【Up select】オトナ女性が着回せる秋服
おしゃれ賢者に聞く50代からのファッション流儀
美木ちがやさん「人生つらい時ほどおしゃれを」装いは自分を生きるツール
「もうこの歳だし…」とおしゃれを諦めていませんか?介護の時期を支えた装いの力から年齢による変化の向き合い方まで。トータルビューティデザイナーの美木ちがやさん(63歳)に、人生後半を輝かせるおしゃれと美の切り拓き方を伺いました。
INDEX
美木ちがやさんのプロフィール
みき・ちがや 1963(昭和38)年東京生まれ。トータルビューティデザイナーとして雑誌等で活躍。東京都・渋谷で完全予約制サロン「KAWABE LAB」を運営。母・川邉サチコさんとともにヘアメイク、ファッションのトータルアドバイスも行う。 ハルメク本誌で10月号より新連載もスタート!
これからは肩書きを外して「自分」を生きる
生徒さんやお客様に、60歳を過ぎたら、もう母でも娘でも、「〇〇という肩書き」でもなく、一人の「自分」として生きた方が楽でもっと楽しくなりますよ、とお伝えすることがあります。そうすると、みなさん「ぎょっ」とされるんですよね。「それってファッションや美容と関係あるんですか?」って。
あのね、大アリなんです。
私たち世代にとって、ファッションや美容は単なる飾りではありません。「自分をどう生きるか」を表現するツールです。だから私は、「装いをなめんなよ」と思うんです(笑)。それくらい装いには人生を変える力があります。
「メイクはずっと同じ」「口紅もいつもの一本」「眉も何十年も同じ形。それで何が悪いの?」という人もいます。でも私は、「本当にそれが今の自分に合っていますか?」と問いかけたくなるんです。
もちろん、無理に変わる必要はありません。でも、「もっと素敵になりたい」「今の自分に似合うものを知りたい」と思う人は、やっぱり伸びしろがあります。
おしゃれだけじゃない、生きることそのものに対する勘がいいんですよね。
だから私は、「変わりたい」と思う人には、いくらでも力になりたい。装いは、その人の人生をもっと豊かにする入り口だと信じています。
つらい時ほど「ちゃんと」する。介護の日々を救った服の力

とはいえ、生きていると、自分に興味を持つ余裕すらなくなる時期ってありますよね。
実は私も、数年前まで、叔母の介護を一人で、数年間にわたって抱え込んでいました。「いつまで続くんだろう」「この先どうなるんだろう」。誰にも頼れず、不安でしんどくて、叔母や姉である母と不仲になった時期もありました。
でも、そんな苦しいときこそ、私はあえて「ちゃんとおしゃれをして外に出る」と決めていました。
病院へ行く日は、「今日は何を着ようかな」「帰りに何かおいしいものを食べよう」と、少しでも楽しみを作って身支度をする。しんどいときこそ、メイクをして、耳元にはキラッと光るピアスをつける。
すると不思議なことが起こるんです。病院の待合室で「その服、素敵ね」と声をかけられたり、抗がん剤治療の日に叔母を見舞うときも、母と二人で明るく装って行くことで、病室の空気がパっと華やいで笑い合ったりもして。
服やメイクは、自分の弱った心を引き上げてくれるお守りであり、周りの人にも明るいエネルギーを与えてくれるもの。だから私は、つらい時ほど「装いの力」を借りてほしいと思うんです。
心が疲れ切ってしまったら、一旦休んでいい。でも、そのままにせず、復活させること。少し元気が戻ってきたら、リップをひと塗りしたり、ネイルを整えたりしてみてください。
手や唇など毎日目に入る場所をいたわることは、自分を慈しむ第一歩。そんな小さな積み重ねが、装いに気持ちを追いつかせ、心のスイッチを少しずつ前向きにしてくれます。
シミもシワも「ついにこの状態がきたか!」と楽しむ

日々、鏡を見ながら「シワが増えた!」「このシミどうしよう〜」なんて思うことは、美容の仕事をしている私にだってしょっちゅうあります(笑)。
実は私、幼い頃からコンプレックスだらけ。髪もスタイルも、「もっとこうだったら」と思うことはたくさんありました。
でも、「嫌だな」と悩むより、「じゃあ、どう魅せよう?」と考えるクセをつけてきたんです。
だから今も、年齢による変化を「もう60代だから」と諦めるのではなく、「ついにこの状態がきたか!どう攻略しよう?」と面白がるようにしています。
気になるシミやイボがあるなら美容医療の力を借りてもいいし、お手入れを工夫したっていい。大切なのは周りと比べることではなく、「今の自分をどう魅力的に見せるか」という視点です。
流行や年齢に振り回されるのではなく、その時々の自分に心地よい選択を重ねていく。それが、私にとって本当の「きちんとする」ということなんです。
「自由さとエレガントさ」を纏う、今一番私らしいスタイル

そんな私の「今、一番自分らしい」と思えるスタイルがこれです。
今季ひと目惚れした「BOURRIENNE(ブリエンヌ)」のユニセックスなシャツに、大好きなデニムを合わせて。「BOURRIENNE(ブリエンヌ)」はフランスのジェンダーレスなシャツブランドで、お気に入り。サラッとしたリネンの肌触りと、どこか中世を思わせる袖口の繊細なフリルが上品で、一枚羽織るだけで絵になります。
先日、パリで実際にブリエンヌさんに取材撮影をさせていただき、よりブランドストーリーを理解してから着る醍醐味を実感しました。
動きやすさという「自由さ」と、大人の品格という「エレガントさ」。その両方がしなやかに共存する、まさに今の私を象徴するコーディネートです。
自分軸を持つ母・サチコさんと、私のこれから
私のこうしたマインドの背景には、やっぱり母(美容家・川邉サチコさん)の存在も大きいです。
母は本当に自分の軸がしっかりしている人。「これ流行っているから着てみたら?」と言っても、「私は嫌」と絶対に流されない頑固さがあります(笑)。たまに「えっ!」と驚くような服を着ていたりもしますが、そういう互いの軸を持ったやり取りがすごく面白くて。
いくつになっても自分だけの軸があれば、どんな時代が来ても、体が変化しても、軽やかに生きていけるんだと母を見ていても感じます。
私も、これからもっと「変化していく自分」を楽しんでいきたいですね。
そして今、以前より心が動くのは、「誰が、どんな思いで作ったものなのか」が見える服です。ブランドや価格だけでなく、作り手の思いに共感して選ぶ一着には、ストーリーごと身にまとうような豊かさがあります。
若い頃は「何を着るか」を楽しんでいました。でも今は、「誰の思いに共感して選ぶか」まで含めて、おしゃれを楽しめるようになりました。
だから私は、これからも自分の軸で選び、自分らしく装って生きていきたい。装いは、自分を生きるための、一番身近なツールなんです。
取材・文=長倉志乃(HALMEK up編集部) 写真=中田陽子
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