50代からの女性のための人生相談・145

人生相談:体力の低下が心配…元気な父を見習いたい

名取芳彦
回答者
元結不動・密蔵院住職
名取芳彦

公開日:2023.08.26

読者のお悩みに専門家が答えるQ&A連載。今回は62歳女性の「90代で元気に一人暮らしを楽しむ父、62歳で体力の低下を実感する自分…。父と一緒に人生を楽しむ方法を知りたい」という相談に、仏教の教えをわかりやすく説く住職・名取芳彦さんが回答。

62歳女性の「元気すぎる父」についての相談

私の父親は90歳です。現在も父は元気に一人暮らしを満喫しています。

私は現在62歳で、大きな病気などをしているわけではないのですが、体力の低下を実感しています。このままだと、父より先に私が逝ってしまいそうです。

父の人生を楽しんでいる姿を見習わなければならないと思うのですが、どうも気力が出ません。父と一緒に長く人生を楽しみ、しっかり父を見送るためには、どうしたらいいか教えてほしいです。

(62歳女性・いちごさん)

名取さんの回答:目標を設定して気力の回復を

名取さんの回答:目標を設定して気力の回復を

60歳を過ぎて体力の低下を実感しているいちごさん。若い頃の体力と現在のそれを比べて落ちこむのは、あまり意味がありません。

私たちは、ともすると、過去の自分をふり返って今の自分を惨めにしてしまうものですが、私はメキシコの作家の「過去をふり返るのは、何かを生みだすときだけでいい」という言葉を座右の銘の一つにしています。

体力でいえば、60歳を過ぎれば体力アップは期待できませんので、私はせめて現状維持に努めることにしました。

具体的には、周囲の自然の小さな営みや変化を感じながら散歩をしています。散歩程度で体力を維持できるか疑問ですが、今のところ、体力があった過去をふり返った結果として生みだした考え方や感性の張り方、そして実践です。

また、90歳で元気に一人暮らしをして、人生を謳歌(おうか)しているお父様がいらっしゃるのですね。

ご自身で冗談っぽく「このままだと、父より先に私が逝ってしまいそうです」とおっしゃっていますが、可能性がゼロではありません。そして、いちごさんがお父様の年齢まで生きられる保証はありません。

いわんや、「長生きすること」だけが目標になってはむなしいでしょう。

「しようと思っている」から「実行する」へ

「しようと思っている」から「実行する」へ

長生きして何をするか、何をしたいかという目標を設定することをおすすめします。今は気力が出なくても、目標を設定して、それを目指すことが気力の回復につながります。

目標達成のために、やりたくても我慢して控えることや、やりたくなくても我慢してやらなくてはいけないことも見えてくるでしょう。

しかし、“~しようと思っている”と“~を実行する”の間には「~すると決める」という重要なステップがあります。「決めないと動けない」という事実を心にしっかり刻んでおきたいものです。

気力が低下していると、なかなか決めることができないのでしょうが、そのままでは行動にはつながりません。

人生の達人・お父様からアドバイスをもらって

人生の達人・お父様からアドバイスをもらって

そして、人生を楽しんでいるお父様を見習いたいとおっしゃるいちごさん。人生を楽しんでいる達人がそばにいるのですから、お父様に直接「どうすればそんなに楽しく生きられるの?」と聞いてみるのもいいでしょう。

性別も性格も、生きた時代も違う父娘ですが、楽しく生きるための苦労や代償などについて、大いに共感できるアドバイスをしてくれると思います。あとは、それを参考にしていちごさんが実行するかどうかです。

お父様をしっかり見送るためには、お父様の生き方を自分の中に取り入れて生きていくことがとても大切です。いちごさんがそのような生き方をしている限り、いちごさんの人生の中にお父様の生き方が反映されます。

それは、ある意味で、お父様亡き後も、お父様と一緒に生きていることになるのです。

お父様のご存命中は、それぞれが精神的、経済的、物理的に自立しながらも“つかずはなれず”の関係を心がけ、なるべく多くの時間と空間を共有することをおすすめします。

亡き人に対して、「やれることはやった」という思いはとても大切です。その思いが、「お父さん、お疲れ様でした。いろいろ、ありがとうね」と、負い目なく、きれいにお父様とお別れするための芯になります。

「やれることはやった」と思えれば、お父様が亡くなった後の喪失感から早く立ち直る助けにもなります。これは、亡き人と遺族の関係性をつぶさに観察してきた僧侶の率直な感想です。

いちごさんの気力が早く回復し、体力低下の速度を遅らせ、お父様の存命中に多くを共有、共感しながら実り多き60代をお過ごしになられることをお祈りしています。

大丈夫、いちごさんも、お父様も、人は死ぬまで生きています。

回答者プロフィール:名取芳彦さん

回答者:名取芳彦さん

なとり・ほうげん 1958(昭和33)年、東京都生まれ。元結不動・密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所所長。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。写仏、ご詠歌、法話・読経、講演などを通し幅広い布教活動を行う。日常を仏教で“加減乗除”する切り口は好評。『感性をみがく練習』(幻冬舎刊)『心が晴れる智恵』(清流出版)『気にしない練習』(三笠書房)、『心がすっきりかるくなる般若心経』(永岡書店)など、著書多数。


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