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- 画家・丸木俊が「原爆の図」で伝えた戦争の愚かさ
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、画家の「丸木 俊」さん。人間が人間やすべての生き物を傷つける戦争はなぜ起こるのか…戦争の正体について考える日々とは…。
好きな先輩「丸木 俊(まるき・とし)」さん
1912-2000年 画家
海道生まれ。女子美術専門学校を卒業。1945年原爆投下後の広島に駆けつけ、3年後に夫・丸木位里と「原爆の図」の共同制作を開始。82年に全15部を完成させる。作品は他に「水俣の図」「沖縄戦の図」など。
人間が同じ人間を傷つけ、大事な日常を破壊する愚かさ
戦争はなぜ起きるのか。戦争というものの実体は何なのか。それを考えながら生きる必要があると、わたしはいま、考えています。
これは、丸木 俊(油絵)とその夫・丸木位里(いり/水墨画)という、ふたりの画家に促されて持つに至った意識です。
アウシュビッツ、南京、広島、長崎(ほか)……これらは第二次世界大戦において大虐殺を受けた地です。そこに暮らして、ころされてしまった人びとを供養する意味は、戦争はなぜ起きるのか……という、そこへつながってゆくのではないでしょうか。
画家の丸木俊は1945年、原爆投下の数日後、広島へ入りました。そうして、代表作「原爆の図」が、夫との共同制作によって生まれたのです(全15部の連作。それぞれ縦1.8×横7.2mの屏風仕立て)。肌を焼かれた人びと、折り重なって死んでいる人びとが描かれています。
その後ふたりは、戦争、公害など、人間が同じ人間、そしてあらゆる生物を傷つけ、何より大事な日常を破壊する愚かさを、生涯かけて描きつづけることとなります。
「原爆の図」を誰もが見ることができるようにと、埼玉県東松山市に「丸木美術館」は建てられました。ここはわたしにとっても、大事な大事な場所となっています。
「戦争はなぜ起きるのか」を考えながら生きる
このたび『女絵かきの誕生――原爆を描いた愛の自叙伝』(丸木俊)を読みました。このなかに、画家としての心境があらわれています。
ひとり描いてはゾッとし、ふたり描いては筆を止め、アメリカの行った残虐行為が、ゆるせなくなっていたのです。
また、国内外で批判にさらされたときのことも記されています。
「どうしてあのような残忍な絵を描くのだろう。あの画家は、残忍が好きなのかもしれない」という悪意の声です。
「原爆の図」が語る声に耳を傾けるなら……、聞こえてくるものがあるはずです。広島に原子爆弾を落とさせたものは何でしょう。各地で捕虜を虐殺させたものは何でしょう。その正体はいまも生きつづけているのではありませんか?
虐殺と破壊をしたりされたりした日本人として、わたしたちは……。
位里は後年、「わたしと俊が夫婦にならなかったら、『原爆の図』はなかったろう」と語っています。「夫婦になったばかりに」と。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2019年8月号を再編集し、掲載しています。
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