エッセー作品「限界野菜」甲斐てい子さん
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第3期第1回
エッセー作品「雨音」いぬいみきさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「なるべく」です。いぬいみきさんの作品「雨音」と山本さんの講評です。
エッセー作品「雨音」いぬいみきさん
雨音
ありがたいことに今年もすっぽり雨模様。
海中では地上の10分の1の速さで時が過ぎることは、かの浦島太郎が伝えたとおりであるが、ここ、天空においてもそれは同じである。
地上を見ていたらかわいい赤ん坊が生まれ、あっという間に歩き出し、1年ですっかりやんちゃな少年に成長する。
人間世界のなんというはかなさ。
そんな人々の生き死を見続けながら、今年もまた7月7日を迎えた。
幼い子どもの短冊に込めた願いはいつの時代もほほえましく、若い2人の恋の行く末を願う言葉には多分、私たち2人の姿を重ね合わせているに違いないと思われる節があるが、当の私達はこんなに歳をとり、あちらはどうだか知らないが、私はもう、カササギ橋へ行くことすらも億劫になってきた。
けれども長年の習性で、7月7日になると、とにかく出かけようとある種の義務感が湧いてくるのだ。さて、よっこらしょ。
実は私の父が亡くなった後、しばらく2人で暮らしたのだった。
カササギ橋のたもとに家を建てて、仔犬を飼い、古い暖炉も揃えて。
けれど不思議なことに、あの頃のように仕事をさぼってまで一緒にいたいと思う情熱はすっかり冷めていたし、お互い仕事に追われ、すれ違いが続く日々でなかなか共に過ごす時間は取れなかった。
数人の弟子を取り、より質の高い織物を求められ、手いっぱいの私にできたのは、以前の生活に戻さないかという牽牛の提案をすんなりと受け入れること。
それは私自身が心の奥底で望んでいたからで、彼にそう言わしめた私は、ずるい。
けれど結局、私たちの選択は正しかった。
こうして1年に1度、カササギ橋で逢う姿は悲しくも美しい物語を何百年もの間、人間界に語り継がせ、私たちの(少なくとも私の)長年にわたる愛情の持続にもつながった。
7月7日。あんなに駆け急げた私の足もすっかり弱って1歩1歩踏みしめながらしか歩けなくなり、牽牛への燃えるような思いもいつの頃か穏やかな労りの気持ちへと変わった。
牛飼いのたくましい身体は、今や見る由もないし、私の自慢の黒髪は銀髪に変わってしまった。
雨。
地上から年老いた私たちの姿は見えない。
私たちもお互い蛇の目越しにしか相手を見ない。
いつの頃からか、カササギ橋の中ほどで立ち止まって話をするのが2人のスタイルになっている。
それもだんだん距離が広がってきたようだ。
来年も叶うなら雨がいい。
もしどちらかが来られなくなっても、蛇の目に跳ねる雨音が無言の時間を辛く感じさせないだろうから。
山本ふみこさんからひとこと
七夕がめぐってくるたび、ぼんやりといろいろの想像を繰り返してきましたが、一つの答えを天の川方面から与えられる思いがしました。
これを読まれた講座のみなさんは、このかたちもエッセーであるのか、と驚かれるかもしれません。エッセーと小説の境界線、あるいはまた、コラムや評論との違いなど考えず、自由にお書きください。
それをお伝えする意味でも、「雨音」を発表できること、ありがたく思っています。![]()
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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ハルメク旅と講座
ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪
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