはバワの遊び心あふれる客室がしつらえられています。スイートルームの3室は、それぞれのテーマが「中国」「オランダ」「モロッコ」となっていて、インテリアもすべてバワがプロデュースしました。バワは幼い頃から、旅好きの母親と共に世界中を旅していたそうです。きっとそうした記憶や刺激が、バワの一部を作っていったのだと思います。

インテリアもすべてバワのアイデアによるもの
インテリアもすべてバワのアイデアによるもの

遊び心がありつつも上品なバワの感性に、時代を超えて刺激を受けます。そしてこのホテルを彩るのはバワと親交深いスリランカアーティストたちの作品です。レセプションを抜けて、ロビーへと上がる螺旋階段にある彫刻家ラキ・セナナヤケのスリランカ軍とポルトガル軍の戦いを模した彫刻は圧巻です。

螺旋階段のラキ・セナナヤケの作品は見たら忘れられない
螺旋階段のラキ・セナナヤケの作品は見たら忘れられない

またロビー階の上にあるバーの天井にはスリランカが誇るバティックアーティスト、エナ・デ・シルバによる古きスリランカ各州のエンブレムが飾られています。夜空と海と作品を楽しみながら一杯はいかがでしょうか。

バティックアーティスト、エナ・デ・シルバの繊細な手仕事
バティックアーティスト、エナ・デ・シルバの繊細な手仕事
デザインに直線が多く用いられたライトハウス、時間とももに変化していく影も印象的
デザインに直線が多く用いられたライトハウス、時間とももに変化していく影も印象的

そして、実はこのホテルは一隻の客船を模していて、ゴールの旧市街にある灯台を目指しているように建築されています。船のヘリを模したテラスもあるので、ホテル内を探検して発見してくださいね! こちらにもインフィニティプールがあります。

自然と融合する傑作ホテル「ヘリタンスカンダラマ」

ツタに覆われたカンダラマの外観(ヘリタンス カンダラマ)
ツタに覆われたカンダラマの外観(ヘリタンス カンダラマ)

自然との融合がコンセプトでもあるバワのリゾートホテルで、唯一内陸部にあるのが「ヘリタンスカンダラマ」です。内陸部にありますが、ホテルの目の前にはカンダラマ貯水池が広がり、バワが大事にしていた「水」を感じることができます。

レストランからはスリランカの大自然が見渡せる
レストランからはスリランカの大自然が見渡せる

当初、世界遺産「シギリヤロック」のそばに建設予定だったそうですが、バワがヘリからの視察中にこの場所を発見し急遽この地に建てることを決めたそうです。

自然の岩がそのままホテルのデザインに取り込まれている
自然の岩がそのままホテルのデザインに取り込まれている

しかし急だったこともあったのか、建設を始めてからたくさんの巨大な岩がゴロゴロと出てきました。しかし建設をやめることはなく、出てきた自然の岩を生かすようホテルのデザインを変えていきました。

自然を生かしたこのホテルには動物たちも多く訪れる
自然を生かしたこのホテルには動物たちも多く訪れる

そのためホテルの内部でも、自然の中にいるかのような気分を味わえます。敷地内では、サルやカメレオンなどを見ることができますし、1階部分は柱だけになっており、野生の動物、風、水が通り抜けられるようになっています。ホテルの外観はツタに覆われ、外壁はほぼ見えません。

ラキ・セナナヤケの大きなフクロウの彫刻がホテルの雰囲気をさらに特別なものに
ラキ・セナナヤケの大きなフクロウの彫刻がホテルの雰囲気をさらに特別なものに

「いつかジャングルに埋もれていくように」とのコンセプトもあるそうです。しかし果てしなく自然に近い状態ではありますが、リゾートホテルとして心地よく過ごせるよう、自然が最大限に美しく感じられるようホテルスタッフが毎日メンテナンスしています。これをバワは「スーパーナチュラル」と名付けていました。

ヘリタンスカンダラマには、インフィニティプールを含めた3つのプールがあります。
ヘリタンスカンダラマには、インフィニティプールを含めた3つのプールがあります。

バワの理想郷そして実験の場「ルヌガンガ」

バワがかつて朝食を取っていた場所
バワがかつて朝食を取っていた場所

「ルヌガンガ」は、スリランカ西海岸のビーチリゾート、ベントタのそばにあります。元ゴム農園だった広大な敷地を、バワが理想郷を造るために購入したと言われています。この地で、バワは造形美を追求するのはもちろんのこと、どんな素材が何年経過したらどんな風合いになるか、実験と検証を繰り返していました。

ライトハウスのメインダイニングに見られる直線的なデザインのイス
ライトハウスのメインダイニングに見られる直線的なデザインのイス

彼のこだわりが肌で感じられる場所で、宿泊はもちろんのこと、解説付き(英語のみ)で見学のために訪れることもできます。歩いていると、「あ、この扉はあのホテルで使われていたアイデアだな」「この椅子はあそこのホテルで座ったな」と点と点がつながっていくことも面白い体験です。

実験、検証を重ねられて作られたイス、このイスはヘリタンスカンダラマにある
実験、検証を重ねられて作られたイス、このイスはヘリタンスカンダラマにある

バワは、なんと苔の生え具合までも研究していたそうな! そしてここでもやはり目の前には湖が広がっています。  

ギリシャ建築もアイデアに取り込まれている
ギリシャ建築もアイデアに取り込まれている

バワ最後の家 コロンボにある「No.11」

No.11の見取り図
No.11の見取り図

最後にご紹介するのは、バワが亡くなるまで仕事を、そして生活していた場所「No.11」です。こちらも宿泊ができます。また予約制ですが、見学も可能です。

随所に自然光を取り入れる場所が作られている
随所に自然光を取り入れる場所が作られている

ルヌガンガではバワの表の顔を強く感じましたが、No.11では彼の素顔も垣間見えるような気がします。というのは他の場所と違って、一軒家の中に彼のこだわりがぎゅっと凝縮されているからです。

宿泊できるNo.11の客室、部屋のインテリはバワによるもの
宿泊できるNo.11の客室、部屋のインテリはバワによるもの

調度品や家具なども生前のままで、ほぼ変えていないそうです。彼の愛犬ペットのベッドがあったり(初代から4代までいて、すべてダルメシアンなど黒と白の犬種のみ!)、彼のベッドの脇には友人から送られたライオンのぬいぐるみがあったり。そして案内をしてくれるのは、彼と8年間働いていたスタッフです。

夕刻、バワはNo.11の屋上テラスで過ごすことが好きだった
夕刻、バワはNo.11の屋上テラスで過ごすことが好きだった

「彼は身長が2m近くあったんですよ。彼はキッチンには絶対入らないので、ほら、キッチンの扉だけはこんなに小さいのです」と、一緒に過ごしていた彼だからこそわかる話もしてくれます。

家中にバワが集めてきた世界中のアーティストの作品や骨董品が置かれている
家中にバワが集めてきた世界中のアーティストの作品や骨董品が置かれている

そこかしこに世界中のアーティストの作品が置かれ、まるでミュージアムのようです。この場所ではさまざまな文化が混ざり合って、でも互いに違和感なく存在しています。バワは、特別な宗派を信仰していたわけでなく、すべての宗派をリスペクトしていたそうです。そんなバワだからこそ出来上がった世界観なのだと、とても腑に落ちます。

バワのお兄さんが書いたバワの似顔絵
バワのお兄さんが書いたバワの似顔絵

バワは完璧主義や強いこだわりのために人間関係を突如断ち切ることもあったそうで、そのため怖い人と思われることもあったそうです。ですが裏を返すと自然に、そして人にとっても良いデザインを作るために妥協できなかった、芯はとても優しい人であったのだろうなと思います。

「とても紳士で素敵な人でしたよ。私はたくさんあるバワさんの作品の中でこのNo.11が一番好きです。彼が最後までいた場所だから」とスタッフの方が優しい笑顔で話してくれました。

日本人も懐かしいと感じるジェフリー・バワのホテル

「ルヌガンガ」の母屋、大きなプルメリアの木が枝を広げている
「ルヌガンガ」の母屋、大きなプルメリアが枝を広げている

「建築家とその故郷は絶対に引き離すことはできません」

この言葉は以前、私が取材でお会いした建築家の伊東豊雄さんがおっしゃっていった言葉です。バワ建築を体感したとき、この言葉が鮮やかによみがえってきました。バワの作品ではスリランカの大自然がダイナミックにかつ繊細に感じられます。まるでバワがスリランカの自然の美しさを私たちに見せてくれているようです。そしてバワの作品が世代を超えて愛されるのは、そんな私たち人間も自然の一部だと思い出させてくれるからだと思います。

バワの作ったホテルに泊まると懐かしさのような、親近感のような、不思議な感覚がします。ホテルは決して新しくはないけれど、肌になじむような感じがするのです。きっとスリランカの自然が、私たちを癒やしてくれているのだなと感じています。

そして自然が癒やしてくれるだけでなく、ジェットウィングラグーン、ライトハウス、ヘリタンスカンダラマは、スリランカの伝統医療、アーユルヴェーダの施術を受けることも可能です。自然に囲まれながらリラックス効果の高いトリーメントを受けてみてはいかがでしょうか。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、海外旅行ができない日々が続きますが、スリンランカを訪れる際には、ぜひバワの建築を堪能してみてくださいね。

「あうたび」で、スリランカ旅を体感できるオンラインツアーも不定期で開催中です。

 

石野明子さんのプロフィール

 

石野明子


石野明子
2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。著書に「五感でたのしむ! 輝きの島スリランカへ」(イカロス出版)。

 

■もっと知りたい

 

石野 明子

フォトグラファー。大学で写真を学んだ後、新聞社の契約フォトグラファーを経て2006年から女性誌やwebで撮影するフリーランスに。16年スリランカ・コロンボに移住し、写真館「STUDIO FORT」をオープン。著書に『五感でたのしむ! 輝きの島スリランカへ 』イカロス出版 

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