エッセー作品「限界野菜」甲斐てい子さん
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第10期第1回
今月のおすすめエッセー「12月のアップルパイ」さくらさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。第10期が始まりました。1回目のテーマは「アップル」。さくらさんの作品「12月のアップルパイ」と山本さんの講評です。
12月のアップルパイ
子どものころの思い出です。
12月になるとそろそろかなあ、と待ちわびたお裾分けがありました。
それはお向かいのお宅からいただくクリスマスコンサートのチケット。そのお宅は質素な我が家と対極の洒落たご家庭で、日頃沢山の素敵なお裾分けをくださいました。舶来お土産しかり、おしゃれケーキに見事な和菓子しかり。
そんな中にそのチケットがあったのでした。子ども向けのクリスマスソングが沢山聴けるコンサートも楽しみなのですが、クリスマス一色の街へのお出掛けそのものがドキドキの一大イベントでした。
外出も外食も苦手な父とコンサートなんてむずむずしちゃう兄を置いて、母と私の二人だけのお出掛け。
あれは赤坂だったのか御茶ノ水だったのかキラキラな街並みを眺めながら一張羅のビロードワンピースとぴかぴかのエナメルの靴を履いて母とはぐれぬ様に緊張して歩きました。
会場に行く前に必ず寄るところがありました。たまたま母が見つけたのか、モダンなティールーム。
当時ケーキと言えば王道イチゴショートかメロンショート、もしくはシュークリームでした。だけど母がアップルパイ好きだったので私も真似して注文したような気がします。シナモン香るアップルパイと、牛乳やココアじゃなくて紅茶をまわりの大人たちに緊張しながらいただく特別感。
母は倹約家で質素な生活を心掛けていた人でした。無駄遣いは決してしないタイプ。でもコンサートの時はアップルパイと紅茶を母と一緒に食べられる。ふわふわ宙に浮いているようなクリスマスな一日だったのです。
その後、私が大学生になりアルバイト代で……、社会人となってお給料で……、アップルパイを買って帰ると、母は喜んで紅茶を淹れて一緒に食べたものです。喜んでくれた母はもういません。一人で食べても美味しいけど寂しい。シナモンのほろ苦さは母との思い出そのものです。
山本ふみこさんからひとこと
さくらさんは、お母さまに捧げると思って書かれたのではなく、思い出を描かれたのだと思いますけれど……。
お母さまに届くように、ゆっくり音読してくださいましね。
文章は、見えない誰かさん、遠くの誰かさんに届ける気持ちで書くことができます。この場合、感情的にならぬように、感傷が過ぎぬように、静かに綴ることです。皆さん、よく読んで参考にしてくださいね。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。
■エッセー作品一覧■
ハルメク旅と講座
ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪
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