山本ふみこさんのエッセー講座 第9期#6「言葉探しは続いていく」
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第9期第6回
今月のおすすめエッセー「あたたかきもの」前田元子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。第9期も6回目、さいごのテーマは「駅」です。前田元子さんの作品「あたたかきもの」と山本さんの講評です。
今月のおすすめエッセー「あたたかきもの」前田元子さん
あたたかきもの
伸びっぱなしの梅の枝先が水をふくんだ雪の重みでおりてきて地上に積もった雪に接している。このたびの雪は水気が多くて降っては溶ける。
それでもたてつづけに降るものだから雪はやはり積もっていく。降りつづいた雪で家が取り囲まれると、家のなかは冷蔵庫に等しい。暖房をしていても普段よりも寒く感じる。あまりにも寒いので湯気のたった温かいものでお昼ご飯にしようと、冷え切った台所で小さなストーブを足元におき、鍋で湯を沸かす。ごぼう、白菜、にんじん、頂き物のえび芋、豚肉の残り、酒粕など有り合わせの材料を全部放り込んだ。湯気があたりにたち込めて台所がだんだん暖かくなってきた。
どこかでこんな場面があったなあと思いめぐらす。
ストーブの上に置いた金のタライから湯気が音をたてて立ちのぼっている。薪のストーブはこれでもかというほど赤々と燃えている。あたりには半分濡れたコートや服を着た人が行きかっている。その人たちからも湯気が出ている。やっと声をだす気になれたというような声高の声が聞こえてくる。ストーブのそばに行って手をかざし手袋をとって赤くなった指を見る。売店のおばさんが声をかけてくれた。緊張がゆるむ。
2キロばかりの雪道を轍のあとをたどって歩いてきた。なぜそんな時期に行ったのか記憶にないが母の実家からやっと駅までたどり着いたのだ。薄暗くなり吹雪だした道を歩くのは心細かった。いつもは送ってくれる年上のいとこもこの日ばかりは送ってくとは言ってくれなかった。一緒に来てほしいと思ったが、それが無理なのはなんとなくわかった。母のコートの裾を見ながら黙って歩き続けた。小学生になるかならないかの頃だったろうか。足元めがけて斜めから降りくる雪がふわりふわりと地面に吸い込まれていく。このまま雪道をずっと歩き続けるのだろうかと思い始めた時、駅が見えた。オレンジ色の灯りと湯気を立ちのぼらせているストーブのある駅は暖かく、別天地、天国のようだった。
2025年2月、久方ぶりの寒波で雪に封じ込められた。今は、雪が降れば1日中閉じこもっていることに決めている。窓の外の止みそうにもない雪を見ながら暖かい湯気に包まれた場所にいる、それだけでよき日だ。
山本ふみこさんからひとこと
まず、書きだしがいいなあ。
声に出して読んでみてくださいまし。それが伝わると思います。詩的で、こころがふるえます。
「詩的で、」とあたりまえの顔をして書きましたが、詩は、とても大事です。
「前田元子」という書き手は、日頃から、詩に近しく暮らしておられるのでしょうね。
ほら、ここも。
ストーブのそばに行って手をかざし手袋をとって赤くなった指を見る。売店のおばさんが声をかけてくれた。
見習って、もう少しだけ詩を意識して暮らしたり、思いめぐらしたり、書いたりしようではありませんか。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。
■エッセー作品一覧■
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