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- 美容家・川邉サチコさん 自分を律するおしゃれと習慣
雑誌「ハルメク」で「マダムのつくり方」を連載中の川邉サチコ(かわべ・さちこ)さん(80歳)※インタビュー当時。「すてきに年を重ねるお手本」と読者からの熱い支持を集める美容家です。おしゃれなマダムの日常と生き方をインタビューしました。
川邉サチコさんのプロフィール
――ニューヨークやパリのマダムも顔負けのおしゃれでかっこいい“日本版マダム”がいるらしい――。噂を聞いて訪ねると、拍子抜けするほど飾らない笑顔が待っていました。
川邉サチコさんのプロフィール
かわべ・さちこ
1938(昭和13)年、東京都生まれ。女子美術大学卒業。パリで美容修業後、ヘアメイクの世界へ。60年代から三宅一生、ディオールなどの国内外のコレクションで活躍。70年代から雑誌、広告、舞台、映画など幅広いジャンルでヘアメイクを担当。現在はファッションとヘアメイクの意識改革をする大人のビューティーサロン「KAWABE LAB」を運営。サロンは予約制で、娘のちがやさんと共にアドバイスを行っている。
川邉サチコさんの著書『カッコよく年をとりなさい グレイヘア・マダムが教える30のセオリー』は、グレイヘアの育て方からおしゃれのコツ、川邉家に伝わる美容法まで、生き方から暮らし方まで大充実の内容!この1冊で、これからのおしゃれ人生が変わります。
「白髪染めは、3年前にやめたんです」
東京渋谷の閑静な住宅街。美容家の川邉サチコさんのサロンは、私道のような脇道の突き当たりにあります。
「わかりづらい場所でしょう。初めて来る人はたいがい迷子になるのよ」
そう言いながら出迎えてくれた川邉さん。瞬間、目を奪われたのは、バレッタで無造作にまとめられた白髪です。
「白髪染めは3年前にやめたんです。髪色が明るくなっただけでメイクも着るものも変化して、また新たな自分を見つけた感じ。それに街中で『すてきですね』って若い人に話しかけられたりして、楽しいのよ」とにっこり。
眼鏡を鼻先にかけて目を細める姿は、まるでパリのマダムのようですが、川邉さんは生まれも育ちも東京下町。テンポのよい口調は、江戸っ子そのものです。
「私はずっと白髪をアッシュ系ブラウンに染めてカッコいいおばさんのつもりでいたんですが、あるとき娘(美容家の川邉ちがやさん)から『もうイケてないよ』と言われて(笑)。だからってわけじゃないけど、白髪にしたら自分がどう変化していくのか、試してみようと思ったの」
そこから現在の髪型に至るまでには、長い道のりがあったと振り返ります。
最初の難関は、染めた部分と伸びてきた白髪との境目が目立ち始める頃。この時期に周りから「老けて見える」「変よ」と言われ、また染めちゃおうかな……とめげてしまう人が多いそう。川邉さんは、「『私の好きでやってるんです!』と開き直って乗り越えた」と言います。
そして半年後。めげずにがんばって全体が白髪になった時、予想外の事態に。
「真っ白な美しい白髪になるのを楽しみにしていたのに、私の白髪はかなり黄みがかっていたんです。それまでは゛白髪=自然でエレガント”というイメージだったけど、私の場合は、自然なままの白髪だとおしゃれじゃないなと思ったの。それで(美容師の)お弟子さんに真っ白にしてほしいと頼んだら、なぜかピンク系のブロンドヘアに染まっちゃって(笑)。みんな大受けでした」
そんな紆余曲折を経て、黄色みを生かした今の髪色と、ふんわりとしたロングスタイルに落ち着きましたが、「これで満足しているわけではない」と川邉さん。
「次に挑戦したいのは、明るい髪色だからできるセミショートヘアね」と、楽しげにさらなる構想を語ります。
転機が訪れたのは15年前。親子でサロンを経営
物心ついた頃から絵を描くことが好きだった川邉さんが、美容の世界に入ったのは23歳。
「美大を出て嫁いだ先が老舗の美容家の家だっただけ」と言いますが、「義母に連れられて訪れたパリで、メイクアップスクールに入り、“立体の顔にペイントするメイクって面白い!”と思ったのがきっかけ」でめきめきと腕を磨いていきました。
当時はヘアとメイクを両方できる存在は珍しく、国内外のファッションデザイナーのショーや、広告、舞台、映画でヘアメイクを担当。モデルの山口小夜子さんに施した東洋的なヘアメイクやデビッド・ボウイ来日公演時の「ムーン・メイク」など、川邉さんの仕事の数々は今も語り継がれています。
私生活では35歳で離婚。南青山や乃木坂に自らの店を開き、仕事を続けながら一人娘のちがやさんを育てました。
転機が訪れたのは15年前。母の介護のために店を閉じ、小さなサロンを開くことにしたのです。
目指したのは、「いくつになっても健康で美しくいたい」と願う女性たちを、ヘア、メイク、ファッションまで応援するサロン。母親と同じ道に進んだちがやさんも一緒に仕事をすることになりました。
健康で美しくいたい女性たちを応援
川邉さんのサロンでは、時間をかけて一人一人の生活環境や悩みを聞き、肌や髪、着るもの、そして心の状態にも注目します。
そこで見えてきたのは、年を重ねた女性たちが自分に自信が持てず、「なるべく目立たないように……」と控えめなメイクやファッションに流れ、自分の個性を見失っていること。また、肌や髪を美しく保つ方法や化粧品の選び方など基礎知識が不足し、老化とうまく付き合えていないこともわかりました。
「料理もおしゃれも基礎がなければ応用が利きません。だからサロンでは基礎的なテクニックからメイク用品の新しい情報まで、その方に合わせてお伝えします」と川邉さん。
「おしゃれは本来、心を明るくしてくれるもの。メイクやファッションを少し変えるだけでワクワクするし、“キレイ!”と感じると気持ちにスイッチが入るんです。落ち込んだ顔でここに来られた方が、スイッチが入ってハッピーな顔をして帰られる姿を私はたくさん見てきました」
意識的に楽しみながら 工夫をしながら
8月某日。川邉さんのサロンで不定期に開かれているメイクセミナーで、まさに゛スイッチが入る”瞬間を目の当たりにすることになりました。
その日の参加者は、30~70代の7人の女性たち。川邉さんとちがやさんを囲んでメイクの悩みを話し合った後、一人ずつ鏡の前に座ってレッスンを受けます。すると突然、ちがやさんに眉を描いてもらった参加者が泣き出したのです。
「いつも眉のせいで寂しげな顔になってしまって、どうしていいかわからなかった。今、先生に眉を変えてもらったら、やっと自分らしい顔になれた。それがうれしくて……」
そう言ってすがすがしい涙を流す女性に、みんなも思わず拍手。川邉さんは「自分の顔を知っているようで、知らない方が多いんです。一歩踏み出せば、誰でも美しくなる扉を開けられるんですよ」と語りかけました。
上手に年を取るって、前向きに日々を楽しむこと
その自らを律する意識は、朝の習慣にも表れています。まず、起きたらベッドで軽くヨガをし、近所を40分ウォーキング。帰ったら洗顔です。
「蒸しタオルを当て、氷水で洗うのを交互に2回繰り返す。肌の代謝がよくなり、気持ちも上がるんです」
次にするのは朝食の準備。季節の野菜と果物で作ったスムージー、コラーゲンとハチミツを加えたヨーグルト、それにトーストとコーヒーが定番メニューです。
一人暮らしの川邉さんは朝食も一人で食べますが、必ずランチョンマットを敷き、ナイフ、フォーク、スプーンをセッティング。優雅に食べることを楽しみます。
「上手に年を取るって、人の目より自分の目を磨いて、老いていく自分を直視しながら、前向きに日々を楽しむことじゃないかしら」
これからも、川邉さんの生き方は、決してぶれないに違いありません。
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部) 撮影=キッチンミノル
※この記事は、「ハルメク」2016年11月号の「知恵あるひとを訪ねて」を再編集、掲載しています。
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