人生相談:老いた母親に優しくできない私はダメな娘?
2024.09.16
公開日:2025年03月22日
50代からの女性のための人生相談・203
人生相談:52歳・職場の若い世代との付き合いに、毎日疲れてしまう…
読者のお悩みに専門家が回答するQ&A連載。今回は52歳女性の「職場での若い世代との付き合い方が難しい」というお悩みに、仏教の教えをわかりやすく説いて「穏やかな心」へ導く住職・名取芳彦さんが回答します。
お悩み:52歳・職場での若い世代との付き合い方が難しい
職場での若い世代との付き合い方で悩んでいます。
言い方一つとっても、とても気を使わないといけないので、毎日疲れてしまいます。
指導しなければいけない立場ですが、もう関わりたくないというのが本音です。
自分なりに心を砕いて指導しても、1年足らずで退職してしまう。そうなると、また入社してくる若い世代と、イチから向き合わなければいけない……。
この繰り返しがとても苦痛です。
今後、若い世代と前向きに付き合っていくためには、どのような気持ちで向き合っていけばよいものでしょうか。
(52歳・摩利yo)
名取さんの回答:「人を傷つけるのは言葉ではなく、その言葉を使う自分の心」と心得る

新人教育のエキスパート! すごいじゃないですか。しかし、エキスパートゆえの苦労も文章から良くわかります。
ハラスメントについては会社でも研修があるので、その知識はおありでしょう。しかし、摩利yoさん自身は、ハラスメントが問題になる以前の、ほぼ昭和のやり方をする人たち家庭、地域、会社の中で育ってこられました。
ですから、「そこまで言葉遣いに気を使わないといけないのか……」と釈然としないのも、言葉選びに疲れてしまうのも無理はありません。
私は言葉について、二つだけ注意しています。
一つは、「会話はキャッチボールのようなものと心得る」こと。キャッチボールの基本は「相手が受けとりやすい球を投げること」です。相手が取れない剛速球や、変化球のような言葉を投げてはいけないのです。
偉そうなことを書いていますが、(家族や仲間に言わせると)私は相手が取れない球(笑えないジョークや皮肉たっぷりのユーモアが入り交じった球)を投げることがしばしばあるそうです。
私としては、このくらいなら取れるだろうと思って投げる球ですが、相手が受けとれないのです。
その結果、相手を不愉快にしたり、開き直らせたりします。
表情や態度を見てやっと、“私が投げた言葉を上手に取れなかった”とわかって、「ああ、やってしまった」と反省し、捕球が苦手な人には当たり障りのない球を投げるようにしています。
もう一つは、「人を傷つけるのは言葉ではなく、その言葉を使う自分の心」ということです。
パワハラワードに分類される「バカじゃないの?」という言葉も、言葉が相手を傷つけているのではなく、相手をバカだと思っている自分の心がすでに相手を傷つけているということです。
相手を不愉快にさせる思いが、言葉を発する前に、すでにこちらにあるのです。
だとすれば、心を大きくして、それを磨き、こちらの心を開けば、何を言おうと、どんな言い方をしようと大丈夫だということです。
私の場合、相手を傷つけたときは、心がまだ十分大きくなく、磨き残しがあると思って精進します。
この世の役割分担がいつまであるかわかりませんが、その努力をするくらいの時間はあるでしょう。
見返りを求めない「やりっ放しの精神」が心を軽くする

「もう関わりたくない」とおっしゃる“指導する立場”は、新人教育のエキスパート、インストラクター、あるいはコーチ役と言ってもいいでしょう。
すでに多方面にわたるキャリアを身に付けて、多くの問題に対処できる力があるから摩利yoさんにその役が回ってきたのです。
摩利yoさんの力を会社が認めているからこその現在の役割です。エキスパートとしての誇りを持ち、インストラクター、コーチであることを自負していいと思います。「新人教育は、この摩利yoにお任せあれ」と胸を張ってください。
今回の摩利yoさんの相談で、スポーツ選手のコーチやインストラクターについて改めて考えました。彼らは自分の持っているノウハウを全力で選手に伝え、一流になってもらおうと努力します。
しかし、スポーツ選手は一生同じチームでプレイするわけではありません。別チームに移籍することはよくあります。そのときコーチたちは「せっかく教えたのに、別のチームに行ってしまった。このチームの役に立たないではないか」と悔しがることはしないでしょう。
自分が伝えた方法をもとに、別の場所で活躍してくれればそれでいいと覚悟しているはずです。
せっかく教え育てたのに一年足らずで退職してしまう……と悔しさと切なさをかみしめたくなるのはよくわかります。それは見返りを求めているからでしょう。
いつでも、どんなことがあっても心穏やかでいたい人のために特化したコンテンツの仏教が説く布施の精神は、ギブ・アンド・ギブ。見返りを求めない、やりっ放しの精神です。
利益を求める会社では通用しない概念でしょうが、新人教育に手ごたえを感じない今の摩利yoさんは、今後の人生のためにも知っておいた方がいい考え方だと思います。
新人指導は「人生のご恩返し」と考えてみる

あるいは、次のように考えてはいかがでしょう。
「どうにか52歳まで社会の中でやってきた。自分の努力もさることながら、そこには他からの多くの支援や応援などの“おかげ”があった。
今、人生の後半を迎えようとしているのだから、受けてきた“おかげ”に対して、ご恩返しのつもりでやってみよう」
ご恩返しは、ご恩のバトン、ご恩送りと言っても同じです。
摩利yoさんが心を砕いて指導した新人が、会社にご恩返しもせずに退職してしまうことにモヤモヤしていらっしゃるようですが、せめて摩利yoさんだけは、会社(ひいては広く社会)に対するご恩返しだと思って、新人たちと向き合ってみてはいかがでしょう。
やがて、今の役割を誰かにバトンタッチする日が来ます。そのとき、後継者によいアドバイスができるように、今の思いや経験を心軽く整理整頓していくことをおすすめします。
「わかるけど、そんなことはできない」と思うなら、次の言葉を思い出してみてください。
“できないことをするのを練習と言う”
「笑顔に向ける刃(やいば)なし、笑顔に向ける化粧なし」と言われます。笑顔で新人に向き合うベテラン、エキスパートでいてください。
「新人のときに受けた、摩利yoさんの指導のおかげで今がある」と彼らが思う日が必ず来ますよ。
回答者プロフィール:名取芳彦さん
なとり・ほうげん 1958(昭和33)年、東京都生まれ。元結不動・密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。写仏、ご詠歌、法話・読経、講演などを通し幅広い布教活動を行う。日常を仏教で“加減乗除”する切り口は好評。『感性をみがく練習』(幻冬舎刊)『心が晴れる智恵』(清流出版)『心がほっとする般若心経のことば』(永岡書店)など、著書多数。
名取さんの最新刊『60歳を過ぎたら 面倒ごとの9割は手放す』をチェック

面倒ごとの9割は、人生で身につけてきた「執着(しゅうじゃく)」のしわざ。あなたの脳がつくり出した、形のない幻影です。視点を少し変えてみるだけで、驚くほど簡単に消えていきます。
手放せば、確実に心がおだやかになり、フットワークも軽くなっていきます。「こんなに簡単なことだったのか!」ときっと驚かれるでしょう。(本書より)
この本で取り扱うのは、誰もが抱えている54の「面倒ごと」。
それを手放すための考え方と方法を、「しまう」という言葉にかけて、名物僧侶がお伝えしていきます。