25歳でがんを経験した53歳女性が10年の闘病でたどり着いた食養生
がんと診断されてからの生き方
落合恵子さん81歳「がんになっても自分で選ぶ」心が揺れる日々と今の思い
2023年、78歳で小細胞肺がんと診断された落合恵子さん。著書『がんと生ききる 悲観にも楽観にも傾かず』には、生き方も治療も“自分で選ぶ”と決めた日々が綴られています。「元気になりたい」と「もういいや」の間で揺れる思いを伺いました。
INDEX
落合恵子さんのプロフィール
おちあい・けいこ 1945(昭和20)年栃木県生まれ。作家。文化放送退職後、子どもの本の専門店「クレヨンハウス」と女性の本の専門店「ミズ・クレヨンハウス」、オーガニックレストラン等を、東京と大阪で主宰。主な著書に『母に歌う子守唄』『質問 老いることはいやですか?』『明るい覚悟』、長編小説『偶然の家族』『泣きかたをわすれていた』『わたしたち』など多数。
※取材は2026年1月に行いました。
落合さんの思いが形になった絵本専門店「クレヨンハウス」
お会いしたのは、落合さんが50年前に開いた絵本の専門店「クレヨンハウス」東京店。
2022年に表参道から吉祥寺に移転し、すっかり地域になじんでいます。子どもの絵本や木のおもちゃが並ぶのは2階。1階はオーガニックの野菜や食材のマーケットとレストランです。人はみな、読んできたもの、出会った人たち、食べたものでできている――そんな思いが形になった空間です。
78歳で小細胞肺がんと診断。「これから」を自分で選ぶ
落合さんはレストランの一角に腰掛けて、言葉を探すように話し始めました。
「今思えば、70代前半に身体の変化がありました。もともと暑がりだったのに、あるとき襟足が寒くなって、真夏でも寒気を感じるようになりました。同じ頃に帯状疱疹も。他でもない私の身体が、私に何かを伝え、教えてくれていたのかもしれない。でも残念ながら、そのときは目をそらしてしまいました」
それから数年たった23年、落合さんはステージ3Aの小細胞肺がんと診断されます。増殖が速く、転移しやすいタイプでした。
「動揺した裏返しかもしれないけど、最初は『ああ、そうですか』という感じでした。冷静に丸ごと受け止めなければ、という思いが先行したのかもしれません」
診断を受け、落合さんはすぐに周囲に知らせることはせず、ひとりの時間を選びます。
「これからどう生きるのか、何より自分に問いかけて、一つ一つ自分で選びたいと思いました。後から『あのとき、あの人が言ったから』と悔やむのは失礼だと思ったからです」
がん治療で「おまかせします」と言わないと決めた理由

病院や医師をどう選ぶか、治療をするかしないか――落合さんは「おまかせします」と言わないと決めました。かつて、母や親しい女友達の治療や入院に付き添った際、普段は強い彼女たちが何も言えないまま、後になって悔やむ姿を見てきたからです。
「『おまかせします』でスムーズにいけばいいのです。でも私はわからないことは聞いて自分で選択してきたので、病気になっても同じ路線の上に生きようと決めました」
ただし現実は簡単ではありませんでした。
「ノートに質問を書いて診察に臨んでも、医師は忙しいし、ドアの向こうで他の患者さんが待っていると思うと、自分だけ長居してはいけない気がしてのみ込んでしまう。聞きたいことを聞けないまま『お大事に』と見送られるのは、とても残念でした。
一方で、食事をとれず、夕方にコンビニで昼食の買い物をする医師たちを見る。患者も医師もどっちも大変。一番聞きたい『いつ、私は死ぬのでしょうか』は、最後まで聞けませんでした」
がん患者同士でメロンパンを半分こ。入院中に知った幸せ
セカンドオピニオンを経て、落合さんは抗がん剤と放射線による治療を選択。入院生活では、思いがけない気づきがありました。
「がんを得たことで、なぜか少女時代に戻ったような女性たちにたくさん会いました。例えば、がんには糖分のとり過ぎもよくないとわかっているけど、食べたい……だから売店で買ったメロンパンを患者同士で半分こして食べたり。
抗がん剤で髪の毛がなくなって、おそろいのバンダナをしたり。みんなが気取ることなく互いのことを大事に思う瞬間を、入院の日々の中でいくつも見ました。せつなく、けれどやすらかな時間でした」
放射線治療の待合室では、受付の女性が、父親の最期を話してくれたそうです。抗がん剤も放射線も合わなかった彼女の父は、標準治療から脱落。
漢方の医師に相談しながら3年を元気に過ごし、亡くなる前の晩、娘や孫に「そんなにたくさんはいらない、いい友達3人と、好きな本を3冊、見ているだけで心が穏やかになる樹が3本あればいい」と告げたといいます。
「かっこいいお父さんですよね。父親の最期からこんな素晴らしいことを学べるなんて。私は父親がいなかったから、とてもうらやましかった」と落合さん。
「私なら、それぞれの季節の好きな花が3つ、好きな樹が3本、それから大好きな絵本が3冊あればいいかな」と話した後、こう付け加えます。
「それからね、心から『ありがとう』って言える人がどれだけいるか。あなたがいたから、今日私はここにいるんだって思える人がいることが最も大事だと思う」
「元気になりたい」と「もういいや」。81歳の今の本音
落合さんのがんは脳に転移しやすい傾向があり、予防のために医師から脳への放射線照射をすすめられたといいます。しかし、落合さんはそれを断りました。
「今決めないことで、再発や転移のリスクがかなり高くなったとしても、仕方がない。そのときに、私なりの選択をしたいと思いました」
入院から2年半たち、2026年1月15日に81歳になった落合さん。
「80歳を過ぎて、元気になりたい自分と、もういいやと思う自分と、正直、両方います。そんなふうに揺れている自分もちゃんと抱きしめてあげたい」
最後に、読者へ「伝えたいのはたった一つ、あなたの人生であり、あなたのいのちだから、大事にしてください」と語りかけます。
「私の好きな言葉に『今日は、残りの人生の最初の一日』があります。70歳でも80歳でも私たちは毎朝、最初の一日を手にしている。その視点を忘れないでください」
50周年を迎えた絵本専門店「クレヨンハウス」の魅力

1976年、東京・神宮前で10坪の店舗からスタートした「クレヨンハウス」。2022年に吉祥寺に移転し、2026年で50周年を迎えました。
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-15-6
※大阪店(大阪府吹田市垂水町3-34-24)もあります。
がんと向き合い、自分で選んだ日々を綴る落合恵子さんの著書

『がんと生ききる 悲観にも楽観にも傾かず』朝日新聞出版刊/1760円
がんと診断された直後からいくつもの選択に直面します。病院の選択、医師の選択、治療法の選択、食べもの、代替療法……。「すること」と「しないこと」を一つ一つ決めていった落合さんの体験を率直に綴った本です。
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部) 撮影=中西裕人(本)
※この記事は、雑誌「ハルメク」2026年3月号を再編集しています。
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