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- 横山タカ子さんに学ぶ、舌の想像力を磨く大切さ
雑誌「ハルメク」は、編集部員が全国各地へ飛び、自分たちの目で、耳で、舌で取材をして原稿を書いています。横山タカ子さんの連載担当であるコバミカが、「食べること」について考えます。編集部のおやつタイムの小話から。
編集部のおやつタイム
ハルメク編集部は「食べることが好き」という部員が多いです。
といっても、ただの食いしん坊ではなく、食べたものに対して「これ、何の味だろう」「洋酒の効き加減が絶妙だね~」「もう少し塩加減が控えめだといいなぁ」「この甘さは人口甘味料だな」とか、あれこれ評論するクセがある、というのがポイント。
編集部には「おやつ棚」なるものがあって、編集部員の実家から届いたフルーツやら、地方出張のおみやげやら、撮影のおやつの残りやらが並びます。
日々の様子というのは、こんな感じです。
撮影で食べ切れなかったおやつや軽食を部員が持ち帰ると、まず、各自デスクからスッと立ち上がり、ハイエナのようにその食べ物に部員は群がります。しかも無言で。で、口にする。そして、前述のように味の感想を互いに言い合う。次いで、持ち帰った部員に「これはどこの店のものか」「どんないきさつでこれを選んだのか」などと情報を収集する。数分、この意見交換会は続き、ひとしきり感想が出終わったところで、また静かに席に戻る。
この前は、コンビニでも販売している一般的な“おかき”の塩加減について、「これは生地そのものの塩分が多すぎる」とか「塗ってあるしょうゆの塩分が多いんだ」とか「これくらいしょうゆ感があったほうが香りもあって美味しいのでは」とか、4~5分はやりとりをしていました。
これだけ聞いていると「面倒くさい人たち」と思われるかも知れませんが、私はこのやりとりの時間が大好きなのです。口にしたものに対して、五感を使ってちゃんと向き合う。そういう心意気というのが「食べることが好き」と自称する上で大事だと思うのです。
「老いると味覚が衰える」という事実
そんな思いに至ったのは、10年ほど前、沢村貞子さんのエッセイで「年齢を重ねるほど、味覚は衰えていく。これは味を感じる細胞の味蕾(みらい)の数が減っていくためである」という話を読んだことがきっかけでした。沢村さんは朝と晩の2食しか食事をとらないので、この老化に伴う味覚の衰えと人生の残りの年数のことを考えたら、美味しいと思えないものは食べてられない!と語っておられました。
味覚の衰え…
この言葉は衝撃でした。今「美味しい」と思うものが、20年後には「どこが美味しいかわからない」というようなことになるかもしれないのか??
焦りました。それまで、ただ「美味しい」か「美味しくない」かの分類でしか食べ物を味わってこなかった20数年間が悔やまれてなりませんでした。
そこから私は、「どんなに忙しくても、ひと口目はしっかり味わう」という習慣を始めました。
まず、愛でる。そして香りをしっかり感じて、何が入っているのかを想像する。ひと口運んで、自分が想像していた素材が入っているかどうかを確認するように味わう。
これをずっとやっていると食事が楽しくないので、ひと口目に限るということにしています。
この食べ方をするようになってから、自分の味の嗜好というのがわかるようになりました。私が「美味しい」と感じるのは、どうやら味を“因数分解”できるもののようです。
「これ、美味しいけど何の味なんだろうな~」と思って原材料を見ると、だいたいそれが何なのか得たいの知れないカタカナやら化学の授業で出てきそうな名前やらが並んでいます。つまり、人間が生み出した「美味しいの素」ということですね。
確かに美味しいんです。でも、どこか得体の知れない違和感が残る……。こういう感覚って、少し立ち止まって自覚することが味蕾の老化を緩やかにするために必要なんじゃないかなと思っています。
横山タカ子さんの料理が美味しい理由
このコラムの記事「第1回役得づくし。横山タカ子さんの長寿ごはんを食す」でもご紹介した、信州在住の料理研究家の横山タカ子さんの料理は、まさに味の因数分解がちゃんとできるお料理です。といっても、決してそれぞれがバラバラの味というわけではなく、ちゃんと融合してひとつの深い味に整っている。雑誌「ハルメク」の連載「四季の手遊び」で毎月ご紹介しているレシピはどれも、ひと口いただくと「美味しい!」のあとに、ちゃんと「このスープの甘味はみりんと白菜の甘味だ」とか「この白和えのコクはくるみだ」とか、ちゃんと調理のプロセスとか材料というのが頭にというか口の中に浮かんでくるのです。
つい先日は、撮影の昼ごはんに「れんこん団子鍋」を作っていただきました。これがもう、言わずもがな絶品で!素材の旨みをひとつひとつしっかり感じられる、絶妙な調味料加減(もちろん、横山先生は化学調味料は使わず、基本の調味料のみです)。
「煮干、鰹節、酒……」と、何が入っているのか横山先生に尋ねると、だいたい当たっていました。全部、どの家でも使っている基本の調味料です。でも、私はこれまでこんなに美味しい鍋を作れたことはない…。この配合はどうすれば“発見”できるのか。
聞くと、横山先生はレシピを考えるとき、ほぼ1発で「これだ」というものが出来るのだそう。だいたいその調味料をどう調理すればどんな香りになり、どんな風味になり、食材と混ざり合うとどんな味に変わるのかを、舌が想像するというのです。
その話を伺って、私は横山先生の味蕾を想像しました。きっと、味というものにずーっと向き合ってきた横山先生の味蕾は、老化という言葉を知らず、生き生きと、ピチピチとしているのではないか。
そして、こんなお話もしてくださいました。
「レシピを紹介するとね、分量のことを細かく聞いてくる方がいらっしゃるけど、最後は自分の舌で“いい加減”に仕上げるのが料理なのよ。自分にとっての美味しい料理にする。使う調味料によっても、少しずつ味がずれてきますしね。レシピ本がすべてではないの。大事なのは自分にとっての“いい加減”」
編集部のおやつトークは、自分の“いい加減”を知る、いいトレーニングなのかもしれません。
ちなみに、このれんこん団子鍋は、あくまで撮影隊のお昼ごはん用だったので、「ハルメク」誌面でのレシピのご紹介の予定ないのですが……。でも、この美味しさを絶対読者のみなさんにお伝えしたい! 絶対いつかご紹介する! と、帰りの新幹線の中で固く心に誓いました。みなさま、こうご期待です!
▼横山タカ子さんのインタビュー記事はこちら
横山タカ子さん第1回|信州の台所と発酵食
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