東京理科大オープンカレッジ

2019年08月07日

薬品と化粧品の違い、界面活性剤の仕組みなど

開発者が教える、知っておくべき化粧品の原料の基本

東京理科大のオープンキャンパスレポート第2弾は、化粧品の原料について。毎日使っているのに実はよく知らない「化粧品は何でできているのか」、花王株式 会社の化粧品開発研究者である早瀬基さんの講演から学びます。日々の化粧品選びに役立つ情報です。

医薬品と化粧品の違い、化粧品の材料とは?

女性にとって、生活必需品とも言える化粧品。ところで、医薬品と化粧品の違いを正しく理解していますか?

「医薬品は悪い状態(病気)を普通(正常)にするもの。‟効果”を訴求でき、その効果を実現するための有効成分を配合しています。製造・販売には厚生労働省の個別認可が必要で、認可を受けた原料しか使うことができません。一方化粧品は、良い状態を保つ、もしくはより良い状態に導くもの。乾燥や紫外線から肌を守るというような‟性能”が求められます。製造・販売は届出のみでできるので、化粧品の原料は一部*を除いて制限がないと言ってもいいでしょう」

化粧品の原料については早瀬さんでも「どのくらいの種類があるのか不明」で、成分表示などで見かける「○○種子」という文字が成分名に入っているものだけでも、数百種類も存在するとか。

こう聞くと、化粧品には何を入れてもいいの!?  とまるで無法地帯に思えて不安になってしまいますが、「だから危険」ということにはならない、と早瀬さん。

「化粧品は保管環境、使用期間、用法や容量が厳密にコントロールされていないので、むしろ変臭や変色、変質しないような高い安定性が求められます。また、刺激や毒性やなどの安全性試験がしっかり行われています。むしろ原料に制限がないからこそ、多種多様な化粧品が作れるとポジティブに考えてください。

エーデルワイス

例えば、アルプスに咲いているエーデルワイスをアルプス水で抽出したエキスのような、特定の高原植物の抽出物など入手困難な素材や高価な素材、他の工業原料としては使いにくい素材が使えるのも、化粧品だからこそなのです」

使う原料への制限がない分、化粧品には配合する成分すべてを表示することが義務付けられています。この全成分表示は、肌トラブルが生じた場合に原因の究明や対処の手がかりになる重要なもの。だからと言って、一般消費者がこれらを細かく理解する必要性は小さいと早瀬さんは言います。

「化粧品表示名称は化学物質名・薬事名称と異なることがあります。また、同一名称で性能が異なることもあり、どのようなものかを判断するのが難しいものも。今は消費者の意識が高く、自分が使うものをより深く知りたいと思う人が多いようですが、化粧品を使うのに必ずしも成分表示を正確に理解する必要はないでしょう」

*‟ネガティブリスト”非収載(毒性の報告される植物など)で、‟ポジティブリスト”制限内(濃度など使う範囲を限定)など。医薬品の原料であっても、昔から使われている原料は使用実績があれば使うことができる。

化粧品は水と油、界面活性剤でできている

界面活性剤によって化粧品が変わる

では、化粧品は何でできているのでしょうか?

早瀬さんによると、化粧品を作るときは、原料を大きく2つに分類して考えるそう。1つ目が、その化粧品の製剤の骨格を形成するためのもの。クリームなのか、液体なのか、目的に適した形状にするためです。2つ目は機能や作用を与えるもので、それぞれに適した素材があります。

また化粧品の成分は、水、油、界面活性剤、その他の主に4つに分類されます。化粧品に使われる水は精製水です。水は“なまもの”で、硬水や軟水など産地によって質が異なります。酒は水で変わる、と言われるのはそのため。ですが、化粧品に使われる水の多くは不純物を取り除いた純粋なH2Oなので、基本的にどこの水を使っているかは関係ないそう。

油は植物油から動物油、鉱物油(ミネラル)などさまざまで、柔軟性、抱水性、UV吸収、抗酸化などの機能性を与えたり、感触の改良にも欠かせない物質です。

「水と油は相性が悪く、互いに混ざり合わない物質ですが、界面活性剤を加えることで例えば、エマルジョンという乳化した状態になり、分離していない白く濁った液体になります。水と油が分離した製品を振ると混ざるのも、この界面活性剤のおかげなのです」

界面活性剤は肌に悪い?

RMK「Wトリートメントオイル(オイル状美容液)」
RMK「Wトリートメントオイル(オイル状美容液)」。上の液体部分と下の黄色い油分との境界に界面活性剤が存在します。

ところで、界面活性剤は肌に悪いものと思っている人が多いようですが、それは誤解だと早瀬さんは続けます。

「界面活性剤は水にも油にも親和性を持つ物質で、両親媒性物質ともいいます。化学的に加工していないものから、石油系のものまで多くの種類があり、肌に優しいものから使い方や入れ方を間違えると肌にダメージを与える場合があるものまでさまざまです。多種多様な界面活性剤のうち、化粧品に使われるのはマイルドで肌にやさしいタイプのもの。そもそも界面活性剤の中には体の中にも存在するものや、食品にも使われているものがあります。一概に悪者とは言えないのです」

界面活性剤は「製品の特徴やテクスチャー、使い心地にも大きく関わってくる重要なもので、沈殿を抑制したり防腐の機能も期待できる」と早瀬さん。

「加える界面活性剤によって、水中に油が浮かんだ親水型、油の中に水が浮かんだ親油型という異なるエマルジョンができます。どちらも肌をうるおせわせるものですが、親水型は肌に水分を与える効果に優れ、油の多い親油型は水分を逃さない効果が大きい傾向があります。一般的にいううるおいは、水分を与える力に優れたものを、モイスチャー、水分を逃さない力の優れたものをエモリエントといいます。

この違いは肌にのせた時の感触やのせた後のベタつきな、のび(粘度)や肌馴染みにも影響します」

また、同じエマルジョンでも、配合する成分によって性質の異なる化粧品になります。

化粧品は嗜好品。感触・香りの良さは必須!

化粧品には「皮膚の水分、油分を補い保つ」「日やけによるシミ、ソバカスを防ぐ」などのほか、最近になって「乾燥による小ジワを目立たなくする」が加わり、56の効能・効果が認められています。

薬用化粧品(医薬部外品)では「シワを改善する」効果が認められていて、ここ3年の間にポーラ、資生堂、コーセーから商品が発売されています。


これらの性能・効果を実現するためだけでなく、化粧品の原料選びには使用感への影響も重要だと早瀬さんは言います。

「薬なら嫌な匂いがしたり、塗ってベタベタしても我慢して使いますが、化粧品の場合は性能が優れていても使用感が悪いと使ってもらえません。そのため化粧品には、気持ち良く使える感触や香りなどの嗜好性も重要な要素となります。

椿油のイメージ

例えば化粧品に配合されている椿油のエキスも、椿の種から搾ったものをそのまま使うと匂いが変わってしまうため、特別な精製をしたものが用いられます。このように安全・安定・嗜好を満たす工夫がされています」この嗜好に大きく影響するのが、水、油、界面活性剤とともに「その他」にあたるもの。賦香や原料臭などの嗅覚、キメやツヤ、色や透明感などの視覚、肌触りなどの触覚にアプローチし、嗜好性を追求します。

「どんな香りをどのタイミングでどのように感じるよう配合するか、また色などの見た目も大事です。感触は界面活性剤などの質・量によっても変わりますが、さらっとさせるにはシリコーン粉体、スッキリさせるにはメントールなどの清涼剤などを配合します。

例えば夏用乳液であれば、水にUVカットをしてくれる油、その油を乳化する界面活性剤をベースに作ります。夏向けのさっぱりとした使用感にするためにはアルコールを入れ、保湿剤もベタつかないものを選びます。肌でパシャッとした方が気持ちいいから「清涼感」の成分を配合し、夏らしい色や香りづけを。品質を保持するために防腐剤・保存剤も必要ですし、肌を保湿するための成分なども配合します」

マイクロプラスチックは禁止に!化粧品原料の今後の課題

マイクロプラスチックのイメージ


化粧品には性能を生み出すため、多種多様な原料が用いられています。ですが、グローバル化の進む現代においては多くの課題がある、と早瀬さん。

「自然由来の原料は、天候の影響を受けることもあり、広大な農場が必要となることから環境破壊につながると懸念されています。また、社会的背景によって使われなくなる原料もあります」

例えば、マイクロプラスチック。ペットボトルやストローといった石油を原材料とするプラスチックを利用した商品のゴミを減らすのが、世界的に課題になっています。化粧品においては、洗顔料やスクラブなどにマイクロプラスチックが用いられていましたが、海洋環境に悪影響を及ぼすとされ、業界基準で使用禁止になりました。

「また化学燃料由来の原料は埋蔵量の限界により将来的な原料枯渇も心配されますし、化粧品の市場は世界規模であるため、日本だけでなく諸外国の薬事規制や考えに合わせた原料選びが必要です」

そんな中、今後持続可能な化粧品素材として期待されているのが、発酵生産物だそう。

化粧品の今後

「発酵生産物は、タンクで培養できるので気候の影響を受けにくく、大量生産できます。もともと日本は湿度が高く発酵に必要な微生物資源が豊富という土壌があり、日本酒や味噌などの環境制御発酵、アミノ酸などの代謝制御発酵などの技術に長けています。体の中にある生体脂質を界面活性剤として使うなど、技術を融合させることで、より優れた原料を作り出す研究開発が進んでいます」

日々当たり前のように使っている化粧品は商品の処方だけでなく、原料レベルからさまざまな工夫がされて作られていると知り、その奥深さにびっくり。年を重ねると、肌悩みは増える一方。原料がより進化を遂げ、地球にも肌にもやさしく、性能と嗜好性の高い化粧品ができれば、肌悩みから解放される日がやってくるかも? これからの化粧品の展開に期待したいですね。

 

教えてくれた人

早瀬 基

早瀬 基
花王株式会社 研究開発部門
1990年神戸大学大学院農学研究科修士課程終了。同年4月鐘紡株式会社入社生化学研究所配属。1992年同化粧品研究所へ異動し、現花王株式会社スキンケア研究所に所属。

 

東京理科大学のオープンカレッジは、一般の方も聴講が可能です。興味のある方は、公式ホームページでチェックを。次回は、国立医薬品食品衛生研究所 小島 肇さんによる講演、化粧品とアレルギーについてお伝えします。

取材・文=田中優子

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HALMEK up編集部
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